AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第30号~第31号

Contents

   1. 従業員の職場の定着および離職
   2. 従業員の視点からの離職
   3. 企業の視点からの離職
   4. カンボジアにおける離職(および解雇)の法的手続き
   5. まとめ

カンボジア コンサルタント
Mr. NIL Keorachana

1. 従業員の職場の定着および離職

 従業員の職場の定着は、企業が直面する最も大きな課題の1つである。 定着率は離職率によって評価され、特定の期間の全従業員に対する退職者数によって算出される。 従業員の定着率は人事における重要な尺度であり、企業での経営や人事業務がうまく行われているかどうかの指標となる。 職場の定着に対する方策が効果的に働いていれば、従業員は企業に貢献している実感と職場における自分の価値を実感することができる。 一般に、どの企業も可能な限り長く従業員に職場で働いてもらいたいと、つまり離職率を低く抑えたいと感じている。 しかし、どの程度の離職率だったら健全なのだろうか。
企業が主に目指すことは、才能ある従業員を定着させ、社内で確実に成長させることである。 企業がある程度の離職率を有し、新しく新鮮な見方を持つ従業員を採用することで、利益を得ることは健全である。 使用者は常にいかに従業員を定着させるか戦略的に考える必要がある。
当社による最新の調査によると、カンボジアの大企業の平均離職率は約19%である。 調査では、セールス販売部門、マーケティング調査部門およびオペレータ部門が高い離職率に直面する3つの部門であるとしている。
同調査では、回答者が離職した理由を述べている。 離職理由は従業員の視点と使用者の視点からの見方があり、順を追ってみていくことにする。

2. 従業員の視点からの離職

 最も一般的な従業員の離職理由は、より良い給与や手当を他社に求めての転職である。 カンボジアでは、景気の良い部門で、より良い給与や報酬を求める転職は依然として問題となっている。 従って、経営者は給与に関する戦略を刷新するために、常にマーケットにおける賃金相場を研究している。 なぜなら、カンボジアは、先進国のような標準賃金がまだなく、給与・賃金の調査も始まったばかりなので、各企業が自ら調査しなければならないのである。
実際には、企業は賃金のみに焦点を絞らず、経営のリーダーシップ、教育研修、経営の権限および権限授与、労働環境などの他の面にも注意を払う必要がある。 なぜなら、これらの要因が、従業員の離職の主な理由になるからである。
従って、従業員のニーズや問題を理解するために、社内で独自の従業員意識調査を行う企業や、コンサルティング会社と共同で調査を実施する企業もある。 従業員意識調査は、従業員の問題を深く理解し、手遅れにならないうちに問題を解決するためにも、企業にとって有効な手段であり、カンボジアではよくつかわれる方法である。
下表はカンボジアの従業員が離職する主な理由を示している。

 

 

図1 離職する理由
 従業員数

 

Source: HRINC Consulting Annual Compensation Surveys

3. 企業の視点からの離職

経営の合理化やリストラのための「解雇」を除外すると、使用者主導のほとんどの離職は解雇と考えられている。 企業にとって、解雇の最も一般的な理由は従業員の能力不足であり、続いて、著しい違反行為、プロ意識に欠けた行為および非倫理的行為となっている。
下図は企業にとっての雇用契約の終了の主な理由である。
 
  1. 図2 企業が雇用終了を行う理由

 
Source: HRINC Consulting Annual Compensation Surveys

4. カンボジアにおける離職(および解雇)の法的手続き

 カンボジアで解雇について議論する場合、企業と従業員との間でどのような契約がされているのか明確にする必要がある。 カンボジア労働法では、2通りの雇用契約がある。1つ目が特定期間契約(最長2年)であり、2つ目が無期限契約である。 それぞれの雇用契約における法的な解雇の手続きは、異なる法的責任やコンプライアンスのもとで行われる。

