『遺伝子組み換え作物を取り扱わず、食品の安全・品質を高めて更なる海外展開を目指す』 ~ベトナムの米製品等、食品製造会社役員に聞く
2016年10月18日(火)14:55
(Vietnam/ベトナム)
Bich Chi Food社
Ms. Pham Thi Huong Son (Deputy General Director)
Vietnam
HIDAが提供する研修プログラムには、新興国を含む海外諸国から多くのビジネスパーソンが参加しています。対象参加者の職位は研修プログラムによって異なりますが、経営者層に向けたプログラムも提供しています。
今回、ベトナムで米製品等の製造を手がける企業を営む参加者にお話しをうかがいました。
-まず初めに、御社の会社概要についてご紹介ください。
ベトナム南部の穀倉地帯に1966年に設立されたBich Chi Food社は、米製品やクラッカー等を手がける大手製造業者の一つです。1970年代当時、我々の主要製品は子供向けの米粉食品でした。これらの製品は、ベトナムの多くの子供達が栄養不足や下痢といった当時の健康状態を乗り越える手助けとなりました。効率性や有効性を高めるために技術やマネジメントの発展を求めて、当社は自社の競争力を強め続け、ベトナムにおける安定した市場シェアの地位を築いてきました。ホーチミン市の南、約160キロメートル離れたドンタップ省サデーク市に、5つの工場を含む4万平方メートルの敷地があり、我々は現在800人以上の従業員を雇用しています。
当社の製品は新鮮な地元の原材料を使い、添加物を使っていないため、健康に良いことでよく知られています。我々は基本的に米麺、ライスペーパー、エビの入ったクラッカーや栄養パウダーを製造しています。我々はお菓子などの軽食から通常の食べ物まで、利用目的が異なる食品を含めて100種類以上の製品を提供しています。
Bich Chi Food社は遺伝子組み換え作物(GMO)に反対しています。我々はGMOで作られた農産物にはリスクの可能性があると理解しているため、当社ではGMO原材料の使用を行わないことを決定しています。我が製品には一切、GMO原材料は入っていないと保証しています。
また我々は動物実験にも反対しています。当社では食品検査は動物で行いませんし、直接あるいは第三者機関を通しての支援等は一切行っていません。我々は当社の研究開発所にある機械を使うといった別の方法で、製品(食品)の安全性と品質を検査しています。
当社の工場はHACCP(ハサップ:危害要因分析に基づく必須管理点の監視による衛星管理手法)、ISO 2000:9001、そしてハラール認証を受けています。また現在、BRC(英国小売協会の規格)の認可承認プロセス中です。我々はイギリス、オランダ、フランス、ドイツなどのヨーロッパ諸国、アメリカ、日本や韓国などのアジアを含め、世界42カ国に我が製品を輸出しています。
当社では株式会社となった2001年以降、経営哲学、バリュー、指針を日々の業務に当てはめています。我々の業務で経営哲学を実践していくことにより、企業価値を最大限に高め、製品の品質を向上させ、我々のお客様やビジネスパートナーへのより良いサービスを提供でき、我々が属する社会への貢献度合いを高めていると、私は個人的に信じています。
我が社の企業経営において、従業員、顧客、ビジネスパートナー、技術、そして品質の5つの要素を重要視しています。これら5つの要素のどの一つも、他の要素と優劣が無いぐらい重要なのです。詳細は以下のとおりです。
- 従業員:我々は、従業員それぞれに特有な性質や考え方を十分に尊重しています。我々はスキル開発の機会を提供したり、各従業員の個人的な成長をもたらすための支援を行ったりしています。
- 顧客:我々はお客様に価値があり、信頼できるパートナーであるように最善を尽くします。
- ビジネスパートナー:我々は双方にとって有益で、長期間にわたるビジネス関係を構築していくことを目指しています。
- 技術:我々は常に、新しい技術によって製品品質を高めることに努力しています。
- 品質:お客様の我々への評判を確かなものとするべく、我々は品質向上を追及してきます。
当社が成長・発展していくためには、市場の最新情報に通じ続けること、当社の成長路線に沿った財務管理や経営スキルなど、たくさんの課題に直面しています。成長・発展に関連する課題を認識し、克服していくことがビジネスにとって極めて重要です。
市場の最新情報に通じ続けること:
- 市場と消費者行動は日々変化します。そのため継続的に市場調査を行う必要があります。
- 会社が大きくなればなるほど、事業は成功してきますが、また同時に新たな競合相手が現れて、その会社が行っていることに対して対抗してくることになります。会社が最善を尽くすべきものを行い続けることは大切です。しかし同時に、会社は新たな利益を生む製品を市場に創出していく技術に投資をしていく必要があります。
- 市場の情報収集のため、鍵となるお客様、サプライヤーやビジネスパートナーと話すことに時間をかけることは必須です。また、より良いマーケティング手法に向けて、主要な情報の分析の助けとなるITシステムを向上していくことも重要です。
キャッシュフローと財務管理:
- 成長しているどのようなビジネスにおいても、十分なキャッシュフロー管理ができていないといけません。自由に動かせるキャッシュフローを最大限に活かし、効果的に制御していく必要があります。
- 優れた在庫管理を行っていく必要があります。
- 資金的ニーズを見越して計画を立てていく必要があります。
経営スキル:
- 政府関連機関などの外部機関を活用し、事業の発展を牽引している人々からスキルを学ぶ研修の機会を継続的に提供しています。
- 効率の良い時間管理技術に磨きをかけ、重要課題をどのように区分していくかについて学ばせて行きます。
- 自身の限られたスキルをどのように向上していくべきか、人々の話を聞き、アドバイスを受けます。
これらの点は我が従業員だけでなく、私についても同様に当てはまります。
-現在の海外ビジネス展開状況を教えてください。
当社は2006年から製品輸出を手がけていて、現在、世界42カ国の販売業者と取引を行っています。我々はグローバル市場において、ベトナム製品でよい評判を得ています。
-今後、更なる海外ビジネス展開をお考えですか?また海外ビジネス展開を成功に導くために、貴社が大切にしている事、重視したい事は何でしょうか?
