Contents |
二輪車製造会社
インドの合弁会社における日本人マネジャーの役割
インドで日系企業に勤めた経験を通じて得た知見・ 経験を元にインドでの日本人マネジャーが果たしている役割をモデル化してお話したいと思います。
インドの日本人マネジャーの役割
インドで日本人マネジャーが果たしている役割ですが、 主な役割の第1点目は製品あるいはサービスについての「技術移転」です。 第2点目は長期的あるいは短期的な「事業戦略の策定」です。 第3点目は経営の方針管理、日常管理そしてTQMを伝承することです。
事業戦略を策定した後、これを実行に移します。 実行に関しては、日本人マネジャーは日本式生産システムを導入しようとします。 例えば改善の手法、ジャストインタイム、カンバン方式などを使おうとします。 品質に関してはTQC手法を用います。品質の問題が何であれ、 根本原因についてQC7つ道具を用いて問題を把握します。
また従業員の参加に関しては、従業員全員参加の手法をとっています。 例えば、QCサークル、提案制度などを用います。 マネジャーのレベルでは、監督者による改善プロジェクトチームを作ったりします。
人材育成も重要な仕事です。多くはOJTの手法を使いますが、それに加え、 たくさんのモデル、シミュレーションなどを使って従業員の研修を行っています。 そして、実際に実施したことがうまくいっているかどうかということに関して、レビューが行われます。 日本人のマネジャーはこのようなレビューでも大きな役割を果たしています。
日本人マネジャーが、この日本式システムを導入することによって、 会社にはどんなメリットがあるでしょうか。 表1に書いてあるように、生産性が向上する、また品質が向上する、利益幅が拡大するということがあります。
また、効率的なスペースの活用によって設備投資、特に土地・建屋に関する設備投資が少なく済みます。 5Sも役に立ちます。5Sは、日本の会社だけでなくインドの会社でも広く実施されています。
インドにおける日本企業の比率を見てみますと、およそ3%を占めています。 ヨーロッパ、アメリカに次いで日本はだいたい4位くらいだと思います。 インドでは企業の約10%が多国籍企業となっています。 日本企業ではトヨタ、日産、東芝、スズキ、ホンダなどが主要な多国籍企業となっています。
インドの日本人マネジャーの評価
日本人のマネジャーの評価を、 インドの日系企業で働いているインド人のマネジャー20名からヒアリングした結果を述べます。 10段階で評価しています。
インド人のマネジャーは、日本人マネジャーのコンピテンシーを高く評価しています。 コンピテンシーはたくさんありますが、いくつかの重要なものをあげると、 まず「技術的なコンピテンシー」(図1)があります。 これは中核的なコンピテンシーです。 インド人は、日本人マネジャーと欧米マネジャーは同じような高い技能を持っていると評価しています。 インド人のマネジャーを見てみると、まだこれから追いついていかなければならないと考えています。
次に顧客中心、顧客志向という観点(図2)ですが、日本人マネジャーには、とても高い点がついています。 インド人からするととても素晴らしい顧客中心の考え方を持っています。 日本のシステムは、顧客満足を中心にして構築されているからです。 ですから顧客志向がとても強く、また品質重視、的確な意思決定が行われています。
「市場の変化に対するマネジメントと危機管理」(図3)についても、 日本人マネジャーにはとても高い点がついています。 というのは、日本人はチームワークを重視しているからです。 そして、また、不測の事態が起こった時の代替計画を持っています。 何か失敗をすると、プランB、プランCに移っていくことができるようになっています。
そして、計画を変更した時に、これをモニタリングし効果的な実行を必ず確保しています。 そして不屈の精神を持っています。絶対にあきらめません。 このため、日本人マネジャーはとても高い点を得ています。
「業務遂行における厳格さ」(図4)についてですが、 これについても日本人マネジャーが非常に高い評価を得ています。 目標を達成しようとする気持が非常に強く、どういう納期であっても必ず守ります。 また長期的な考え方、先ほど申し上げたように方針管理やTQMなど、非常に計画を立てるのが上手です。 きめ細かい計画を立てます。そして人材に重きを置いています。 10年、20年といった長期的な計画を立てています。 欧米はどちらかというと短期的な計画を立てますが、日本人マネジャーは長期的な計画を立てています。
