Contents 1. モンゴルの労働市場 2. モンゴルの人事制度や労働争議等 |
モンゴルは国土が日本の4倍もありますが、人口は312万人で東京都の約4分の1、主要産業は、鉱業、牧畜業、農業です。
1. モンゴルの労働市場
(1) 雇用サービスと創出
モンゴルでは質のよい雇用サービスの提供には限りがあり、顧客サービスや産業相談を行う施設も、特に首都ウランバートルで不足している。顧客担当係が自身のサービスの仕方を確認できるような業務手順のマニュアル的なものもなく、カウンセリングや求職マッチングも不十分で、かつ研修も少ない。また、雇用後の労使への支援、雇用サービス評価、労働市場情報システムも課題を残している。
雇用サービスを改善するには、下記の措置を講じる必要がある。
1) 担当者用の運用プロトコルと必要なツールの開発、及び求職者や雇用者へのサービス強化
2) 組織内での労働者育成制度の構築、及び労働者の仕事量の見直しと合理化
3) 顧客サービスのための施設等の改善
4) 労働市場情報システムの見直し、及びオンライン求人検索ツールの改良
2016年11月の労働市場データによると、同国では49,215人が積極的に求職を行った。そのうち33,600人は登録失業者で、14,119人は就業中であるものの、収入を増やすための補助的な仕事を探した。登録失業者の78%は、高卒ないしは大卒者で、65%が15~34歳の若い世代であった。学校を卒業しても求職中か、居住地を変えたり解雇されたりした人が68%いた。
使用者団体等によれば、労働市場には67,418の勤め口があり、上記49,215人のうちの60%が仕事を見つけた。就職先のほとんどがサービス、建設、工場、及び農業セクターであった。カウンセラーによる個人面談を9,456人が受け、そのうちの5,530人が女性であった。セミナーには29,800人が出席し、女性参加者は14,152人であった。
(2) 政府による雇用プログラム
モンゴル政府の「小規模融資と財政支援」プログラムにより、2016 年には950人の自営業者と27組織が融資を受けた。同年の銀行融資総額は24億2,550万モンゴル・トゥグルグ(MNT) (約1億1,278万円)。この結果、1,498の雇用と112の臨時職を創出した。また、同政府の「雇用と就労継続のための技能訓練」プロジェクトにより、同年1~11月に、7,252人に対し約20億7,697万MNT(約9,657万円)を使って3,180の雇用を創出した。このプロジェクトは労働省を通じて21県と、ウランバートル市9地区で実施された。
一方、青少年の職業教育支援プロジェクトにおいては、20県と首都7地区で、2016年の11カ月間に7,046人が就職した。さらに2,033人の学生や若者を対象とした社会福祉事業には、県や首都で約2億1,666万MNT(約1,007万円)が使われた。障害者雇用支援プロジェクトでは、3,876名に対し約19億8,210万MNT(約9,216万円)を使った。労働安全衛生については、370の研修が労働者を対象として企画され、特に建設業によい結果をもたらし、事故もある程度、減少してきている。
(3) 牧畜業と外国人雇用
モンゴルの地方では、牧畜農家に家畜を提供するプロジェクトが実施された。計1,111世帯(2,234人の牧畜者に相当)に約49億1,052万MNT(約2億2,833万円)を投入し、羊30,585匹、ヤギ33,024匹、馬17頭、牛1,583頭を提供した。本プログラムは、同国の特徴や生活様式に合致しているため、好評であった。
同国ではまた、72,388人の外国人が雇用のサービス・相談を受け、2016年の11カ月間に83カ国の9,870人が就労許可を得て働いた。外交関係枠組の中で、同年同期に940人のモンゴル人が韓国で臨時雇用され、そのうち男性は841人で、女性は99人であった。
2. モンゴルの人事制度や労働争議等
(1) 労働関係の法律
自由市場に移行中のモンゴルで、最初に採択された法律の一つに労働法(1991年)がある。その後、数々の修正が加えられてきた同法は、賃金の分配・規制に関する団体協約について規定しており、企業、産業、組織及び経営者は同協約の交渉権を持つ。現在、労使関係に影響を及ぼす法律はおよそ300あるが、労働省、モンゴル雇用者連盟(MONEF)、労働組合は、自由市場主義社会に合う労働法の様々な改善案を国会が採択するよう、共同提案書を提出した。この提案書は何度も見直しが行われ、従業員、労働、賃金を公正に評価する必要性や労使関係の改善の付記があるものの、思ったほどの進展が見られない。
(2) 三者間関係
とは言え、モンゴルの労使関係における最大の成功は、政府、労働組合、使用者団体による三者制度の導入(1992年)である。以降、この三者は明るい将来を見据えて協力し合い、首都ウランバートルで全国大会を10回、地方でも多くの会議を開いてきた。主な成果には、1) 合意に至るために効果的に会議が開催できる、2) 全国レベルの、経済・社会的な合意に達しやすい、3) 労働の基本要素と社会保障の最低ラインを明確にできる、がある。近年は、関税、投資、健康保険、賃金等の重要な問題で多くの企業の合意に役立っており、今後、さらに多数の産業部門の加入が見込まれている。
(3) 人事制度
モンゴルの人事管理の最大の課題は、だれもが満足できる賃金制度の設計である。社会の変化に伴い、労働者の大多数のニーズと興味に合った賃金制度にすることが重要になっており、あらゆるレベルの労働者にとって、成果主義に基づく賃金の支給は魅力的である。経済の低迷時に、民間セクターが能力に欠ける労働者に業務を与えるのは難しく、また同セクターは少数精鋭の従業員を選ぶ傾向にある。よって人事制度の確立には、リサーチ、管理能力、慎重な立案が肝要で、下記の要因に留意すべきである。
1) 外的要因 : 経済、人口、社会・政治・法的環境、技術及び競争
2) 組織要因 : 賃金、ビジネス戦略、生産性レベル、技術、及び組織の文化
3) 雇用要因 : 退職、解雇、死亡、休暇及び異動要因
また、技術革新が進み、競争が激化している時には長期計画を立てることは難しいが、人材採用において、企業が考慮すべき技能には次のようなものがある。1) 技能のレベル、2) 専門性や個人の業績等の特定技能、3) 現職と前職の給与額、給与増の理由、役職等の職歴、4) 業務内容、評価、処罰等の前職の情報、5) 健康、心理学テストのスコアと評価等の潜在的能力。
(4) 公正な評価
(5) 労働争議の理由
ここ数年、使用者から政府機関に、労働争議や意見相違に関する苦情が数多く出され、労働訴訟は10倍に増えている。これらは主に、雇用契約法外の雇用主と従業員との間の個人的な不和により起きている。従業員が雇用主と交渉ができない場合、通常、裁判所に和解の申し立てをする。
MONEFは、労働争議や意見の不一致が増えた理由を調査し、主なものは1) 給与、2) 労働協約の条件、3) 重大な事由なき解雇、と確認できた。ほとんどは給与(従業員:39%、雇用者:26%)が引き金になり、次に労働時間や休暇に関する不一致(同:19%、同:16%)が来ている。
一方、使用者は、労働法に自分たちに有利な権利を加え、責任感の薄い従業員に罰則を与えたいと思っている。モンゴルのような途上国では経済が低迷すると、ビジネス界にも悪影響が及び、労働争議も起きやすい。使用者団体は、それを大局的に見ており、労働争議があり経済が思わしくない場合は、三者間で解決策を見出そうとしている。