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1. インドネシアの労働組合
インドネシアは、ILO87号条約「結社の自由及び団結権の保護に関する条約」を1998年に批准している。 スハルト将軍による新秩序が終わり、替わって改革の時代に入った直後のことである。 この批准と労働組合に関する2000年第21号の法律の採択によって、労使関係に根本的な変化が起こった。 インドネシアでは、単一の労働組合から複数組合の容認へと変化したのである。 事業所レベルで10人の労働者が同意すれば、組合を設立できるようになったため、 インドネシアでは労働組合が急速に増えていった。
1998年には、ナショナルセンターとして1つの労働組合しかなかったが、 2010年には、4つの労働組合連合となり、さらに2年後にはナショナルセンターとして、 以前より大きな6つの労働組合連合が結成されている。
労働組合の発展を見ると、ILO87号条約とインドネシアの労働組合法で規定した 「結社の自由」を実行するインドネシアの労働者のエネルギーのうねりが伝わってくる。 しかし、私たちは、労働組合の急増は、組織化された労働組合員数の増加に必ずしも対応していないと考えている。
2014年8月の中央統計局が発表した統計によれば、労働者数は1億2,532万人で、その内正規労働者が43,340,961人である。 他方、労働組合員数は2012年の人材開発省とナショナルセンターである6つの労働組合連合のデータによれば、 3,414,455人に留まっている。
最近の労働者組織と労働組合員数の変化は以下の表の通りである。
No. | 2010 | 2012 | 増加 | |
1. | ナショナルセンターとしての労働組合連合 | 4 | 6 | 2 |
2. | 労働組合連盟 | 91 | 91 | ― |
3. | 工場レベルの労働組合 | 11,786 | 11,852 | 66 |
4. | 国有企業の組合(工場、企業レベル含む) | 170 | 170 | ― |
5. | 労働組合員数 | 3,405,615 | 3,414,455 | 8,840 |
労使関係の当面する課題
労使関係の当面する課題は以下の3つに大別される。
(1) 政労使3者協議において真の労働者の代表を決めるのが難しいという点がある。
特に、地域/地方自治体で毎年、最低賃金を決定する過程で難しくなっている。
賃金協議会に出席する組合代表は、構成員になっている労働者と、 審議の過程で議論されたことや決定されたことを共有できていない状況にある。 こうしたことが労働者間の不信をもたらし、また、地方自治体のリーダシップが不十分なため、 決定することで却って事態を悪化させることがある。
(2) 大規模なデモやストライキを組織することによって目的を達成するという強硬な方法を選ぶ組合がある。 そうした場合、しばしば事態の混乱を招く。 APINDOとしては、インドネシアの憲法や様々な法律で規定している 「労働者の権利と結社の自由と言論の自由」 を尊重するものであるが、同時に労働組合法や2003年第13号の法律で述べられているように、 結社の自由と言論の自由は、規則に沿って実施されねばならないと考えている。 また、組織に加盟したり、行動を一緒に行ったりする意思がない労働者に強要してはならないのである。 しかし、労働者の権利と結社の自由を求める多くのデモなどの示唆行動は、そうした規則の範囲を超えている。
(3) 労働組合に関する2000年第21号の法律は、職場における組合の権利と義務と共に、 企業外に存在する職種別組合についても規定しているが、 問題となるのは、職場の労働組合に外部の労働者が入り込み一緒に活動する場合である。
労働組合員の名前を企業と地方政府に届け出るという規定がないために、 職場における組合に外部の労働組合員が入り込んで、不適切な雰囲気となることがある。 また、経営側は交渉している相手が誰で、どこから来たのか知らないケースが発生する場合がある。
2. 最近の労使問題の課題
労使紛争決着に関する2004年第2号の法律は、労使紛争を4つのタイプに分類している。
・権利や法をめぐる紛争
・利益、利権をめぐる紛争
・雇用終了(解雇)に関する紛争
・組合員をめぐる同一企業内の労働組合間の紛争(対立)
紛争の解決の原則は、 両者(インドネシアの場合は労使のみならず、企業内の労働組合同士が対立することがある)の交渉によって合意に達することである。 合意できない場合、相手側あるいは両者が問題を地域の地方政府に提訴することができる。 提訴した段階で紛争解決のために3つのメカニズムが働く。 すなわち、 (1)地方政府の仲介、 (2)紛争当事者両者によって指名される専門家による調停、 (3)裁判による紛争の仲裁の3段階である。 仲介、調停による解決と異なり、仲裁のプロセスによる裁定は、紛争当事者に法的な強制力が働くので最終的な解決となる。
当事者のどちらかが、仲介、調停の提案を拒否した場合、問題は地方裁判所の中の労使関係裁判所に提訴される。 権利や法をめぐる紛争や雇用終了に関する紛争であれば、最高裁判所に上告することができる。 労働紛争は、解決すべき時間の猶予が強制的に決められている。 紛争当事者からの最高裁判所への訴えは150日労働日以内に決着をつけなくてはならない。
インドネシアの労使紛争は、職場における労働争議の他に、 社会(パブリック)における争点で工場の外に出て街頭デモのような示唆運動をすることが特徴となっている。 例えば、最低賃金の引き上げ、外部委託労働者の廃止、社会保障制度の適用の要求が社会(パブリック)における最近の主な争点となっている。 そうした面も含めて最近の労使紛争の問題点を見ていくことにする。
a. 雇用終了(解雇)に関する紛争の問題点
