使用者団体・企業人事労務管理者の取り組みと課題

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カンボジア

タバコ製造販売業

人材不足と他社からの引き抜き

当社は世界的なタバコ製造販売会社の子会社であり、タバコ栽培農家と契約し、 タバコを生産し、最終製品をカンボジアで販売しています。

私は、約5年間、人事労務管理分野を担当してきましたが、カンボジアの課題として次の2つがあげられます。

1つは相互理解の欠如と労働組合と労働者代表からの協力が欠如していることです。 組合/労働者の代表は、自分達の要求事項に対応する義務が経営者にあると考える傾向があり、 彼らは、ますます多くの利益を要求し続け、経営者の正当な理由に耳を傾けないということです。 経営者は組合の十分な理解と協力を得られないため、いかなる交渉も非常に困難な状況であります。

次に、人材の維持が課題であり、カンボジアは、経済成長とともに、 ますます多くの投資が外国から入ってきているなかで人材が不足しています。 そのため、人材の引き抜きと社員の離職がほぼすべての大企業にとって注目すべき話題になっています。 とりわけ、カンボジアに多国籍企業が参入する際、当社が引き抜きの対象企業であるのはよく知られています。 当社は非常に優れた人材維持プログラムを整備していますが、それでも、 我が国の人材が非常に限られているなかで、人材の維持は非常に大きな課題であります。

インドネシア

石炭採掘業

労働生産性を向上させる協調的な労働を求めて

労使関係部門の責任者としての私の主な職務は、 社内の円滑な労使関係を維持して、協調的で望ましい労働環境を作ることです。 労働生産性を上げるには協調的な労働が求められていると考えているからです。

現時点の当社の主な課題は以下の3つに集約できます。

   1. 当社のビジネスの成長にしたがい、従業員数が急速に増えている。 それが、円満な労使関係を管理する部署の責任の増大と負担につながっていること。
   2. 当社の利益増大、特に、従業員の生産性に関連した利益増大に比例した従業員の増加を確保すること。
   3. 類似企業との競争力を強化し、最善かつ効率的な従業員管理システムを整備して、 信頼できる人材の育成を行うこと。

 

しかし、こうした課題に取り組む際に、4つの問題点を見過ごしてはならないと考えています。 1番目は、従業員の学歴や社会的背景の違いのために、 彼らの知識と経歴の水準が異なっているのに注意をしなければなりません。 2番目に、従業員の要求の多様化が拡大しているので、これに対応すべく手段を考えなければなりません。 3番目に、様々な社会ルールと文化をもつ多様な現場従業員が増えている事実も知らなければなりません。 4番目に、従業員が情報を容易に入手できるようになったために、 世の中を知った彼らの意見が企業目標と合致しないことがあることも考慮して、 人材を育成しなければならないと考えています。

当情報の取得年月日:2011年10月

韓国

韓国経営者総協会

韓国の労使関係の最近の動向

韓国の労使関係の最近の動向としては、まず第1点として、 タイムオフシステムというものが2010年7月1日から導入されたことが挙げられます。 労働組合の専従者に対して、労使協議等、 労使が共同で処理しなければならない活動に限ってのみ賃金支給を認めるのが「タイムオフ制」(労働時間免除制)です。 歴史的経緯から、組合専従者に対し、使用者側が賃金を支払っていました。 これは労使の間の交渉の力を同じようにするために必要な措置でしたが、 現在、使用者側が組合専従者に賃金を支払うと、原則的には不当労働行為になります。 しかし、組合に資金がない場合は、どのように活動していけばいいのでしょうか。 そこで、タイムオフが導入されたわけです。

また、これまで労働組合の専従者の数の規制はありませんでしたが、 この法律の改正により、組合専従者数がかなり変化しました。 三者構成のタイムオフ委員会は、何時間を労使協同の活動に費やしているかを審議して決めます。 ここで決まられた時間は例外的に仕事をしている時間とみなされます。 そして使用者側は、賃金を限られたタイムオフの時間にのみ払います。 ですから、タイムオフシステムでは、組合は活動資金を維持するためには、 フルタイムの専従の職員を減らさざるを得ません。

例えばA自動車は、韓国で最大で、最も強い組合があり、480人の組合専従員の人がいました。 現在はどうかといいますと、組合専従員は28人に減りました。 これまでの数を維持したいのであれば、残りの元専従員の人たちには、 タイムオフ制を使って組合活動をしてもらうしかありません。

