世界の人々がより健やかに自分らしく過ごせる日々の実現を目指し、革新的な医薬品の継続的な創出に挑戦し続ける大日本住友製薬株式会社では、2016年を教育投資元年と位置づけて人材育成体系を再構築し、仕事を通じた成長(OJT)を基本にしつつ、Off-JTでも幅広い研修の機会を設けています。同社の人材育成の基本方針と今後の展望を、人材育成ご担当の中塚徹シニアオフィサーに、海外研修(インターンシップ)参加の感想を、6ヶ月の派遣を終えたばかりの堀江一生氏と佐藤大地氏に伺いました。
AOTSの「GHC海外インターンシップ」ご利用の背景を教えていただけますか。
グローバル人材の直接的な育成ではなく、将来のリーダー人材育成を目的としています。いかに修羅場を越えてきたかが、10年後、15年後に会社での舵取りをする立場になったときに生きてくると思います。研修によって得られる成果としては、自ら新しい価値を生み出す力、異文化理解・適応力、不確実性に対する耐性、困難を乗り越える 不屈の精神の4点を身に付けることを期待しています。
AOTSの「GHC海外インターンシップ」に参加することで、派遣国でどのような体験をされたか、特に苦労したことを中心に教えていただけますか。
インターンシップ業務としては、新規ビジネス開発部へ配属され、タイ人の指導員と2人で健康食品の販売に取り組みました。7点の候補食品から収益の上がりそうな商品を選定し、顧客候補の企業に電話をかけるところから営業活動をスタートしましたが、新規事業のため社内にノウハウの蓄積はなく、手探りで調べるところからスタートしなければなりませんでした。
同社で食品を扱うのは初めての試みであり、知名度もないため、まずは会社の自己紹介をするところから地道に行う必要がありました。日本のビジネスマッチングサイトに登録するなど工夫し、日本の会社とも取引の相談をしました。商品の一つに、非常にユニークなフルーツがありましたが、このフルーツをタイから日本へ輸出するために、購入元候補の農家の訪問、農家からの成分分析表の取り寄せ、加工冷凍が可能な工場の視察、日本の高い品質基準や検閲をクリアするための課題の洗い出し、日本の農林水産省への問い合わせなどを行いました。異国の文化というだけでなく、会社規模の違いによる考え方や仕事の進め方の相違を経験することができたと思います。
派遣国ベトナムに限らず、海外での生活は初めてでしたが、派遣前から不安はあまり感じず、期待に胸を膨らませていました。生活面での最大の困難は、余暇活動のフットサル中に膝を怪我したことです。すぐに病院へ行き1ヶ月通院しましたが、結局ベトナム国内では手に負えないということで、医師の勧めによりシンガポールで手術をすることになりました。シンガポールでは、医師から「なぜ怪我をした後すぐに来なかったのか」と言われ、ベトナムとの医療水準の差を感じました。一方、困難さの中に学びもありました。シンガポールでは、高額の手術費用の立替有無の交渉、麻酔の成分を英語で調べるなど、ある意味で貴重な経験をしたと思います。
インターンシップ業務における最大の困難は、ゴールは示されているがやり方に関する指示がないことです。受入企業はケータリング等を行う大企業で、売上のほとんどはケータリング事業によるものですが、新規事業として健康食品の販売を行っており、私はその部門であるサプリの販売営業を担当しました。具体的には、受入企業が従来持っていなかった顧客層の開拓、商品認知度を上げるための広報戦略の立案等を行い、自分なりに月毎の売上目標を立て、達成へ向けて日々の業務に取り組みました。
現地での業務を通して、少しずつベトナムでビジネスを行う上での習慣や背景も見えてきました。例えば、広報戦略に関する提案はなかなか社内で理解を得られませんでしたが、その理由として、ベトナムでは中長期的な利益よりも短期的な利益が重視される事情があると思います。現地の関係者と話をし、歴史や社会的背景を学ぶ中で、こうした考え方は、過去のインフレやベトナム戦争の影響により醸成されたものだということが分かりました。
また、ベトナムでは、何かを催促するときはメールより電話をかけるのが定石であるということを学びました。得意先に遠慮をしてメールで催促をしたところ、なぜ電話をしないのかと上司に叱られました。一方でベトナム人は得意先とのアポイントに遅刻しても気にする様子がなく、商習慣の違いに驚かされる毎日でした。