労働者法には、すべての関係者は雇用終了を防ぐためにあらゆる努力を払わなければならないと述べている。 もし、雇用終了が不可避ならば、経営者側は労働者が所属している労働組合にその意向を通知し交渉しなければならない。 また、雇用終了の交渉がなされた後で労働関係裁判所の判断が必要とされる。 雇用終了を含むすべての労使関連紛争は、一定の時間をかけて特定のメカニズムを通じて解決すべきである。 特に、犯罪となりうる重大な不正行為・過失疑惑を犯した労働者を雇用終了させるケースがそれにあたる。 雇用終了の当事者であるこの労働者が解雇を拒否した場合は、まず、インドネシアでは刑事事件として刑事裁判所で審議を進めることになる。 そして、刑事裁判所の判決を待って労働関係裁判所が判断を考慮することになる。
また、雇用終了に関し、労働者法では以下のケースに関しては労働関係裁判所の判断を必要としない。
(1) 仮採用の労働者
(2) 辞職する労働者
(3) 定年に達した労働者
経営側は、他の問題、例えば違法な雇用終了を行ったと非難が生じないように雇用終了を解決する必要がある。
経営側は、当事者である労働者が自己都合による退職を届け出るように、 また、労使両者が雇用契約の終了に同意する旨の合意に達するように説得する必要がある。 後者のケースは、さらに労働関係裁判所に合意書を登録する必要がある。 両方のケースとも経営側が合意した補償金額を支払う必要がある。
労働者法は、雇用終了した労働者への補償金額への特別の言及があるが、労使関係とは別個の問題として取り扱うことになる。
b. 最低賃金に関する紛争の問題点
最低賃金に関する紛争は普通、職場では見られない。 最低賃金に関する紛争は、主に地域/地方自治体レベルで最低賃金を決定する過程で発生する。 それゆえ、最低賃金に関する紛争は先に挙げた工場内での4つの労使紛争の範疇に入らない。
まともな生活を送れる水準を測る項目として60の項目 (注: 飲食物11項目、衣服13項目、住まい26項目、教育2項目、健康5項目、交通1項目、娯楽・貯金2項目) がある。 この生活水準の必要額が最低賃金を決定する変数となる。 賃金評議会は、生活が行われる場所での上記の項目の選択項目を選ぶことから議論を始める。 インドネシアでは様々な条件が場所によって非常に異なるため、各地域で生活水準を測る60項目が異なっている。 賃金評議会はそれぞれの項目の具体的な商品名を定め、どこの市場で売っている物かを定めなければならない。 調査は最低賃金評議会に参加する政労使の三者構成によって行われる。
賃金評議会は調査の結果を議論し、この生活水準について結論を出し、結果を地域/地方自治体長に勧告する。
最低賃金は、地域/地方自治体長及び地方レベルの賃金評議会からの提案を受けて、毎年、政府が決定する。
最低賃金を決定する過程では、工業地域関係者の反応が熱くなる傾向がある。 それゆえ、私たちは、賃金評議会の調査結果が、最低賃金を決定する際に決定的な役割を果たすように進めることが必要だと考える。
一旦、最低賃金が決定すると、紛争が職場に移行する場合がある。 最低賃金は、1年以上働いた労働者の「セーフティーネット」であるが、 最低賃金の上昇は、しばしば会社の年齢の高い労働者に同じような賃金上昇の待遇を求める要求を引き起こすことがある。
c. 外部委託労働者廃止に関する紛争の問題点
2003年の法律13条では、「コア」と考えられる仕事は外部に委託することはできないと述べている。 しかし、「コア」と「コア」でない仕事の定義は曖昧であるため、労使間での「コア」の定義は一致せず紛争の問題点となっている。 委託された仕事が「コア」の仕事と見なされた場合、会社は、労働者が委託会社に雇用されていても、 法的に労働者の雇用に責任があることになると規定されており、この法律は、雇用者が誰かを不明確化にすることにつながっている。
d. 国民皆保険制度の実施(国家社会保障制度の一部)に関する紛争の問題点
大統領令2013年111号に基づき、国営企業、大企業及び中小企業は、 2014年1月1日に国民保険サービス提供者のBadan Penyelenggara Jaminan Social Kesehatan (BPJS Kesehatan)に加盟し、 労働者をBPJSの会員に登録しなければならなくなった。 しかし、国民保険制度は2013年1月1日に始まったばかりであり、そのインフラは今日まで十分に整備されていない。 多くの企業は様々な手段を使って、独自の保険制度を備えている。 個々の企業が持つ既存の保険制度を国民保険制度に統合するのは、いまだ、道半ばである。
3. 使用者団体から見た労使紛争への対抗措置
これまで労使紛争分野で多くの経験を積んできた立場からAPINDOとしては、 以下の要請を関係部署に緊急に提起したいと考えている。
(1) 最低賃金決定に関する規定の検討
州/地域/都市の最低賃金政策は、使用者団体、労働者、求職者の利益を配慮して、セーフティーネットとして策定されねばならない。 不適切な政策については、関係する人々に利益を生むような政策に抜本的に改定する必要がある。 最低賃金に関しては、信頼のおける第三機関に集中化させ優れた政策が遂行できるようにするためにも、 早急にテクノクラート的なアプローチが必要だと考える。
(2) 生産性が低い能力不足の労働者に対しては、APINDOは労働者のための国家訓練基金の設立を要望している。 また、APINDOは政府所有の訓練センターを活性化するために、民間部門の参加の重要性を提起している。 訓練センターで研修を受けた労働者の質は労働市場の要求にマッチすることが期待される。
(3) 国民皆保険制度実施の延期
国民保険サービス提供者が必要な手段と制度を備え、 迅速に処理できる体制が確立されるまで国民皆保険制度実施を延期することを要望する。
(4) 最後に重要なことであるが、人的資源に関する2003年第13号の法律の再検討がある。 この課題は何年も議論され、ひろく知られているが、再検討が行われてこなかった。 つまり、雇用の終了、労働者の弁償、アウトソーシング労働者の概念は、もう一度、検討されるべき重要な課題である。