経営者インタビュー

English

『経営陣トップから全てのスタッフに至るまで、謙虚な姿勢を育てていく』 ~スリランカの私立学校運営者に聞く

2016年11月25日(金)14:16

(Sri Lanka/スリランカ)

 

Royal International School,
Mr. J. R. N. PEIRIS (Managing Director)
Sri Lanka

 

HIDAが提供する研修プログラムには、新興国を含む海外諸国から多くのビジネスパーソンが参加しています。対象参加者の職位は研修プログラムによって異なりますが、経営者層に向けたプログラムも提供しています。
 
今回、スリランカで英語教育を営む参加者にお話しをうかがいました。

 

 

-まず初めに、御社の会社概要についてご紹介ください。

 

ロイヤル・インターナショナル・スクールは、3歳から18歳までを対象とした教育機関であり、生徒数は約2,500人、設立年は1991年です。コロンボの北西およそ100 km、自動車で2時間程度の距離に位置し、教員は約210名、そして約40名の事務職員がいます。当校が提供しているものは英語による教育ですが、倫理や道徳等の文化的、伝統的価値も重視しています。

 
-会社を経営していく上で、どのような事を特に大切にされていますか。理念や方針など、大切にしていることを教えて下さい。
 
私は教育と社会政策について学んできたため、経営哲学にはあまり通じていないのですが、一つ述べるとすると、時代が変わり、事業が厳しい状況になっても、私たちは革新的な発想を通じて当校設立時の価値観に忠実であり続けるよう最善を尽くす必要がある、ということです。当校設立時の価値観は、手頃な料金の英語による教育を提供できることです。環境が急速に変化する中、比較的低い料金でのサービス提供の維持が困難になりつつありますが、当校では最近、自己資金で大部分をまかなう一連の奨学金制度を開始し、また代替収入源の獲得に向けて事業を多角化する方法を模索しています。端的に言えば革新的であり、多角化を目指しつつも、最も重要な価値観には忠実であり続けることです。
 
-自社事業を更に発展・成長して行く上で、成長の妨げとなっている課題はありますか?またその“課題”に対し、どのような手を打つべきとお考えですか?
 

現時点で喫緊の課題は、人材関連の課題です。一点目は優秀なスタッフを確保すること、二点目はスタッフを維持することです。一点目は、外因的な全国的問題であり、私たちにはどうすることもできません。二点目の問題は、生徒に手頃な料金の教育を提供するという当校のビジョンにも関係しています。競合他校は当校より料金が高いため、より高額の給与を支払うことが可能です。そのため、当校のビジョンを再考する必要性があります。別の課題は、学校内での仕事の役割、コミュニケーション・プロセス、手続きが十分に明確化されていない点だと思います。組織文化を変える必要がありますが、そのためには、スタッフの姿勢を変える必要があります。一部のスタッフは適正な賃金を得ていないと感じているため、それを行うのは極めて困難です。さらに、スタッフは伝統的な仕事のやり方(電子メールを使用しない文化、大変のんびりした方法)に慣れているか、あるいは経験がほとんどない状態で仕事を探している新卒者や義務教育終了者のいずれかです。こうした事情から、当校が職業人として働く私たちの姿勢を彼らスタッフに対して教えようとする際、多くの作業に取り組む必要が生じます。
 
スタッフを維持し、労働市場で競争力の保持に努めるという課題に対し、最も明白な方法は給与を引き上げることですが、私たちはすでにそれを開始しています。また、指導的地位にある者への報奨金の拡充にも取り掛かりました。これは懸命な努力をこれまで以上に認識し、評価するものです。しかし、これは当校の財務にとって負担となるため、2017年から学費を上げることを決定しました。手頃な料金の教育というビジョンに引き続き忠実であり続けるため、私たちは奨学金プログラムを拡大し、さらに財政的支援に向けて個人支援者を引き付けるように努力をしています。
 
より専門家的な環境へ移行する点に関し、取り組み方法の点で当校はこれまでより組織的になりつつあります。新たな手順が試行的導入を経て実施され、仕事の役割が再定義・説明され、そして低い階層にいる「優れた人材」が特定され、徐々にですが権限を付与されつつあります。

 

-現在の海外ビジネス展開状況を教えてください。

 

当校は、世界市場への直接的なつながりはありませんが、様々な場所で外国人ボランティアや教員を引き付けています。これは主に個人的なつながりによるものであり、現在、2名の英国人教員が非常勤で働いています。

 

-貴社ビジネスが属する自国におけるマーケットの状況について、スリランカの教育システムの紹介を含めて教えてください。

 

