経営者インタビュー

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『ボトムアップ・アプローチを重視した意思決定スタイル』 ~ミャンマーのデジタル刺繍会社社長に聞く

2016年10月14日(金)10:00

(Myanmar/ミャンマー)

 

Diamond Class社
Ms. Nu Yin Htwe (Managing Director)
Myanmar

 

HIDAが提供する研修プログラムには、新興国を含む海外諸国から多くのビジネスパーソンが参加しています。対象参加者の職位は研修プログラムによって異なりますが、経営者層に向けたプログラムも提供しています。
 
今回、ミャンマーでデジタル刺繍事業を営む参加者にお話しをうかがいました。

 

 

-まず初めに、御社の会社概要についてご紹介ください。

 

当社の中核事業はデジタル刺繍事業です。衣料産業の一翼を担っていて、ロゴや企業の制服向けの刺繍はもちろん、ミャンマーの伝統衣装や現代的な洋服にあしらう非常に複雑な刺繍も手掛けています。私は起業する際、日本の最先端技術をなんとしてでも取り入れたかったため、高品質な日本製の刺繍機を注文しました。3年前の2013年、わずか25名の社員と2台の刺繍機で創業しましたが、現在では社員数は100名を超え、刺繍機も11台に増えています。私たちの目標は、高品質製品を極めて競争力のある価格で製造することです。3~5年以内に当社製品を多様化させ、マーケットリーダーになることを目指しています。

 
-会社を経営していく上で、どのような事を特に大切にされていますか。理念や方針など、大切にしていることを教えて下さい。
 

私は経営者や幹部社員には絶対的な決断力が必要だと強く確信しています。ご存知かもしれませんが、ミャンマー人には少々優柔不断なところがあったり、他人や他人の状況をほとんど考慮せずに方向性を一変させたりするところがあります。私は経営者として、相手の立場に立って考えるよう努めています。それは社員やサプライヤー、お客さまのニーズを理解するということです。このようにして常に関係者に配慮した、ステークホルダーの総意を尊重する意思決定プロセスを徹底しています。
 
経営者であれば意思決定をする必要が出てきますが、ミャンマーの経営者はトップダウン・アプローチを取ることで知られています。しかし、私が重視しているのは「ボトムアップ」アプローチによる意思決定です。
 
ミャンマーのトップダウン型経営スタイルは非常に独裁的で、これは当然、組織全体の情報伝達に関する課題のひとつとなっています。また経営者の中には、社員のノウハウを学ぼうとしない者もいて、これが知識を共有しない者に権限を与えるという悪影響を招いています。こうした経営スタイルのせいで、ミャンマー企業の90%は現場社員からのフィードバックを一切受け付けていません。たとえ、その道15年の社員のノウハウであってもです。さらに、幹部社員が工場の作業現場を訪れることはまずありません。にもかかわらず、彼らは日常業務に従事する社員に何ひとつ告げることなく方針を変更してしまうのです。その上、事業への悪影響に気づいた社員がいたとしても、簡単には意見を聞いてもらえない可能性もあります。これこそが、ミャンマーの純粋なトップダウン型経営の大きな欠点だと私は考えています。

 
-自社事業を更に発展・成長して行く上で、成長の妨げとなっている課題はありますか?またその“課題”に対し、どのような手を打つべきとお考えですか?
 

ミャンマーの現状を踏まえると、ひとつの企業に2年を超えて社員をつなぎとめておくことは困難です。彼らは自分たちのスキルが向上していなくても常に昇給を望みます。経営陣が人材育成や業務手順の質を制限すれば、生産率は大幅に低下します。一方で、目標達成制度のようなインセンティブ・プログラムを設定すれば、作業員は目標を達成することができない可能性があります。そうなると目標達成によるボーナスは獲得できず、残業する必要が出てきます。
 
この他の問題としては、ミャンマーの地元企業の大半が家族経営であることが挙げられます。そのような場合、社員は職場で規則や方針を提示されない可能性があるのです。ところが、当社の職場に規則や規制に関する制度を導入したところ、社員に窮屈な思いや不愉快な思いをさせることになってしまいました。主に労働者の権利を保護する目的でこれらの手続きを設定したにもかかわらず、このような事態を招いてしまったのです。
 