2点目は、2011年の6月1日から施行されている複数組合制です。 この制度により、現在は1つの職場に複数の組合を設立することができるようになりました。 これは結社の自由という観点からのILO委員会の勧告に基づいて導入されました。 複数組合制は、2つのナショナルセンターが要求していました。 実際、うまく機能するのかどうかは、今後の運営にかかっています。 労働組合のナショナルセンターでは不安もあります。 なぜなら、韓国には、団体交渉のチャネルは1つであるという窓口単一化条項があるからです。

この窓口単一化条項に関して、日本やアメリカなどいろいろなところを調べてきました。 私が間違っているかもしれませんが、韓国以外は、どこにも窓口単一化条項を持っている国はないと思っています。

これにより、韓国では、複数の組合がばらばらに団体交渉するのではなく、 団体交渉のチャネルは1本に絞るということが明文化されています。 そこで、たくさんの会社が、労使関係の緊張が高まることを懸念しました。

幸運なことに、今のところ、労使紛争、労働損失日数は、かなり減っている状況にあります。 今後、韓国では団体交渉は安定化の方向に進むと思っています。

人事管理に関しては、各企業はそれぞれの企業の規模、形態にあったものに整備していくことができると思います。 一方、労働組合はこの動きに対して、かなり懸念を感じていると思っています。 なぜなら、組合は組合同士の間の摩擦を避けなければならないからです。 単一の交渉のチャネルをつくらなければいけないということから、 どの組合がキャスティングボートを握るかという、競争の摩擦が出てくることが懸念の材料となっているのです。

当情報の取得年月日:2011年10月

ネパール

ネパール全国商工会議所連盟

ネパールの労働事情の変化

ネパールは現在、大きな政治変革期にあります。 2006年に政治グループのネパール共産党毛沢東主義派(マオイスト)と和平協定が結ばれ、 それ以降、現在は新しい憲法も制定し、変革を進めているところです。 その結果、国内の産業に大きな変化が起こりました。 労働組合は、より多くの要求を出してくるようになり、国内の企業にとって対応が難しくなってきています。

多くのネパール企業は家族経営が多く、経営陣はオーナー家族の出身者です。 その経営者に対し、労働者組織が以前にも増して権利を主張するようになりました。 非常に高いレベルの福利厚生、雇用の安定などを要求してきているのが現状です。

多くの企業が、この問題を抱え、ストライキも頻繁に起きています。 多国籍企業もやはり頻繁な労働争議に頭を悩ませています。

ネパールの法律では、企業レベルでの組合を組織することが許されていて、 こういった組合同士がお互いに競争し合いながら要求を出してきますので、 いかに対応するかが多くの企業にとって頭の痛いところです。

スリランカ

衣料製造業

スリランカの人材開発 -人事戦略の改善と工夫による事業の回復-

私は、ドイツの会社2社とアメリカの会社1社の合弁事業である、スリランカで最大の衣料製造会社で働いています。

2007年まで私たちの会社は、非常にうまくいっていました。 しかし、大きな会社であるにもかかわらず、1つの製品、ブラウスしか作っていませんでした。 例えば3~4カ月の長い間、ずっと同じ製品をつくっていました。 多能工ではなく1つの仕事しかできない人たちが雇われていたのです。 このため、2007年、2008年に不況が襲ったときに対処できず、初めて赤字に転落しました。

会社がタイタニックのように沈みかかっていると思い、戦略を変えました。 私たちが行った主なことは、まず戦略を考えて、会社の皆に責任をもって仕事に関わることを認識してもらうことです。 やはり、従業員の感情は大事ですので、気持ちに訴えてコミットメントを強化することを行いました。

この鍵となるのは、リーダーシップをすべてのレベルで行使していくことです。 トップレベルで、あるいはエグゼクティブ、マネジャーのレベルでリーダーシップを発揮するのは当たり前なのですが、 管理職でない従業員のリーダーシップも大事だと考えました。 コミットメントを強化するために、従業員に様々な活動に参加してもらうということにしたのです。 不況の前は、経営側からいろいろな行動や活動を決めて従業員に提示したのですが、 戦略を変え、私たち経営側がファシリテーターになり、従業員にいろいろなことを考えてもらったり、 リーダーを選出してもらったりしました。 オペレーター・レベルでもリーダーを選出してもらい、アイディアを出してもらいました。 任意参加の自発的チームをつくり、こういったチームにキャリアプラン、継承プランなどを作ってもらいました。 そうすることにより、従業員はもっと会社の経営に関与するようになりました。

この戦略の転換があってから、業務の透明性が増しました。 そしてCEO、トップマネジメント、生産分野の人たちとも、風通しのよいコミュニケーションができるようになりました。 隠し事は何もありません。経済状態が悪ければ、それも話す。 業界の話、会社の話を、隠すことなく話すようにしました。そうしたことが従業員の信頼を勝ち取っていったのです。