当校は、幼稚園(3歳~6歳)、小学校(6歳~11歳)、中等学校(12歳~18歳)の3部門に分かれています。国の制度では、一般に幼稚園の施設はありません。幼稚園は義務ではありませんが、職業訓練施設が広く利用可能でないため、小学校および中等学校は義務でとなっているのが一般的です。とは言え、国内の一部地域では、中等学校教育を中退してしまう子供たちが存在するのも事実です。多数の幼稚園施設が英語で教育を行っていますが、その質的水準は様々です。私自身が少々調べてみたところ、英語で教育を行っているのは、公立学校(小学校および中等学校)のわずか6.5%に過ぎません。したがって、英語教育における格差は、主に当校のような私立学校によって埋められています。将来、教育省が対策を導入することが見込まれますが、学校を監査する規制機関も、特に私たちを対象とした法律もないため、国内には様々な水準および料金体系の学校が多数存在しています。私たちは、クリケット競技会、ダンス競技会等のスポーツ事業など一部の政府開催行事に参加できません。そのため私個人としては、私たちが教員の指導者や生徒の機会等、国のリソースを利用できるのであれば、その対策を歓迎します。しかし政府は、新たな私立学校の登録を厳格化する規制を承認しました。
 
それにより、特に英語で業務を行う最大の部門が、民間部門・サービス部門であることを考慮すると、英語教育の必要性は深刻です。若い義務教育終了者のうち英語で読み書きができるのはごく一部に過ぎない、という新たな問題が国内で生じています。つまり、必要なスキルを備えた人々が最終的に労働市場に供給されなくなってしまうのです。こうした状況を踏まえると、スリランカでは私立学校の市場は収益性が高いのですが、私たちは学校として、需要の大きな商品(英語教育)に対し高額な授業料を請求することを望んでいません。
 
スリランカの教育制度に関する特色を説明することはとても難しく、少なくとも私はそうした経験がありません。私たちの教育制度は、成長過程にある若者にとってはやや不利です。枠にとらわれない考え方を妨げる、教科書に基づく教育手法だからです。それ故、私は、学校で働くことは将来世代の育成を試みる本当にまたとない機会であると考えています。これまでのところ、私も学校も独自なものは何も導入していませんが、私たちは“THINK EQUAL”という組織と話し合いを行っており、私たちが彼らのスリランカにおけるパイロット・プロジェクトになれればと考えています。それは、学習に関する女性の地位向上に向けた、主として性別に基づく取り組みですが、男性支配の強い社会においては本当に価値のあることだと思います。

-自社人材を育成していく上で、どのような点に注意を払って取り組んでいますか?

 

制度化された手続きやプロセスを取り入れ、円滑に機能する学校にしていくことは、人材開発を確かなものとする一つの方法です。現時点で、当校には一生懸命働くスタッフが多くいますが、置かれているいかなる状況においても何をすべきか、皆が理解していくために不変となるプロセスが必要です。当校は、トップによって多くの決定がなされるために、職位の低い階層における意思決定の障壁となっている、規模の小さい会社でよく見られる管理の考え方から発展しないといけません。この状況を改善するための取り組みを、試験的なプロセス、手続きとして取り入れだしています。また主要なスタッフに必要最低限のことは自身で意思決定できる裁量を与えるように改定もしだしつつあります。当然、全ての主な決定は経営トップレベルでなされますが、スタッフが自身で行動できるように、徐々にではありますが権限を与えるようにしています。
 
理想とする目標は、与えられたいかなる状況においても、スタッフの誰もが何をすべきか、正確に理解できることです。

 

-最後に、日本や日本企業についてどのような印象をお持ちでしょうか。日本に来て驚いた事、感動したこと等ありましたら教えてください。

 

日本は驚くほど組織だった国です。時間を守る几帳面さや細部への配慮の度合いは信じられないほど素晴らしく、見るに値します。そのため、日本企業が同じようなことを実践していることに特に驚きはありません。しかし、このようなきめ細かい組織レベルのほかに、私にとてもよい印象を残し続けているものは、日本人が持つとりわけ二つの主な特徴、礼儀正しさと謙虚さです。
 
それは、来日中の日々の経験から、今回の日本企業見学で得た経験で明らかです。例えば、今回の見学で学びを得ることができたパナソニック社の創始者や、ある八丁味噌製造企業の社長の二人から、徹底した謙虚さを感じました。彼らはとても親身になり、共感を持って堅実的です。このような経験は、バスの運転手からHIDAの役員などの日本の人々との堅苦しくない付き合いからも感じることができました。そしてそれは、とても有益な経験となっています。
 
それゆえ、私はシステムがいかに組織だっていても、その後ろにいる人々が親切で謙虚であるかどうかがもっと重要であると信じています。私は先ほど当校はより機能的なシステムを取り入れていくべきであると強調しましたが、同時に、経営陣トップから全てのスタッフに至るまで、謙虚な姿勢を育てていく試みを行っていく必要があると感じています。

ご協力ありがとうございました。