海外ビジネスは会社にとっては機会が広がることであると、我々は理解しています。実際に、アディダス、メルセデス、ソニー、サムソンといった様々なヨーロッパ諸国、アメリカ、そして他の多くの海外企業がアジアで成功をしていますし、その逆もまたしかりです。彼らは皆、海外ビジネス運営にとても成功しています。我々も更なるグローバル規模での貿易に向けて準備をしています。
海外ビジネスは会社にとって素晴らしい業績となりますが、全ての会社が海外へ展開しその目的を達成できるものではありません。実際に、言語、物流、規制、人的資源、ビジネス文化などのビジネス上の障害となりうる全ての点において、多くの障壁が存在しています。しかし我々は、課題はいまだ十分に活かす事ができていない機会にすぎないと、いつも自分達に言い聞かせています。そのため我々は、課題や障害を肯定的な観点でとらえ、うまく機能すると思える事業のアイデアを諦めたりしません。
新しい市場での成功軌跡は、一夜にして実現することはできません。我々は当社の製品にとって最適な市場を見つける助けとなるために、当社のビジョンに照らし合わせて広範囲に及ぶ研究を行う必要があるのです。
我々のお客様の文化や現地の習慣もまた、我々が注目すべき重要な要因となります。大事なことを言い忘れましたが、我々は利用可能な資源を手にし、いつでも課題に立ち向かい、当社の海外ビジネスを全力で支援できる強いチームを作りたいと思います。
-貴社ビジネスが属する、自国におけるマーケットの状況について教えてください。
現在のベトナムにおける市場環境は、競争がかなり激しいのが実情です。ベトナムは人口9,000万人以上の開発途上国で、とりわけ若年者人口が多いです。これは市場に大きな可能性があることを意味しています。ベトナム市場は、新しく革新的な製品を渇望しています。しかしベトナム人は非常に慎重な消費者でもあるので、ベトナム産業への新たな参入者はこの事実を知っておくべきです。貧困の記憶は、都市部においても今でも色濃く残っています。ベトナムで大きなマーケットシェアを占めているベトナムの地元企業はそれほど多くありません。現在、ベトナム製品の品質は向上し、価格面でも競争力が高まりつつあるため、ベトナム人消費者は輸入製品よりも国内製品を好む傾向が強いです。Bich Chi Food社は、米麺、ビーフン、ライスペーパー、エビの入ったクラッカーや栄養パウダーにおいて、ベトナムで良好なマーケットシェアを保持しています。当社は自然食品の製造を保証していますし、1966年当時には子供向けのパウダー製品を手がけた最初のメーカーでもあり、当社のブランドは55歳以上の消費者には特にパウダー製品で人気があります。
-日本を含め、他国と自国における商慣習には違いがあると思います。自国での働き方に関する考え方、業務文化、国民性など、他国との際立った違いがあればご紹介ください。
ベトナムの商習慣は日本より堅苦しくなく、もっと直接的なものです。ベトナムの企業行動は、型にはまった対人関係を発展していく、あるいは維持していく他のアジア社会よりも、もっとざっくばらんな、のんびりしたものとも言えます。ベトナムにおいては、日本で行うよりもさらにゆっくりと、物事を確実に変えていく方が良いかもしれません。加えて、通信システム、交通インフラや対人関係などにおいて予期せぬことがいつも起きうるので常に柔軟にいることは大切です。
ベトナムでは、お互いを知ることはビジネスにおいて極めて重要です。「時は金なり」という考え方は、ベトナムで良好な業務関係を得る上で最適な考え方ではないかもしれません。他のアジア社会と同様に、ベトナム人は彼らがよく知っていて、信頼している人たちとビジネスをすることを好みます。もし時間をかけて良好な関係と相互信頼を構築できれば、様々なことが可能となり、業務を驚くほど早いペースで進めることができるでしょう。
-自社人材を育成していく上で、どのような点に注意を払って取り組んでいますか?
我々には現在、人材育成における多くの困難と課題があります。工場並びに本社はドンタップ省サデーク市に位置していますが、サデーク市の人口はおよそ10万人強に過ぎず、あまり発展した地域ではありません。そのような小さい都市では、優秀な人材を獲得することは難しいのです。このような状況下においても、我々は当社の方針を改善することで、より魅力的な会社とすべく奮闘しています。これは現在も進行中のプロジェクトで、いつもベストを尽くしています。
-最後に、日本や日本企業についてどのような印象をお持ちでしょうか。日本に来て驚いた事、感動したこと等ありましたら教えてください。
日本は複数の島々で成り立ち、探索すべき歴史的な名所がたくさんある美しい国です。ガイドブック載っている京都、富士山や同様の名所以外にも、興味深い点はとてもたくさんあります。どこにでもある公共交通システムのような素晴らしいインフラや、さらに何よりもまず電車が遅れずに運行していることに、私自身も驚かされました。
日本人は彼らが勤務する会社との関係が親密です。従業員は一生懸命働き、所属組織に忠実です。私は日本企業の意思決定プロセスにもとても感銘を受けました。時には総意によって意思決定がなされ、企業はどの階層の従業員に対しても、提案や意見を述べることを促しているのです。