こうした問題すべてが、市場における熟練労働者の不足や社員の職場定着の難しさと相まって、事業成長の大きな課題となる可能性があります。
 
当社ではまず、社員に豊富な経験を積ませることに注力し、真に望む将来像について社員が自ら考えられるように指導しています。さまざまな種類の社内研修を社員に提供し、女性協会などの外部団体を招いて1カ月おきに職務研修を実施しています。
 
業務面では、経営トップが発生しうるミスの数を抑制するチェック制度や対応措置を機能させています。当社は品質管理の一環として、社員の業績を監督して昇進させたり、毎月、「ベスト社員」賞を授与して業績をたたえたりしています。
 
さらに、経営陣は社員教育も重視しています。社員の大部分は村の出身で、最低限の教育(初等教育)しか受けていません。毎週、異なる幹部社員が社員に発破をかけるとともに、会社の短期目標、生産量と売上高、1週間のミス発生件数に関する最新情報を伝えるようにしています。その一方で、1年を通じた研修プログラムを実施して、社員の能力の観察および向上に努めています。

 

-現在の海外ビジネス展開状況を教えてください。

 

国際市場については、いつかは規模を拡大させたいと考えていますが、現在のところ当社の事業はすべてミャンマー国内に限られています。日本との関係については、マンパワーの代わりに日本の最先端技術を取り入れた機械を使用することによって、世界的レベルの主要企業と肩を並べるための地歩を固めることができました。その一環として、HIDAプログラムで派遣された専門家に説明・実演いただいたカイゼン(KAIZEN)と5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)を導入して、作業現場管理の改善を図っています。その結果、品質が高まり、社員がさまざまな事柄について高度なノウハウを身につけられるようになり、生産性が向上しました。また他社に比べて、社員の職場定着も少しずつ改善しているようです。

 

-今後、更なる海外ビジネス展開をお考えですか?また海外ビジネス展開を成功に導くために、貴社が大切にしている事、重視したい事は何でしょうか?

 

既に述べたように、当社は今のところミャンマーだけで業務展開していますが、海外進出も計画しています。
 
私は決断力を発揮して、需要に応える必要があります。海外のお客さまに提供する新たな製品や、多様化する製品分野を決定しなければなりません。現在は投資家やパートナーについて検討し、該当者を募集しています。
 
ご存知のように、ミャンマーは非常にユニークな立場にあり、外国に門戸が開かれたのもつい最近のことです。今でさえ方向性がよく見えず、一部の地域では米国企業とのさまざまな取引がいまだに再開されていません。しかし私には、巨大企業の参入により地元企業に及ぼす影響について、当社のような小規模企業がどのように感じているのかよく分かっています。

-貴社ビジネスが属する、自国におけるマーケットの状況について教えてください。

 

ミャンマーは今も変化し続けていて、現在は教育やインフラ、医療セクターなどの発展に注力しています。当社のような中小企業への支援としては、ミャンマー商工会議所連盟(UMFCCI)などの団体による知識や機会、アイデアへのアクセス改善や研修プログラムがあり、このプログラムのおかげで私は以前よりうまく事業を運営できています。大まかに言えば、この産業には300~500の地元企業が競合しています。しかも当社と同じ事業分野に属する、ミャンマーと国境を接する国々(中国やタイなど)の製品は容易に入手でき、価格競争力もあります。したがって、技術が大量生産と品質安定化のための基礎的要素である当社独自の刺繍事業は今後、よりよい地位を築くことができると確信しています。
 
現在、多国籍企業をはじめとする大企業がミャンマー市場に参入してきています。彼らは豊富な投資資金と、強力なブランド力による安定性を兼ね備えています。そのため小規模企業や家族経営企業は有能な社員を確保し、この市場で競争することに必死です。ミャンマーでは資金や投資が集まらなければ、たとえ市場やミャンマー人の好みを把握していても、安定した事業を強化・構築することは難しいのです。

 

-日本を含め、他国と自国における商慣習には違いがあると思います。自国での働き方に関する考え方、業務文化、国民性など、他国との際立った違いがあればご紹介ください。

 

