Contents 1.インドネシアを取り巻く環境と職業能力開発 |
1. インドネシアを取り巻く環境と職業能力開発
(1) インダストリー4.0の到来とAPINDOの役割
インダストリー4.0は働き方や日々の業務、さらには得られる仕事を大きく変えることになる。第4次産業革命が時代にもたらすものは、迅速な情報伝達、インフラ開発を加速する3D印刷、DNAとロボット技術・AIを組み合わせた生物学的研究、さらにはEコマースとフィンテックの拡散であり、いずれもインドネシアの経済成長に大きな影響を与えるものである。一方、世界経済の先行きは不透明であり、その要因は米国、ロシア、中国、日本などの主要国が政策変更を打ち出していることにある。特に、米国は自由主義であったが、自国の経済を守ろうと保護主義に転換し始めているのに対し、もともと保護主義的な中国の社会共産主義者たちは自国製品の世界市場シェア拡大を図っている。このことが、この2国間に貿易戦争ともいえる状況を生み出している。
今日、インドネシアはこの激しい米中貿易戦争の渦中にある。経済状況が不透明な中で経済成長は鈍化しつつあり、中央レベルでの複雑な規制がそれに拍車をかけている。地域レベルの規制も国レベルを含む他の規制との相乗効果を生むまでには至っていない。新たな事業主の創出や外注システムの見直し、BPJS(社会保障実施機関)による医療保障および労働社会保障の改正、専門職の資格制度、コストの合理化など、インドネシアが直面する課題はますます複雑化している。
(2) APINDOによる政府と連携した職業訓練および実習プログラムの開発
APINDOは政府と使用者双方のパートナーとしての立ち位置を取っている。というのも、第4次産業革命の時代に向き合うためには、この2者が互いに助け合うことが必要とされるからである。第4次産業革命は生活のあらゆる側面を対象とし、現代に生きる誰もが確実に影響を受ける。使用者、政府、労働者はこの課題に自分たちだけで立ち向かうことはできないのである。APINDOは政府と協力して職業訓練プログラムを開発している。インドネシアでは毎年300万人の新たな労働人口が創出されているが、データによれば職業訓練学校の卒業生は需要ベースでせいぜい5万人、職業訓練センターの修了生は25万人である。これらを合わせても30万人で、新たな労働者の10%に過ぎず、残りは小・中学校や高校、大学の新卒者である。ILOの報告書によれば、労働者の半数に学んだことと実際の仕事の内容のミスマッチが起こっているという。政府は毎年400兆ルピアの予算を教育に充てているが、教育の質はまだ極めて低い。このような状況に対し、教育の中でも特に職業訓練や企業内での実習プログラムの質を改善するべく政府をサポートするのがAPINDOの役割である。
2. 「プログラム実習制度」の課題
プログラム実習制度は、企業と政府又は民間の職業訓練機関とが協力し、労働者に企業で働きながら技能を身につけてもらう制度である。参加中の実習生には手当と交通費が支給される。実習期間は最大1年。
各企業が独自に設定した職業訓練基準を満たすことができれば修了証が与えられ、実習を受けた企業や同業他社に就職する道や、独立自営業者になる道が開ける。企業内でのプログラム実習制度は、実習生が企業での経験を積み職業能力を身につけることが出来るとして評価される一方で、その活用には多くの課題がある。以下の3点が主な課題である。
(1) 実習生の勤務時間に関する規制の問題
特に24時間の勤務体制を取るホテル業界における実習生のシフト勤務時間や残業時間に関するものに多くの課題がある。
(2) 実習生のなり手不足
カラワン県とブカシ県で初めて立ち上げられたパイロットプロジェクトでは多くの実習生が採用されると見込まれた。ところが、プロジェクトが始まると実際に企業で採用してもらえる実習生の数は少なく、まとめて50人を探すことも困難であった。労働局によればカラワン県で実習生として見込まれる者はわずか30名だという。業界が求める要件を満たす実習生を確保するための方策が必要である。また、企業の要件を満たさない者、例えば小学校又は中学校卒業レベルの者をどう扱うか、企業の受け入れ態勢も含めて大きな課題である。
(3) 異なる業界に合わせたカリキュラムの開発
インドネシア中央統計局の労働力人口調査によれば、最終学歴が小学校・中学校の労働者は全労働人口の約60%で全体の過半数を占めている。その理由として、彼らは働けるのであれば仕事を選ばないため、失業するケースが少ないことが考えられる。反対に、失業者のデータを見ると、そのほとんどが雑用的な仕事はしたくないなどといった職業訓練学校の卒業生である。また、インドネシア産業界において重要な問題とされているのは5%という労働生産性の向上率の低さである。賃金が2011年から2016年まで常に前年度比100%以上で上昇していることを考えると、この2つの数値は明らかに不均衡である。プログラム実習制度によって、労働生産性を20~30%向上できると期待されている。
プログラム実習制度においては企業が適切なインフラを、また政府が講師やカリキュラムを提供することが必要である。規制によって労働(実習)時間が限られているのであれば、実習生は企業の活動を見学するだけでなく製品の生産活動にも携わり、その製品も評価されるべきである。
3. 職業訓練と産業界のニーズ
プログラム実習制度を通じて、実習生は各自の能力に合致する資格が与えられる。また、各業界においては将来の環境変化やそれに伴う混乱の影響を踏まえた産業転換のロードマップを策定することが求められており、その中で労働力のニーズも予測可能となる。
(2) 海外でスキルを習得して帰国する人材探し
(3) スキルを有する外国人の受け入れ(これは苦渋の選択であるが)
4. 使用者と労働者間の賃金や社会保障、保険等に関する議論
APINDOでは、賃金はそれぞれの企業で事業計画の段階で使用者と労働者の二者協議において決定されるよう推奨している。これには次の目的がある。
・ 賃金決定のメカニズムにおける政治的要素を減らす。