経営者インタビュー

English

『利益を上げると共に、社会に貢献していく社会的企業となるために』 ~インドのスイートコーン等、食品加工メーカー役員に聞く

2016年10月31日(月)12:00

(India/インド)

 

Sri Jayashree Food Products
Mr. Sathishkumar Kalaimani (Chief Operating Officer)
India

 

HIDAが提供する研修プログラムには、新興国を含む海外諸国から多くのビジネスパーソンが参加しています。対象参加者の職位は研修プログラムによって異なりますが、経営者層に向けたプログラムも提供しています。

 

今回、インドで食品加工を手がける企業を営む参加者にお話しをうかがいました。

 

 

-まず初めに、御社の会社概要についてご紹介ください。

 

当社、Sri Jayashree Food Productsは、2011年創業の食品加工メーカーです。「ファーム・ハーベスト」のブランド名で知られ、本社と工場はタミル・ナードゥ州チェンナイの約400キロ南にあります。取り扱っているのは、生鮮品のスイートコーン、調理済みのスイートコーン、穀粒、調理済みの穂軸、スイートコーンの自動販売機などの製品です。従業員は約50人で、年間売上高は15万米ドルから90万米ドルと変化します。

 
-会社を経営していく上で、どのような事を特に大切にされていますか。理念や方針など、大切にしていることを教えて下さい。
 

「健康に良い農産物を消費者に届ける」という企業理念を核として、農業コミュニティと密に連携をとり、高度な技術やベストプラクティスを共有しています。 

当社では、「農場から食卓まで(farm to the fork)」のモデルによる垂直統合が実現しています。原材料は自社で調達しているため、農家の生活に利益をもたらしています。また、工場では日頃から女性労働者のエンパワーメントを推進しており、小売での小規模な起業を促しています。

農家に高い生活水準をもたらすことを目指し、健康的で栄養価の高い農産物の提供を企業理念として、2011年にファーム・ハーベストは始まりました。生鮮食品と加工食品の両部門で、農家や学生、さらには中退者の起業家を育成しています。また、農業コミュニティと密に連携し、最新の技術を提供しています。 

 

「農場から食卓まで」の実現に向けた取り組み
農業:投資に適した農家を見つけます。農家には種子を無料で配布するほか、播種と収穫時には労働力も提供します。農家への支払いは生産高ベースで行います。製品から得られた利益の一部(工場での付加価値)は農家に還元します。そして生産現場で女性のエンパワーメントを強力に推進します。

我々には流通と販売の2つのビジネスモデルがあります。1つ目のモデルは、訓練を受けた意欲的な若者が、1週間当たり当社指定の約240店舗にワゴン車販売を行うものです。ワゴン車販売で若者は、運転手、販売員、卸売業者、販売業者を兼ねることになります。全体的にみて、若者は車両を所有する起業家といえるのです。車両購入費の3分の1は会社が負担しますが、残りは簡易月賦(EMI、銀行からの融資)プランを利用して自分で支払います。一般的な運転手や、日用消費財を扱う販売員の収入を合わせた以上の稼ぎがあります。そして2つ目のモデルは販売機(*)の所有です。意欲的な起業家の多くはパートタイムの学生ですが、彼らは販売機を150米ドルから1,500米ドルほどで購入し、スイートコーン製品の販売を始めます。平均すると、販売機1台から得られる利益は、設置場所により異なりますが、月100米ドルから1,000米ドルになります。
(*)日本の無人の自動販売機ではなく、人が常にいて販売を行う有人の販売機のこと。

 
-自社事業を更に発展・成長して行く上で、成長の妨げとなっている課題はありますか?またその“課題”に対し、どのような手を打つべきとお考えですか?
 

[課題]
プロセスよりも労働力に高く依存:スイートコーンの穀粒の加工包装は殺菌プロセスを通じて行われ、全粒を穂軸から取り出す必要があります。そのため、実際には非常に労働集約的なプロセスとなります。今の機械では、穀粒を傷つけずに取り除くことができません。
日雇労働者を訓練する難しさ:新しい労働者が毎日入ってくるため、仕事の定義が困難です。現状では標準作業手順書といったシステムは存在していません。
プロセスが冗長であること。
高い廃棄率と低い変換率:原材料は傷みやすいため、廃棄管理が困難。
 

[課題に対する対応策]
高度な技能をもつ協議機関との協力・提携しています。
プロセスの自動化とリモート監視の開発を推し進めています。
新たな市場を拓く脱穀機の開発を進めています。
非熟練・半熟練労働者のためのシステムを開発中です。
廃棄物の削減策に注力しています。

 

-現在の海外ビジネス展開状況を教えてください。

 

現在の輸出先は、スリランカやモルジブ、モーリシャス(合弁事業)、ペルシア湾岸諸国、ロシアといった数カ国に限られています。実際のところ、インドでは品質が最大の関心事とならないケースがあります。日本人はより成熟した味覚をもち、加工食品にも高い品質を求める傾向があるため、日本と共に仕事をすることに関心があります。このような理由から、日本国内に流通網をもちたいと考えています。

 

-今後、更なる海外ビジネス展開をお考えですか?また海外ビジネス展開を成功に導くために、貴社が大切にしている事、重視したい事は何でしょうか?

