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1. 南アフリカの雇用状況、日本・南アの経済関係
(1) 南アフリカの雇用状況
1997年2月に発効した南アフリカ共和国(南ア)憲法は、過去の不平等を是正するための必要手段として、変革を認めており、開発途上国の中では最も進歩的な憲法の一つとされている。
しかし民主化の到来以降、20年にわたる政府・企業の介在にもかかわらず、南アの人種・階級間の不平等はいまだ激しく、高い失業率も経済の発展を難しくしている。実際、国家所得の70%を富裕層の20%が稼いでいるのに、貧困層の20%は2.3%しか稼いでいない。一人当たりの月額消費(中央値)は、アフリカ系は454ランドだが、白人系は5,668ランド(1ランド=約8.5円、2017年)。この不平等をなくすには、国民の多くが、経済活動において有意義な役割を果たせるような変革が必要である。
南アの失業には二つの定義がある。積極的に仕事を探している、厳密な狭い意味での失業と、仕事は欲しいが希望を持てず、積極的には求職していない広い意味での失業である。同国の狭義の失業率は27%(2016年第3四半期)で、過去13年で最も高かった。一方、広義の失業率は36%で、900万人近くが無職である。そのうち、1年超の失職者は3分の2を超え、15~24歳の失業率は66%。若年層の失業は南アの緊急の課題で、2009年の300万人から、2013、2014年には340万人と最高記録を作った。南アの失業は、アフリカ系、高等教育を受けていない者、若者、女性の間で最も深刻である。
南アには、国民の貧困を削減し生活状態を改善するのに不可欠な、持続的経済の成長と雇用の創出がない。労働市場が求める技能と、労働者が教育・訓練で得た技能にミスマッチが起きていることも課題である。
同国の中小零細企業部門は未成熟ではあるが、雇用創出が最も活発な部門という調査結果が出ている。また、終身あるいは安定した雇用が激減し、臨時の不安定な仕事にとって替わられている。これは労働市場の変化に応じて、より柔軟性のある労働力が必要であることを示唆している。
2012年に導入された国家開発計画(NDP)は、2030年までに労働力の参加を65%まで増やし、失業率を6%に下げることを目指している。すなわち、現雇用の1,350万人に、さらに1,100万の雇用を創出していかねばらなない。NDPは、インフラ投資、教育・訓練・医療の改善、汚職との戦いに焦点を当てて、これらの目標を達成しようとしている。
南アの労働の将来は、自動化、人工知能、生産システムといったグローバル要因と、失業、経済成長、不平等、規制というローカル要因に影響されるが、 鍵となるのは中央値が約20歳という若い人口である。 他に類を見ないこの人口形態により、教育や訓練の実施やその内容に斬新性が求められ、政府と産業を巻き込んだ総合的職業訓練制度の重要性も再認識されている。
(2) 日本・南アの経済関係
日本と南アの2国間貿易の総額は、2014年には938億ランド(約8,000億円)に上昇し、130社以上の日系企業が南アで営業、150,000以上の雇用をもたらした。日系企業の南ア商工会議所への加盟数も2年間で49社から65社に増えた。
両国は特にインフラ整備等の分野で関係強化に努めている。NDPが重視しているインフラ投資は、南アの社会・経済目標を達成するため、電気、水道、衛生、通信衛星、公共交通などの基本サービスを提供するのに必要である。南アは、再生可能エネルギーを供給する際、独立した電力生産者の参加を増やすことにより、公共部門と民間部門を結びつける新モデルを開発した。
南アのエネルギー問題は深刻で、この解決に期待されるのが日本の技術と経験である。石炭は経済成長を維持する上で重要なエネルギー資源であり、気候変動に対する効果的な対処法として、石炭火力発電を含むクリーンな石炭技術の重要性を両国は共有している。さらに安定したエネルギー供給に貢献できるメドゥピとクシレの大規模石炭発電所建設も歓迎している。
