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1.ミャンマーにおける労使関係の現状
ミャンマーにおける労使関係は混乱と変化の段階を迎えています。2011年の開国後、国際化のベストプラクティス(最良の事例)、労使関係、コンプライアンス、標準及びその他多くのことがミャンマーに持ち込まれました。経済改革の結果、 2012年の新たな外国直接投資法の導入により、ミャンマー国内に多くの外国直接投資が行われました。しかしながら、脆弱な法体系、時代遅れで見直しが必要な法律は、労働とビジネスに関する法律に対する乏しい知識と理解同様、国内の労使関係をおかしなものにしてしまいます。最近の、最も重大な変化は、2015年8月28日に制定された、一時間当たり3600チャット(2.76ドル)の最低賃金です。最低賃金法の施行日は2015年9月1日でしたが、工場には新しい賃金水準までに引き上げる時間がほとんど与えられませんでした。短い時間と多くの重要な問題の不透明さは、直近の過去数か月にわたるミャンマーにおける労使関係の混乱を招いた重要な原因でした。
ミャンマーで最も重要な未解決の問題の一つは、ボーナス、報奨金、及びその他任意の賃金と給付金の支払いに関する、新しい法律の用語についてです。それらの多くは法律上の裏付けはされていなかったものの、ミャンマーの多くの雇用者は、歴史的に様々な形で賃金の支払いを行ってきました。新しい法律はその条項で漠然と、労働者は最低賃金法が保障する額以上の支払いを受け続ける権利を有すると述べていました。労働側当事者は、雇用者は、労働者に支払われる給付金、手当、または報奨金のいずれをも、最低賃金を超えるまでは減額させることができないと解釈しています。他方、雇用者側のグループは、給付金、手当、及び報奨金を最低賃金よりも多く払い続ける権利はあるが、それは義務ではないと解釈しています。この問題の不透明さは、過去数か月でミャンマーにおいて多くの労働争議を引き起こしましたが、他にもまだいくつか例があります。
上述したように、最低賃金法を円滑に施行するための是正期間が限られていたため、不毛な労使関係を生じさせてしまいました。政・労・使の三者メカニズムの当事者は、ミャンマーにおいて、特に製造業において、流通コストが日ごとに加算されるため、得られる利益より運用コストの方が高くなってしまうと当然のことながら一致して指摘しています。解決策の一環として、雇用主と労働組合は、生産性を向上させ労使関係の強化することが重要であると合意しました。活気ある職場に根差した労使関係が、雇用主と労働者の双方の合意によって築かれ始めました。その結果は、ミャンマーの労使関係の状況の全てを表すものではありませんが、ある程度前向きな方向性を描いています。
最低賃金法を施行したことによって、以前より労使紛争は多く発生するようになりましたが、このことは現行の紛争解決システムの欠陥を浮き彫りにしています。つまり、使用者側が労使紛争を最低賃金法に則って解決しようとしている間に、労使紛争を交渉或いは法律の適用によって解決するのでなく、労働者側の賃金要求を受け入れることで解決するようにと政府が雇用者に対して圧力をかけた結果、別の労使紛争が発生してしまうのです。このことは、雇用者にとって危険な前例となってしまいます。労働者側は、紛争解決の枠組みを超えたストライキなどを構えて、政府や使用者側に、現行の法律の上限を超えた要求を受け入れるように圧力をかけてきました。また、同様の戦術を用いることにより、将来、同様の成果が得られることを狙っています。また、雇用者側からも、法律に関する知識の欠如や現行法令を適切に理解していないことは、労使関係を後退させるものであるとの指摘があります。これらのことは、地方レベルの政府職員が直面している政治的な現実と、彼らが一般的にミャンマーの新しい法律とそれがどのように施行されるべきかを充分理解していないことを表しています。
ミャンマーの労働組合及び使用者団体に関する現行法は、使用者団体の利益をいかに守るかという重大な課題を示しています。法律では、使用者団体は労働者側と「平行」した形で組織できると述べています。しかしながら、工場レベルの組合のカウンターパートは使用者団体ではなく、単なる工場でしかありませんので、これは理不尽なことです。 もう一つの大きな問題は、法律が使用者団体を細かく分野別に限定するよう規定していることです。例えば、縫製工場と靴工場は、現在、同じ地方レベルの使用者団体のメンバーになることができません。
一般的には、ミャンマーの労働組合に関する法的枠組みは未成熟であり、三者メカニズムの当事者も労働問題への取組経験も比較的少ないです。 職場での権利に関する労働者の意識が高まっている一方で、職場における自分たちの責任についての意識は広く欠落したままです。使用者側の中にも、労働者の権利に関して深く意識している使用者がいる一方で、殆どそうでない使用者がいるなどバラつきがあります。
