AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第86号~第88号

Contents

 1.  ベトナムにおける労使関係構造刷新のための主な新要件
 2.  ベトナムにおける労使関係刷新のための要件
 3.  ベトナムの労使関係問題におけるVCCIの役割

 ベトナムは、安定成長を遂げる非常に有望な市場であり続けている。労使関係の刷新と更新を求める新しい要件が幾つかあり、労使関係関連3団体は、国内の労働環境の調和を維持するための新しい枠組みの構築のために協働している。


2016年のベトナム総選挙後、新政府は、事業活動と国民生活水準に好適な環境の創出に重点を置き、新設された事業体数は、2016年は11.6万社、2017年は11月までに12万社を記録した。家内経営事業者数は5百万超という高い数値を維持し、非常に多くの人々が事業活動に関与している。


円滑な成長を維持するため、ベトナムは、事業活動に良い基盤を築くために様々な貿易円滑化協定や経済活動に積極的に参加し続けている。海外直接投資に関し、ベトナムは外国企業の国内への誘致及び投資に積極的であるが、現代技術を持ち、環境に優しく、国の持続可能性を保証する企業を求めている。

好適な事業活動環境の創出に重点を置くほか、ベトナムは国内の労使関係を管理するため、規則と法律文書の制定により注力している。

1. ベトナムにおける労使関係構造刷新のための主な新要件

労使関係に関する新しい要件と共に、ベトナムにおける労使関係の刷新プロセスに対してもいくつかの要求事項がある。

(1) 国家方針による市場志向経済の実現

1976年の再統一後、ベトナムは、集権的計画経済メカニズムを採用し、経済活動ためのベストプラクティスと基礎の創出を妨げこととなった。数年にわたる不景気と低成長、高いインフレ率等を経験した後、1986年にベトナムは経済の刷新を開始することとなった。30年間の刷新のプロセスを経て、ベトナムは国の指針の下、独自の市場経済を確立した。この期間中に労使関係が確立・更新され、同国にて噴出する労使関係の課題解決のため新しいメカニズムが求められるようになり、特に労使紛争解決のために対話型メカニズムが求められることとなった。依然として残っている古いメカニズムとともに、労使関係に関する課題は新しいビジョンと実態に基づいて見直され、それまでのような政府による直接的統制ではなく、一連の法律により管理されることになった。

(2) 工業化過程と工業地域・団地の設置

ベトナムに産業経済を築き上げるという目標を達成するため、ベトナムはある地域及びその近隣地域の人々にとって魅力的な工業地域・団地に企業を誘致・グループ化する政策を継続して採用している。他方、労働者は生活の要求を満し、雇用主から不利益を被る可能性があると思われる事から自らを守るため、独自の労働組合を広範囲に設立する傾向がある。新しい規制の枠組みは、効率的な労働組合と組合活動のための法的枠組みの下に労働者を団結するという必要性に拠らなければならない。

(3) 労働問題に関する国際協定下の統合プロセスとエンゲージメント

統合のプロセス、特に新しい世代の自由貿易協定への参画において、ベトナムの労使関係、特に団体交渉権に関する新規制及び現行体制の刷新が要求されている。また、ILOの加盟国として、ベトナムは労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言(1998)に関する責任を果たさなければならない。
2016年の労使関係ワークショップによれば、ベトナム政府、労働組合および使用者団体は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)およびEU・ベトナム貿易協定(FTA)を含む新しい取引協定の労働要件を鑑み、労使関係法・機関・慣行を改善するという確約をした。ベトナムが締結する16のFTAにおいて、TPPは労働条項を含む初の協定である。TPPは新たな国際労働基準を設定していないが、例えばEU・ベトナムFTAは、ベトナムに国際労働基準法規を採択・整備し、ILO宣言で規定された権利を遵守することを求めている。なお、同権利には結社の自由、団体交渉権および強制労働・児童労働・職場における差別の排除が含まれる。Chang-Hee Lee ILOベトナム事務局長は、「TPPのもとで結ばれた経済的利益に見合う国となるためには、ベトナムは大きな労働改革、特にその労使関係システムの改革に乗り出さなければならないだろう」と述べた。TPPは以前、12か国が合意したものの米国の撤退により延期を強いられたが、残りの11か国は「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」と呼ばれる新協定の模索に合意している。(注: 2018年3月9日に署名済み)

2. ベトナムにおける労使関係刷新のための要件

 

