AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第91号

成果事例: ダイバーシティ・障がい者雇用 よりインクルーシブな職場にするために

Mr. Ralph Ivan Gutierrez(フィリピン)

Victoria Court Malate Groupは、フィリピンでいくつかのホテルチェーンを運営しています。私はこの会社の人材管理部長を11年間務めており、現在、採用、研修、報酬管理、およびエンプロイー・リレーションを担当しています。2018年にAOTSの労使関係・人事労務管理セミナーに参加し、日本の労使関係・人事慣行等を学ぶことができ、非常に考えさせられ、充実した経験となりました。

思い出深いのは心身障がい者が働いている工場を訪問したことです。障がいのある従業員も他の従業員と同じ給与や福利を受けていると聞きました。障がい者は健常者と同じように良く働き、時には他の従業員より業績が良く、出勤状況も良いので、優先して雇用される場合もあるそうです。

日本には障がい者雇用を促進する法律があって、会社や政府機関は、一定の割合で身体的、知的、または精神的障がい者を雇用する義務があるとのことでした。フィリピンでは、行政機関だけが労働力の少なくとも1%にあたる人数の障がい者を雇用しなければならず、民間企業には障がい者雇用の義務はありません。

私はこの経験に非常に感銘を受け、当ホテルでも障がい者を雇用しようと思いました。当ホテルで障がい者を雇用することにより、職場のダイバーシティとインクルージョンを推進し、誰もが働ける職場を作りたいと思ったからです。また、スタッフにダイバーシティとインクルージョンに関する研修を行い、障がい者が必要としていることについて把握し、理解を深めてもらうことを求めました。

この取り組みを始めるにあたり、障がい者に組織への就職機会を提供している財団と提携しました。Unilab財団とフィリピンろう学校にアプローチし、Unilab財団には当ホテルで障がい者対応プログラムを実施してもらいました。たった6か月の間に、7名の障がい者を採用するに至り、その全員が今では正社員となっています。大半が聴覚障がい者で、清掃係、洗濯・リネンスタッフ、およびキッチンヘルパーとして働いています。障がいのある従業員を採用してからここ数か月、彼らの上司から、従業員定着率、忠誠心、生産性、および出勤率などに良い影響があるという、非常に良いフィードバックを得ています。彼らがホテルにいるだけで、感謝、仲間意識、指導力が高まり、部門間のチームワークも改善されました。

ホテルにおいて障がい者も活躍できるインクルーシブな職場づくりの取り組みを維持するため、「4A体制」を立ち上げました。

(1)意識(Awareness):
障がいに関する組織の知識を確立し、障がい者に活躍の場を与える雇用に対する組織の認識度を評価する。

(2)受入れ(Acceptance):
経営陣が障がい者に活躍の場を与える雇用に賛同し、障がいのある従業員の支援制度をつくる。

(3)適応(Accommodation):
障がいのある従業員が環境の変化に対応するために助けを必要とする分野を特定し、彼らの潜在能力の発揮を最大にする適応策を行う。

(4)評価(Appreciation):
職場における障がい者の能力を認識し、他社にも障がい者に活躍の場を与える雇用づくりを呼びかける。

今後数か月間、引き続き当ホテルで働きたい障がい者を採用していくつもりです。当グループのホテルをよりインクルーシブな職場にする取り組みを推進するため、今後もフィリピン盲ろう学校と提携し、大学卒業後、障がいのある学生がホスピタリティ業界で就職する手助けをしていきます。

当ホテルで障がい者の雇用を開始してから7か月しか経っていませんが、当ホテルの事業にとって良いことだったと確信をもって言えます。障がい者の在職期間は長く、健常者と同等またはそれ以上によく働いてくれます。ブランドイメージが向上し事業の業績も上がっており、お客様は本気でインクルージョンに取り組んでいる企業を高く評価しています。今年は、障がい者の生活の質に対する改善と意識啓発に引き続き取り組み、より健全でインクルーシブな職場づくりを図っていきます。

障がいのある学生が大学を卒業後円滑に就職できるようフィリピンろう学校と提携

障がい者雇用支援に関する賞の受賞

当ホテルで働く障がいのある従業員(清掃係、洗濯係、キッチンヘルパー)それぞれ聴覚障がい、難聴、指損傷等の障がいを持つ

障がい者対応研修プログラム