今まで取り上げたコンピテンシーでは日本人マネジャーが高く評価されていることですが、 この「リーダーシップ」については評価が異なります。 私は、日産やホンダ、スズキ、東芝の方々ともお話をしましたが、 日本人マネジャーは、あまり部下の世話をやかないということです。 もっと部下の育成や指導を重視する必要があります。 また日本人マネジャーには、人をすぐには信頼しないという特徴もみられます。
もう1つ、感情的な評価の面があります。 EQ(Emotional Quotient:人間関係をうまく維持する能力、相手の感情を理解する能力)に関すること(図6)で、 3つの項目があります。 EQについては欧米人またはインド人のマネジャーに比べて日本人マネジャーの評価は低いです。 日本人は多くの場合冷静ですが、場合によっては感情的になります。また心からのつながりがなく、 ビジネスライクなところがあるようです。 欧米のマネジャーは、懇親会の時などには、非常に積極的にコミュニケーションをはかるのですが、 どちらかというと日本人は積極的にコミュニケーションをはかることがなく、浮いているようです。
また「現地適応性および対処」については、インドに来ると、やはりインドの環境に慣れるために時間がかかります。 ですからインドの文化的また地域的な多様性への理解を十分に高める必要があります。 やはり日本人マネジャーが改善するためには、こういったことを考える必要があると思います。
インドのマネジャーからのコメント
次にインドのマネジャーから得られたコメントについて申し上げたいと思います。
まず良い点は、日本人マネジャーはグッドプランナーであり、極めて細部に行き届いた長期にわたる計画をする。 そして非常に熟練した技術的能力がある。またエネルギッシュで非常に積極的である。 また客観的でデータ志向である。そして丁寧であるといったことです。
改善が必要と思われることとしては、まず意思決定に時間がかかるということ。 またコミュニケーションが効果的にできないということ、 ローカル言語、あるいは英語でのコミュニケーションが少し不得意なこともあるかもしれません。 ですから、あまりうまく気持ちが伝わらないということがあると思います。 そして、人をすぐには信頼しない。異文化に対する理解が不十分で、インド文化への適応が必要である。 また心からのつながり、現地の人との交流が少ないといった点があります。
また、プロセス重視が強すぎる。 プロセスを重視するということはいいのですが、インド人の同僚は、それが度を過ぎていると考えるのです。 また新人マネジャーの能力レベルは年長の前任者とは比較できないほど劣るということです。 一般的に日本人マネジャーの評価は高いのですが、若い日本人マネジャーは年長の人ほど良くはないということです。
また、日本の技術システムを表わす「カイゼン」や「カンバン」などの言葉がありますが、 そういう言葉は、インド人にもわかるような言葉を使うべきではないでしょうか。 また会議が多すぎるということがあります。 それから、あまり透明性が高くないといったようなコメントがありました。
結論になりますが、インドは非常に多様性のある国です。多くの宗教と言語があります。 ですから、インドで成功するためには、やはり心のふれあい、そして率直さ、インド文化への適応、 ビジネスライクだけでなく感情的なつながり、そして他の人の感情を尊重すること、更に、 リーダーシップを磨くということが非常に重要です。
もう1つ申し上げたい点があります。 インド人マネジャーの日本人マネジャーに対する評価が低いところもありましたが、 インド人は非常に日本に対して敬意をはらっています。 戦後の復興も早かったです。 そういった大変な中でも、日本人は常にあきらめずに頑張ってきたということがあります。 ですからインド人は日本人に対して敬意をもっています
ここでは私が申し上げたことが100%正しいということではないと思います。 インフォーマルな形での意見交換の中から出てきたことから、特に重要と思われる点を申し上げた次第です。
当情報の取得年月日:2011年11月