 

はい、拡大していく予定です。まず最近、モーリシャスで合弁事業を始めました。日本でも事業の機会を模索するつもりです。

我々は協力が成功のカギだと思います。日本での市場開拓に力を貸してくれる日本国内の流通会社を探しています。また海外で事業を拡大するにあたり、日本のコンサルタントや企業からの助言も求めています。

-貴社ビジネスが属する、自国におけるマーケットの状況について教えてください。

 

食品加工業に関して正確に言うと、インド市場は近年成長を続けています。土地や労働力などのリソースも、インドでは極めて容易に手に入ります。同時に人口が多く、日々の暮らしの変化の速さが、人々の目を調理済み製品に向かわせています。

 

このようにファーム・ハーベストは、一企業として調理済み加工食品部門に参入する大変な好機に恵まれています。また、現代的な小売のコンセプトもインドでは急速に取り入れられていて、ショッピングモールやスーパーマーケット、ハイパーマーケットで買い物をする人々が増えています。こうした事情が、我々にとってのスイートコーン加工食品市場へとつながっているのです。

 

世界的には、シンガポールとタイが調理済み食品部門(スイートコーン)で大きな存在感を示しているため、インドは世界進出に苦戦しています。インドの食品加工部門は成長しており、人口も非常に多いので、食品加工業界が成長する余地はまだまだあります。

当社のステークホルダーは農業への関心が高いため、より多くの製品を同様に「農場から食卓まで」のラインに乗せられないかと考えています。取扱製品が増えると、販売コストと流通コストは低下します。

 

インドの食品加工業界について:

  • 2015年のインドの食品輸出高は世界12位
  • 代表的な労働集約型部門(雇用の11.69%が登録工場にて創出)
  • 2014~2015年における付加価値額(GVA)への貢献は、合計1兆4,300億ルピー(2013~2014年比5.78%増)
  • 組織的小売の自由化と成長
  • 主に中東への加工食品輸出の調達拠点としてインドが浮上
  • 調理済み製品の高まる人気
  • 加工食品の輸出拡大(主に中東や東南アジア)
 

-自社人材を育成していく上で、どのような点に注意を払って取り組んでいますか?

 

我々が直面する主な課題は以下の通りです。

  • システムに基づいた手法(標準作業手順書)へのプロセス変更を行うこと。
  • 日雇い労働者への研修、能力開発。
  • 工程内の無駄の識別および削減。
     

我々のビジョンは利益を上げると共に、社会に貢献していく社会的企業となることです。これを達成するために、我々にとってHIDAとの関わりはとても大きな助けになります。そして将来、我々のビジネス計画に関して協力、指導、相談などの点において、長期的な関係を築いて行きたいです。

 

-最後に、日本や日本企業についてどのような印象をお持ちでしょうか。日本に来て驚いた事、感動したこと等ありましたら教えてください。

 

まず初めに、ここ日本の人々の礼儀正しさに感銘を受けました。これは他のどこの国でも見ることができません。日本で会った人はみな、謙虚で品格を持って挨拶をしてくれました。

そして日本人が行うどの活動においても時間を厳守する姿勢に、深く感銘を受けました。日本で行われるどの活動も、システムに沿って適宜行われています。

 

日本で出会った人々はみな親切で寛大でした。私は日本語は分かりませんが、人に道をたずねるときはいつでも100%正しく教えていただけました。

 

私が訪問した日本企業では、どの従業員もそれぞれのポジションでの継続的な改善に向けて、一生懸命業務に取り組んでいたのをみることができました。また、この国の清潔さ度合いにも本当に驚きましたし、会社でだけではなく、人々の社会生活においても、どこででも礼儀正しく人を敬称付けで呼ぶことにも感心しました。

 

概して5Sは企業内に留まらず、日本人の個人的な社会生活においてもみることができました。この企業訪問は私の生活スタイルにとてつもなく大きな衝撃を与えました。私は自分の人生において、日本人の指針・原則のうち、少なくとも時間に几帳面であること、礼儀正しくいること、親切でいること、そして一生懸命働くことなど、いくつかは実践していきたいと思います。また会社の仲間や家族の皆にも教えてあげたいです。

 

今回の訪問で、倫理や規律というものは文化と連動して教えられるべきだと、私は理解しました。そして規律は人の労働生活だけでなく、個人的な社会生活においても同様であると思います。

ここ日本滞在中、私の心を感動させた出来事は多くあります。以下の出来事は、特に私が感動したものです。

あるとき、我々10人のグループは新大阪から我孫子に戻るところでした。その移動中、ある一人が券売機の近くに携帯電話を置き忘れてしまいました。我々はまもなく電車に乗ろうというときでしたが、彼は突然、少し待っていてほしいと我々に頼み、自分の携帯電話を探しはじめました。自分の携帯電話がなくなったことに気付いたのは、なくしてから30分程あとのことです。そして彼は券売機に走って戻ると、携帯電話は彼が置き忘れたその場所に、そのままありました。

 

これは日本人の誠実さを表していると思います。我々はこの出来事に本当に驚きました。もし同じようなことが他の国で起きれば、携帯電話は間違いなく瞬時に持ち去られてしまうことでしょう。

 

また別の日には、HIDA関西研修センター(KKC)から我孫子駅までの道に迷っていました。そのとき、自転車に乗った年配の方に会いました。彼は自転車を下りて、我孫子駅までわざわざ歩いてくれたのです。そしてそこで終わりではなく、券売機で梅田駅に向かうチケットを買うのを手伝ってくれて、その方はそれからその場所を去って行きました。この出来事で私の日本人への敬意が深まりました。私はそのように親切で寛大な人には、自分の国でさえ会ったことがありません。

 

鉄道の駅やデパート、神社でさえも、列に立って並んでいる礼儀正しさを持つ人々を見て、私は驚きました。

 

日本訪問の機会を与えていただいたことに、日本政府やHIDAにとても感謝しています。私の振る舞いが良くなる手助けとなった日本での15日間の滞在を、私は本当に誇りに思います。

ご協力ありがとうございました。