情報伝達に関しては既に述べたとおり、ミャンマーの伝統的経営手法はとにかくトップダウン型です。
 
ミャンマーの労働者は年長者に大変敬意を払うので、その点は日本と似ています。しかし、進歩やイノベーションに関しては日本に大きく遅れをとっています。ミャンマーは恐らく、ミャンマーからの距離や近年の歴史によって、日本よりも他国による影響がはるかに大きいと言えるでしょう。そして、これはもちろん強みであるとともに弱みでもあります。外部のアイデアを受け入れると国は急速に発展しますが、その過程で独自性を失う可能性もあるからです。

 

-自社人材を育成していく上で、どのような点に注意を払って取り組んでいますか?

 

社員の多くは衣食住という基本的なニーズに関して不安を抱えています。ですから私は、社員の関心を別のことに向けるように日々努めています。最終的に社員の手元に残るのはわずかな金額であることは認識していますが、自身の将来的な成長を楽しみにするように彼らを鼓舞しています。
 
現在のところ、特に主要都市では多くの企業が絶えず台頭しているため、需要供給のバランスが崩れています。
 
私自身も含めて経営トップやサプライヤーの時間に対するストレス管理を向上させて、経営トップとステークホルダーが事業意識を共有できるようにしたいとも考えています。社員のスキルや職務への取り組み方を向上させて、私の管理に頼らずに業務を遂行できるようになってほしいです。ミャンマーの労働者の多くは常に年長者や幹部社員の指示に従っているので、自分自身の判断で問題を解決しようとしません。そして、これが彼らの自信度の低下を助長しています。しかし事業や社会を発展させる潜在的機会を改善し、模索するための体系化された計画を策定して、適切に実施することができれば、ミャンマーという国にもその国民にも素晴らしい繁栄がもたらされ、国全体の発展につながると確信しています。国が貧しいため、海外に出稼ぎに出ている多くの労働者が帰国し、家族と離ればなれにならずに暮らせるようになるでしょう。
 
その他の問題点は、人材育成に関する十分な調査データが国内にないことです。市場調査や人材育成、国の業務教育水準に関する正確な情報が入手できれば、人材戦略を策定したり、社員の健康や福祉の水準を向上させたりすることもずっと容易になるはずです。

 

-最後に、日本や日本企業についてどのような印象をお持ちでしょうか。日本に来て驚いた事、感動したこと等ありましたら教えてください。
 

日本には豊かな文化と国としての確固たるアイデンティティーがあります。私が大阪に到着して最初に気づいたことは、日本人は知り合いかどうかにかかわらず、親しみを込めて挨拶してくれるということです。また、どこもかしこもすべてが清潔なことや相互尊重も日本の際立った特徴で、これは公共の場だけでなく、日本企業の中でも感じました。
 
他の都市で行われた3日間の研修旅行では4つの素晴らしい工場を訪問し、それまで知らなかった多くのことを目の当たりにして大いに刺激になりました。私は自動車が大好きなので、ある自動車メーカーに特に強い関心を抱きました。私たちはグループでその自動車メーカーの工場を訪れ、整然と配置された生産ラインが遅滞なく稼働していることや、これらの各ラインが、時間や場所の無駄の削減と非常に高度な手順を両立させていることを知りました。
 
さらに、社員が改善活動に積極的に参加していることも分かりました。彼らは独自のトロリーを稼働させて、作業で最もよく使う道具や材料を買い替えずにすむようにしたり、また例えば車の内部の部品を組み立てるなどの辛い姿勢で作業する際にも、体を痛めないように柔軟性のある椅子を作ったりと、健康や安全にも配慮していました。
 
日本の職場環境はきれいに整理整頓されていて、社員は自身の特定業務に対して高効率に取り組む傾向があります。同時に生産管理は、現在の一定期間あるいはその日全体として作業完了が必要な目標台数が示された生産管理版(モニター)による表示で上手く組織されています。その結果、社員の行っている業務はすぐに見直されることができ、そしてこれが時間内に業務を遂行させることを社員に促すことにつながっています。

ご協力ありがとうございました。