アジアの日系企業における日本人マネジャーの課題 タイ

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タイ経営者連盟

欧米、現地人マネジャーと比較したタイの日系企業の日本人マネジャーの課題

 

私の報告は「欧米、現地人マネジャーと比較したタイの日系企業の日本人マネジャーの課題」 ということで、日本、欧米、タイのマネジャーを比較して、任務、期待していること、 経営手法、認識のステレオタイプによる落とし穴などの主要な課題などについてお話ししたいと思います。

 

私は日本企業で働いたことはなく、かなり前に大学を卒業し、使用者団体で働いています。 ですから、報告はヒアリングした情報を元にしています。 直接的な表現が使われているところがありますが、 私を通じてタイのローカルマネジャーが言っていることを皆さんに伝えているとご理解ください。

タイにおける日本人マネジャー

タイにおける日本人マネジャーは赴任時に親会社からの任務が与えられているため、 それを達成し利益を上げていこうということを考えています。

タイ駐在の日本人マネジャーに期待されることに関して言えば、まず、 親会社から与えられた任務を効率よく達成していかなければいけません。 そのために、やはり全身全霊をこめて努力をしています。 かなり責任感を持って仕事をしています。 彼らは、タイ人は友好的であると思っていますし、言葉は障害にならないと考えています。 最近では、あらかじめタイ語を学んでくることも多いですし、もちろん通訳を使うこともあります。

しかし、実際には通訳によって問題が発生することがあります。 ほとんどの場合、タイ人が翻訳・通訳をしているのですが、通訳者が日本語をよくわかっていない場合があるのです。 ですから場合によっては、正確に通訳せずに、自分の意見まで付け加えてしまいます。 そうすると問題が複雑になり、大事な点を誤解してしまうことがあるのです。 プロの通訳を使っていない場合にそのような問題が発生しているようです。

次に日本人マネジャーの特徴ですが、規律があり、勤勉で、そして自制心があります。 曖昧さを嫌っています。そして約束を反故にする人、怠惰な人に対しては寛容さがありません。 それからタイ人のスタッフに対し、経営について考えている信念を理解してもらえるよう最善を尽くしている場合が多いです。 また、自分たちの行動は、自分たちだけでなく日本全体を表していると考えている傾向があります。 ですから慎重な行動をとっているといえるかもしれません。 また、「あきらめるな」、「がんばれ」といったモットーを持っています。

日本人マネジャーの先入観についてですが、 これはタイに来る前に日本人マネジャーが人から聞いて持っている先入観です。 タイへ来る前にいろいろなことを聞いてきます。タイ人の従業員は時間管理が苦手だと思っています。 それから社会的なステータスを大事にする。 タイの人たちはインフォーマルな形で協力をしてくれるだろうと思っています。 また交通渋滞がひどいと思っています。たしかに渋滞はひどいです。 それからタイ人というのは、業績のために私生活を犠牲にしない。 また、タイの労働組合は扱いにくいと思っています。 そして国王夫妻がとても尊敬されているという先入観を持って来ます。

日本のマネジメントスタイルとして、人の「調和」を尊んでいます。 そしてチームワークを重視し、合意によって意思を決定します。また、遅くまで残業をします。 OJTを重要視しています。生産優先から人間優先になってきています。特にエンジニアリング部門ではそうなっています。

日本人マネジャーはいろいろな部門を経験し、ゼネラリストになっていきます。 「改善」の効果を信じており、どんなによくとも更に改善しなければならないと思っているため、 ゴールのないレースをやっているといってもいいかもしれません。とにかく継続的に改善をしています。

法律を必ず遵守します。タイでは法律をあまり重要視しない場合があるかもしれませんが、 日本人は特に法律の遵守に関しては厳しいです。 それから将来の行動に関するいろいろな選択肢を考え、リスクを避けようとします。 また、企業内部での年功序列に基づく昇進が行われています。雇用慣行を変えたくないと思っています。

タイにおける日系企業は一般的に福利が手厚く、労働条件もいいです。 それから適切な訓練・研修も提供されていますし、安定的な雇用の方針を持っています。 最も素晴らしい経営戦略だとタイ人が思うのは、厳しい経営環境にある時でも解雇をあまりしないことです。

私たちも最近の経済不況や洪水の時に、忘れることができない経験をしました。 ここで日本人の皆様方、投資家の皆様方に感謝申し上げたいと思います。 解雇をせずに雇用を守ってくださったことに感謝申し上げたいと思います。 また、洪水に対するご理解とご支援に、この場を借りて心より感謝申し上げたいと思います。

タイにおける欧米人マネジャー

欧米人マネジャーは頭のいいマネジャーですから、 タイ人が彼らの下で働くことを誇りに思うであろうと期待しています。 先進国から来て長い間成功を収めてきた上司の下で働けて、タイ人は幸せだと思っています。 それからワークライフバランスを大事にします。 もし家族が幸せでないと、自分の仕事に悪影響が出ると考えているためです。