労使関係に関する新しい要件と共に、ベトナムにおける労使関係の刷新プロセスに対してもいくつかの要求事項がある。

(1) 組合及び労働者代表組織の設立の必要性

労働組合の設立は労働者の基本的な要求である。労働市場が発展すればするほど組合や共同体も発展する。それは1企業から始まり、時と共に産業や地域全体に広がっていく。
事例を作るためではなく、ニーズに応ずるため、労働者代表組織が設立される。国際協定に記載されているように、労働者は独自の組合を設立する或いは、自らの意思で労働者代表組織に参加する権利がある。良い労働組合の事例のみが労働者の参加を促すことができる。

(2) 労使協議

2012年改正労働法及び2013年政令第60号は職場での労使協議に関する条項を規定しているが、それらをどう適用するかは多くの企業にとって課題となっている。労使協議は新しいものであが、その性格を考えると、特定の形式で実施されるよう指導されるべきではなく、自然な方法かつ実効性のある形で実施されるべきだろう。

(3) 団体交渉と解決

労働協約の多くは、他の企業のものをコピーしたり、主な概念を法律文書から引用して作られ、労働組合の多くも使用者により管理され、また労使関係の問題は、団体交渉のプロセスによるよりも、その解釈のために拠るべきガイダンスが法律文書に過剰なまでに示されている。

(4) 団体労働争議の解決プロセス

労働争議は、労働組合によるものではなく、主に従業員同士の中で生じており、法律に定められたプロセスが回避されていた。1994年の労働法典の発布から、5,500件を超えるストライキが記録されており、その主な理由は以下のとおりである。
– 労働争議解決の全プロセスは強制的且つユニークである。全当事者に選択肢がなく、法律のプロセスと手順に従わなければならないので、法律違反の要因となっている。
– 合意形成は、具合的な状況に基づく両当事者の意思に因るものであるが、非常に詳細なプロセスに至るまで規定されている。労働争議の審判員は不足しており、専門性に乏しく、争議解決のプロセスは最初の段階で行き詰っている。

(5) 労働協約と労働仲裁

ベトナムでは労働審判員が不足している。労働協約と労働仲裁は、労働争議を解決する二つの主要な方法であるが、今のところ上手く機能していない。

(6) パブリックガバナンスの新しい役割

集権的計画経済から市場志向経済への移行により、政府は新しい役割を担うことになった。政府は、労使関係を規制すると同時に、支援と指導を提供する法的枠組みを設定することが求められた。

(7) 労働監査

ベトナムには50万を超える企業があるが、労働監督官は500人しかおらず、大量の要望に対して労働監督官の数が十分ではない。少ない人数で、情報を収集し労使関係の問題を解決するため、効率的なコミュニケーションネットワークを国レベルから地方レベルに至るまで作り上げなければならない。

(8) 労使関係に関する支援活動

刷新プロセス以降、ベトナムでは労使関係が広く発展してきた。現在、2千万人を超える人々が労働力となり、様々な経済分野で働いている。しかし、労使関係に関する情報と知識は、低いレベルもしくは皆無の状況に留まっている。労働者は労使関係に関する課題を理解していないだけでなく、研修を受けたこともない。パブリックガバナンスに関して、現場労働者は特に市場経済下における労使関係について完全に理解できているとは言えない。従って、労使関係の法的枠組みを構築する他に、政府は労使関係分野、特に団体交渉、労働争議の回避と解決に関する問題により注力する必要がある。

3. ベトナムの労使関係問題におけるVCCIの役割

 

ベトナムの実業界、経済団体および使用者団体を代表する全国的組織として、ベトナム商工会議所(VCCI)は、ベトナムにおける労働問題の法的枠組み設定に非常に重要な役割を果たしている。VCCIは、ベトナム実業界のため、スタッフを法律文書作成に関連する種々の会議に参加させ、労働争議解決に努め、指導を行っている。ただし、VCCIの人的資源も非常に限られており、事業活動の隅々にまでは手が届いていない。

VCCIが国内の労使関係にどのように関与しているかを以下に示す。

– 労使関係と労働問題に関する必要な原理の設定及び法規の改正・更新を行うため、全国レベルの政労使の三者協議に積極的に参加している。
– VCCI傘下で事業を行うために、国内の全経済団体を集め、全国レベルのビジネス評議会を設立している。同評議会の活動は、労使関係を含む全ての経済課題に集中している。
– 労働市場や労働問題について研究し、労使関係に関するワークショップや研修コースを開催している。
– 様々な団体からの情報及び課題を収集する恒久的なチャネルを維持し、適切な方法で、特に労働問題の解決に積極的に参加し、社会的平等の保証に貢献している。