2. ミャンマーにおける人材育成
ミャンマーにおける正式な教育部門は文部省傘下に置かれていますが、職業能力開発部門は労働省の下に置かれています。ミャンマーの教育法は2013年に議会によって承認されましたが、まだ議論されることが必要ないくつかの問題が残っています。ミャンマーには効果的な職業教育システムがありましたが、ここ20年ほどはいささか機能しているとは言い難い状態にあります。現在、国際機関の支援を受けて再生させようとしているところです。
ミャンマー労働省は技術基準局( NSSA )を指揮しながら職業能力開発に努めていますが、東南アジア諸国連合(ASEAN)とのスキルの相互認証( MRS )のために緊密に連携しています。173の業種に対してレベル1から4までの範囲で能力標準がすでに設定されていますが、その内11の業種で試験センターが能力判定を行う許可を受けています。これら11業種で400名以上の労働者がレベル1の試験を受け合格しました。
ミャンマーとタイは、衣服の縫製、木工、レンガ積み及び溶接の4業種における認証に取り組むことで合意しました。フィリピンとは、2016年にホテル・観光産業(ルームサービス、ウェイター等)において取り組むことで合意しています。
2014年に設立された現地NGO 、ミャンマープライベートTVET(職業技術教育訓練)協会は、オフィス業務、コンピューター会計、エンジニアリング関連のトレーニング、ホテル観光などの様々な研修に従事する20以上のメンバーによって構成されています。
これら全ての人材スキルトレーニングによって、人材育成関連の法的環境が明らかになってきました。また、改革派が政権を握ったため、多くの労働関係法が制定されました。
ミャンマーでは労働組合法(2011年) 、労働紛争解決法( 2012年) 、社会保障法( 2012年 ) 、雇用・能力開発法( 2013年)、最低賃金法( 2013年 )がすでに制定されており、外国人労働者法及び労働安全衛生法が新たに起草され、議会で承認されるのを待っている状態です。
使用者団体の視点からの労働紛争のための対策
ミャンマーにおける使用者団体は、工場レベルの紛争で会員企業を支援し、部門や国レベルの対話を行う内部能力を開発し始めているものの、労使紛争を解決する能力は一般的に充分身に着けてはいません。現在までに、執行委員会内に法律の専門家を有している使用者団体がありますが、フルタイム或いはパートタイムの法律専門家を雇っている使用者団体はほんの僅かしかありません。しかしながら、これらの法的資源は少ししか効力を発していません。一般的に言えば、雇用主は労働者代表と政府に対して償還請求権をほとんど持っておらず、裁判制度も、多くの場合、ミャンマーで利用されていません。メッセージは明白です。スキルに投資するか、敗れるかです。しかしながら、訓練機関への投資が成長を促すために必要であることを確認するために、使用者、労働者と政府の間で対話することが必要となります。従って、我々は、それが「ハードの技術」だけの問題ではなく、「ソフトの技術」の問題でもあることが分かります。このことは、労働者がコミュニケーション能力、交渉術及びチームワークの精神を身に付ける必要性も含まれます。地域統合により使用者、労働者と政府を一つにまとめ、一緒に働くことや対話することによって、インドネシアにより利益をもたらすことができます。これは、競争における重要な要素です。
3. ミャンマーにおける雇用システム
15の地域及び州によって管理される78の職業安定所は、申請のあった18歳以上の全てのミャンマー市民に対して、職業登録カード(LRC)を発行しています。職場からの求人に対しては、職業安定所は職場の求めに応じて求人の2倍の数の求職者を紹介し、職場で選択できるようにしています。職業安定所の役割は求職者と求人者間の斡旋ですが、実際のところは、逆の順序で機能しています。
当分の間、政府・使用者及び労働者の優先事項は仕事へのアクセスであるため、実際のところ、職場の新人はまず彼らの求めに応じて働いてから、職業安定所にリストを送り、公式チャンネルに自分の情報を乗せてもらいます。
数年前、職業安定所は申請者にプロ労働登録カードを発行しましたが、現在、これはもう行われていません。この状況を改善するために、会議が開かれ議論されています。
この制度の課題は、省庁に雇用登録データを監視、管理並びに処理する能力が不足していることです。2011年の政権交代により、大規模な都市化現象が起こり、その結果、国内外で大勢の人が移住をし始めました。ある職業安定所に登録していた労働者が、他の居住地に移る際、労働者はその転出を通知する必要はありませんが、新たに到着したところでの登録が必要となります。同じ人が再度申請しようとすると、それがどこでなされようと、合図して知らせる仕組みができる予定です。