言語障壁は問題でないと期待しています。 英語は、どの国でも第2外国語になっているからです。 そしてお金を払えば、有能な人材を雇えると思っています。 欧米人マネジャー個人の業績を打ち立てたいと考えています。 このため、クリエイティブなアイディアを使って問題を改善していくことを常に考えています。

欧米人マネジャーも先入観を持っています。 タイ人は時間管理が下手だと思っています。日本人以外のアジア人は時間管理が苦手だと思っています。 タイ人はミーティングには積極的に参加しないという先入観を持っています。 また深刻な状況であっても微笑み、上司が聞きたいだろうと思うことを言うのであって、 自分たちの思っていることは言わないという先入観を持っています。

次に欧米人マネジャーの特徴です。非常に自信に満ち、自分の価値を信じています。 そしてチャレンジングです。また、責任ある仕事をオファーされれば引き受けます。 そして何事にも単刀直入です。自分に挑戦してくる人がいれば、挑戦を受けます。イエスマンには良い印象をもちません。 そして、部下が下した決定や方針によって自分が非難されることを嫌がり、 イニシアティブをとって自発的に業務を行うスタッフを好む傾向があります。それが欧米人マネジャーの特徴です。

欧米のマネジメントスタイルとして、目標の達成のために、目標を定めて指示を与え、期限を定めます。 仕事のパフォーマンスについては、手段は問題ではありません。結果が出せれば、どのようにしてやってもかまわない。 これが欧米のやり方です。部下に対しては、一般的な指示を与えれば、あとはやってくれるだろうと思っています。 また部下が提案をする場合には、その実行方法も明らかにしなければなりません。

そして欧米のマネジャーに対しては、社内の状況を常に報告しなければなりません。 意思決定に必要な情報がすべて来るということを期待しています。 また有能なスタッフをキープしておくためには、競争力のある福利厚生を与えなければならない。 能力のない人は改善しなければならない。もし能力を向上させることができなければ、やめてもらう。 このように考えています。また大企業の方が中小企業よりは民主的です。

タイ人マネジャー

タイは温暖で湿度の高い熱帯の国です。 これを氷山の上とすると、ここにカバの絵がありますが、 タイの人たちが実際に必要としていることは下に隠されているのです。 やはり思いやりが欲しいですし、利害関係もあり、不安もあります。

現地人マネジャーの期待は、組織への将来的な貢献、福利厚生が手厚い職務、 最新の製造と経営の実践、国際マーケットへの足掛かりをつかむチャンスといったことがあげられます。 タイ人は率直で、礼儀正しいといわれています。また福利厚生に対する依存度が高いです。 そしてフレキシブルで変化に対する適応性が高い。学歴がキャリアの開発に直接関係しているわけではありません。

問題が起きた時にだけ報告を行うことがあります。 タイには「クレンチャイ」という言葉があります。 これは相手の気持ちを尊重するということで、相手に迷惑をかけると予想されることは、 事が実際に起こるまでなるべく言わないということです。こうした表面に出ないワークスタイルがあります。

ワーキングスタイルの比較と認識のステレオタイプ化の落とし穴

 

ワーキングスタイルについてですが、まず、日本人の場合は従業員から社内昇進します。 そして形式へのこだわりがあります。欧米人は、形式へのこだわりはそれほど重要ではありません。 会議やセミナー、会議の前にはきちんと準備をするのが日本のやり方ですが、欧米人の場合はとにかく話すこと。 そして、タイ人は、必要に応じて要求にこたえる、ということがいえます。

もうひとつ、先入観による認識のステレオタイプ化による落とし穴について、 特に労働組合に関して述べておきたいと思います。
 タイの労働組合に関しては
  ① 過去には労働組合の不当な行為があった。
  ② 熱心な労働組合の活動家は労働者の保護だけではなく、彼ら自身の策略を持っている、と信じられている
  ③ 企業内組合は、扱いにくく規律を持たない労働者を守るために存在している
というようなステレオタイプの理解があります。まずは、そういった先入観を一旦捨てて、 労働組合と接するのがいいのではないかと思います。

実は私自身、以前、日系企業で労働組合に関する問題があった時、 問題解決のお手伝いをコンサルタントとして行ったことがあります。 私は今、アソシエイト・レイバー・ジャッジをしているのですが、 日本企業の方々に申し上げたいことは、労働協約を結んだ後に、 その場で最も影響力を持っている人たちとインフォーマルな関係を築くといいということです。 タイの人たちは基本的に、外国人に対する尊敬の念があります。 また、欧米人と比べると、日本人に対して親近感を抱いていますので、 最初に接する場合、疑心暗鬼になるようなことがあるかもしれませんが、 3、4日ほど経てば、受け入れてもらえるようになると思います。 労働協約を結べば、それは3年間効力をもつことになります。

最後になりますが、雇用されているタイ人は日本企業に対して感謝をしています。 タイ人が日本の会社で働きたがっているのは、やはり福利が手厚いからです。 それから雇用慣行も良いからです。安心して働ける雇用の安定があると思っています。 タイ人はいまもなお日本のブランド、製品、企業を常に信頼しています。 タイは自らの能力を再活性化して日本の力強いパートナーとなることを強く願っています。

当情報の取得年月日:2011年11月