6ヶ月の派遣の締めくくりとして、受入企業向けに改善提案をまとめ、英語でプレゼンテーションを行いました。受入企業からは、「じっくり足で稼いだ情報やベトナムの商習慣への理解を踏まえた提案になっている」と評価していただき、本当に嬉しく思いました。インターンシップを通して一番の達成感を得た瞬間でした。
インターンシップを通してどのようなことが身につきましたか。
堀江氏:
今回初めて、生まれ育った場所とは異なる環境でのインターンシップを体験しましたが、多様な宗教観に対する理解、ストレスコントロール力、そして、発展途上国に住むことでメンタルタフネスや変化の激しい環境への適応力が磨かれたと思います。「異文化理解」と言葉にするのは簡単ですが、まさに身をもって異文化を体験することで、異文化への適応力が向上したと感じました。
佐藤氏:
インターンシップを通して得られた気づきとして、これまでの自分の働き方がいかに受動的だったか、そして、能動的に仕事の種を探していくことの必要性・重要性を強く感じました。一からものを生み出す力が身についたと思います。昨今、製薬企業の将来は厳しさが増すといった報道がありますが、私達は未来を創っていく世代。「もっとこうしたい」という自らの意思を持って仕事をしていきたいと思います。
派遣者への今後の期待を教えていただけますか。
中塚シニアオフィサー:
海外インターンシップへの参加により、自らが自らの考えで動く、結果に対する方法論も含め自ら切り開いていく姿勢が身に付いたことは大きな成果です。当社の求める社員像としては、「自ら変化に対応し、自ら挑戦する、プロフェッショナルな社員」、「自己研鑽に努め、自らの価値を高める社員」という2点を掲げていますが、「自ら」という言葉がポイントです。主体的に物事を成し遂げる力を重視しています。
二人は、今回の派遣によって受身から主体的な姿勢にすでに変わってきていると思いますが、それが今後、職場で発揮されることが重要です。自分自身の変化とともに、自らの影響力で組織に変化を巻き起こす人材になることを期待しています。また、インターンシップを通して海外で他の社員が知りえないことを学んではきましたが、製薬ビジネスの経験はまだまだこれからです。将来的に海外ビジネスを行うために、製薬ビジネスの全体像を知る努力もして欲しいと思います。今は国内営業という製薬ビジネスの一側面しか経験していませんが、研究・開発、生産、信頼性保証等、製品が最終的に顧客に届くまでの一連の流れについての理解を深める必要性があります。
当社は、海外派遣で確実な成果を得るためには、やはり6ヶ月くらいの派遣期間が必要と考えています。他社では2週間、1ヶ月、3ヶ月などもっと短期の派遣例があると聞きますが、派遣者の実感として、現地にやっと慣れた頃に終わりというケースもあるのではないかと思います。期間を6ヶ月に設定することによって、派遣できる人数は限られますが、派遣先において事を成したと実感できるためには、やはりこのくらいの期間は必要と考えます。
二人の派遣の前に、インドの企業へ初めて研修としての海外派遣を実施しました。今後も入社10年目位までの若手優秀社員の海外派遣を継続したいと考えています。未知の領域で価値を生み出す力強さと胆力を併せ持つ海外派遣経験者が中心となって、チャレンジングで革新的な組織風土が醸成されることを期待しています。
最後に、AOTSへのコメントをお願いいたします。
堀江氏:
フォローアップ体制が整っていて、受入企業も日本人インターンを過去に受け入れた実績があったので、安心して参加できました。一方で、受入企業が日本慣れしていたため、全く受入実績のない、日本のことをまるで知らない企業への派遣であれば、もっと厳しい環境を経験できたかもしれないとも思います。
佐藤氏:
私もかなり手厚くフォローしてもらったので、同意見です。全く初めての受入企業でもよかったと感じました。
中塚シニアオフィサー:
もう少し厳しい環境での研修を望む意見もありますが、派遣する企業としては、厳しい環境はリスクも高まりますので悩ましいところです。乗り越えられればより大きな成果に繋がりますが、トラブルになれば成果どころではないからです。AOTSのプログラムは、今回の派遣期間中、派遣者が怪我をした際にフォローを行っていただいたように、大小様々なトラブルに対して支援体制が整っているので安心しています。受入企業の選定については、安全性と研修効果のバランスをとる必要がありますが、AOTSには過去の豊富な派遣事例からの知見がありますので、そこは信頼してお任せしたいと考えています。