2013年9月、日本と南アは、水資源管理と水関連災害リスク削減における協力の強化を確認し、共同主催のセミナーを通じて、水関連のシステムと技術が提供されている。水分野における人材育成のため、日本は南アの20の自治体関係者に対し、飲料水供給、廃水処理施設、水質試験所の研修を毎年、スポンサーしている。
2. 南アフリカの労働法・規制、今後の方針提案
(1) 南アフリカの労働法・規制
南アの主な雇用関係法には、「労働関係法」(1995年、2002年改正)、「雇用基本条件法」(1997年、2002年改正)、「雇用均等法」(1998年)、「技能開発法」(1998年)、「失業保険法」(1996年、2001年改正)、「労働安全衛生法」(1993年)、労働災害補償法(1993年)等がある。
雇用保障の法令は、国籍に関わらず、南アで働くすべての労働者に適用される。法令で特に認められている場合は別だが、労働者は法で定められた雇用保障がないところでは、契約を結べない。
雇用保障の法令は、多くの場合、全国経済開発労働評議会(Nedlac)が策定した法廷実施基準か、労使調停委員会(CCMA)が発行した非法定実施基準に支持されている。だが、これは指針を提供するだけで、必ずしも法的効力を持つわけではない。しかしながら、経営者の雇用法違反を労働裁判所が判断するときには、法廷実施基準を考慮している。
南アの労働協約は通常、経営者と労働組合の間で結ばれ、「労働関係法」は、労働協約の優位性を支持し、組織の労働力と経営者との関係は規制されるべきとしている。
大企業と強力な労働組合との交渉は、往々にして市場水準を超える賃金に帰結することがある。つまり、賃金交渉が経済状況に対応していないため、失業率が高くなってしまうのである。加えて実質賃金は生産性を上回り、企業は労働力を減らす結果となり、業界全体が労働協約を受け入れることで、小規模の企業にとってはコスト競争が厳しくなる。業界レベルの交渉をすれば、主に中小企業の雇用が8~13%減ると推定した研究もある。
こうした激しい賃金格差の改善策として、労働省への報告義務を負う指定企業は「雇用公平年次報告書」において、職種ごとの報酬と給与に関するデータを提供し、労働大臣の指導に従い、労働交渉、部門別決裁、同一労働同一賃金、技能開発法令等の、格差削減措置について報告する義務がある。また月額3,500ランド(255米ドル)の国の最低賃金も検討中である。
2014年施行の雇用税インセンティブ法は、政府が若年労働者の雇用費用の半分を持つことで、青少年の雇用を促す法律である。発効後の初期評価では、70万の新雇用が創出された。
もう一つの重要課題は、南アの零細中小企業の創出数と生存率が世界最低であることである。同国におけるインフォーマル経済は、信用貸しや土地へのアクセスの少なさ、高い犯罪率と官僚主義等の悪影響により、労働市場の20%にも満たない状況である。
高い失業率や激しい不平等、技能不足に直面している南アでは、不安定労働への対処や最低賃金の導入などが議論され、収入の不平等への対処が求められる。労使関係に関する社会・経済的不平等の影響は、公共・民間部門全体で定期的に労働争議が起きていることで分かり、とりわけ鉱業、農業、鉄鋼製造業で顕著である。
(2) 今後の方針提案
国家政策には選択が必要で、労働者の賃金アップ、または、より充実した雇用のどちらを優先するのかを決めるべきである。南アは、起業家及び外資系企業がビジネスをするのに魅力的な場所であるべきで、労働・人材政策、さらには文化政策を、この目的達成のために調整する必要がある。南アそして世界の人々が買いたいと思う商品を生産することが成功への道であり、企業や労働者は対立的なアプローチから協調的なアプローチに変わる必要がある。
南アは、労働需要の不足に加え、構造的失業問題も抱えている。技能のミスマッチは大きく、若者を教育し、その他の世代を訓練するために限られた資源を整理すべきである。
最後に、南アの雇用問題を解決する際の障壁として、指針となる労働市場モデルの欠如がある。よって、労働市場分析の主要枠組を開発するためには、研究成果と洞察力を結集することが不可欠で、国民全員のために政治的解放を経済的福祉に変えねばならない。すべてのステークホルダーは、国家開発計画(NDP)(2030年までに労働力参加を65%まで増やし、失業率を6%に下げる)にコミットする必要がある。