I. 特定期間契約労働者の雇用終了
特定期間契約では2種類の解雇が生じうる。 1つ目が契約期間の満了日での解雇であり、2つ目が契約期間満了前の解雇である。

1.     契約期間満了による解雇(使用者および従業員のいずれも契約を解消しない)の場合、 労働法では企業が以下の手続きに従うことを義務付けている。

1.1.     法律に沿って契約の終了について通知する。表1に明記。

1.2.     解雇日に使用者は以下の契約終了時の支払いをする義務がある。

1.2.1.     最後の未払いの賃金の支払う

1.2.2.     未消化の年次休暇および他の手当に対する補償

1.2.3.     解雇手当(団体協約で賃金合計の5%と同等以上と定められている。 賃金には契約期間内に受給した賞与、残業代およびその他の手当(総額)を含む)

 

表1: カンボジアにおける特定期間契約での通知期間(使用者、従業員共)

雇用期間

通知期間

6ヵ月を超え1年以内

0日

6ヵ月を超え1年以内

10日

1年を超える

15日

注意: 通知期間がない場合、契約は当初の期間分延長、 または契約期間合計が労働法67条で許容される期間を超える場合は無期限契約に変更される。

 

2.     契約期間満了前の解雇の場合、労働法では企業は以下の手続きに従うことが義務付けられている。

2.1.     使用者が契約の終了前に従業員を解雇する場合、上記の表1のように事前に通知する必要がある。 さらに、使用者は最後の未払いの給与および手当に加え、未消化の年次休暇および他の手当の補償金、さらに就業の最終日までの解雇手当を支払う必要がある。 そのうえ、企業は労働者が本来受給すべき契約満了日までの賃金および事前通知の補償金も支払う必要がある。

2.1.1.     従業員が契約の終了前に離職する場合、事前通知については表1と同様であるが、使用者は退職により生じた損害と同額の賠償金を請求することができる。 実際には容易に請求できないのが実情である。

 

II. 無期限契約労働者の雇用終了

無期限契約の雇用終了についても2通りあり、企業からの解雇と従業員による離職がある。
1.     無期限契約での企業による解雇の場合

労働法では企業は以下の手続きに従うことが義務付けられている。
1.1.     使用者は法律に基づき事前に通知する。表2を参照。

1.2.     使用者は最後の未払いの給与、未消化の年次休暇および他の手当の補償金、さらに賠償金を支払う。

1.3.     賠償金については、従業員が6~10ヵ月連続で就業した場合は7日分の賃金および付加給付と同額、1年以上就業した場合は15日分の賃金および付加給付と同額である。 1年に満たない6ヵ月以上の端数は1年として数える。 賠償金の上限は賃金および付加給付の6ヵ月分を超えてはならない。

 

表2: カンボジアにおける無期限契約での通知期間

雇用期間

通知期間

6ヵ月未満

7日

6ヵ月以上2年未満

15日

2年以上5年未満

1ヵ月

5年以上10年未満

2ヵ月

10年以上

3ヵ月

 

2.     無期限契約での従業員による退職の場合

労働法では企業は以下の手続きに従うことが義務付けられている。
2.1.     従業員は表2と同様に事前に通知しなければならない。

2.2.     使用者は最後の未払いの給与、未消化の年次休暇および他の手当の補償金を支払う。

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5. まとめ

解雇や離職は、金銭面だけではなくチーム全体の雰囲気を損なう。 また、経営や組織全体にとっても損失が大きい。 人事の専門家は、解雇や離職がなぜ生じるのかを明確に理解し、軽減するための方針や制度を考案することが重要である。 プロ意識に欠ける行為および非倫理的行為が頻繁に生じる場合、このような事例が容易に生じないように、使用者は人事および人事運用方針を考える必要がある。 企業の経営方針が従業員に対し明確に表現されていない場合や、経営方針が順守されていない場合、不品行や悪い習慣の起こる可能性がある。