こうした活動により、従業員の心をつかむことができました。今では会社の状況は、かなり改善されました。 現在、いろいろな製品を扱っています。ブラウスだけでなく、水着にも進出していくことができるようになってきています。 ショーツ、ブリーフといったさまざまな製品展開をすることができ、多能工化も可能となりました。 2008年の北京オリンピックではビーチバレー用の水着が13カ国で採用されたように 様々な高品質の注文を受けることができるようになってきたのです。

ゼロから、従業員を参画させることによって、このレベルまで上げてくることができました。 スリランカでは、衣料は重要な産業です。私たちの会社では、今いろいろな製品を扱うことができるようになっています。

当情報の取得年月日:2011年10月

タイ

自動車製造販売業

労働政策、業界、自社からの視点で課題を整理

私の担当は、社内の労使関係(IR)、及び納入業者のIR対応、 タイ自動車産業内のIRに関しての問題・動き・発展に関して毎月の情報の共有、 タイの自動車産業の状況に影響を与える労働法の最新情報の入手とそれへの対応、 大学や他の事業者などの外部組織に対して、労働問題に関する講義を努め、 CSRの支援、及び、労働組合との取りまとめ役として、適切な方針、 および同じ目標を目指して共に成長することを組合に説得することなどであります。

私が考える労使関係についての課題ですが、大きく次ぎの3つの視点から見てみました。

1つめは、タイの労働事情からであり、次の4点があげられます。
①タイには、労働法令の発表の前に必要な完全な調査、聞き取り、 コンセンサス(ねまわし)がないままに、労働法令が正式に実施され問題が生ずる。
②タイ政府は、企業・労働者・民間分野との緊密な連携によって、 IRまたは労務管理のための短期・中期・長期的なロードマップの具体的な計画を立てられていない。
③「タイの政党の人気取り政策」。 その一部が人件費の過剰な増大につながっていて、従業員の能力に合致していない。
④タイには、十分な人数のIRスペシャリストがいない。 2005年から2011年の間のタイの労使紛争の件数は、アジア太平洋地域内の上位ランクに入っている。

2つめは、タイの自動車産業からでの視点ですが、次の3点があげられます。
①米国のサブプライム危機後、世界経済は予測不能なレベルまで急速に落ち込み、 それが、経済成長を期待した従業員と、企業の固定の人件費に影響を及ぼし、 多くの企業の倒産と従業員の解雇につながった。
②日本の自動車会社やジョイントベンチャー企業の従業員の手当は引き続き上昇しているにもかかわらず、 一方では、労働問題やIR問題がかなり増えている。 その問題の原因は、労使の好ましいコミュニケーションと関係の仕組みがないこと、 労使のIRのスキルと知識が不足していること、労使の相互信頼と尊敬の欠如があげられる。
③IR評価を分析した後、最近の日本との合弁会社は、 タイの文化的習慣やタイ人の気持ちについてあまり尊重せず、日本的なシステムをおしつける傾向があり、 コミュニケーションを積極的に図ることがなくなってきている。 (私としては、日本とタイのスタイルをミックスするのがベストソリューションであると考える。)

3つめは、当社の課題からですが、次の2点があげられます。
①当社と全社ネットワークは、タイ文化に全社共通方式を取り入れて、 約20万人にものぼる同ネットワークの従業員のレベルアップを図り、ウィン・ウィン関係で、 共に持続可能な成長を目指さなければならない。
②私は当社の労働組合のレベルアップに取り組み、 IRや労働分野における従業員の支援に関して、 タイの全業界の労働組合のNo.1を目指して努力しなければならない。

当情報の取得年月日:2011年10月

 

エアコン用ロータリーコンプレッサー製造業

需要を見通したプランを立てる

当社は室内エアコン用ロータリーコンプレッサーのメーカーであり、日系企業として設立され、 現在、世界のすべての大陸の42カ国でコンプレッサーを販売しています。 顧客を満足させている現在の成功に依存するのでなく、 需要を見通したプランも立てなければならないと私たちは考えています。 そのために、当社は、2001年に組織全体に「総合生産管理(TPM)システム」を導入しました。

現在、当組織が直面している主な問題は労働力不足です。 これは、新しい世代の若者が高学歴になっているのが、原因だと考えています。 彼らはより高い地位での就労を希望しています。 つまり、教育構造が労働市場に合致していないように思えます。 大卒者が実際の仕事の現場の欠員を埋められないのです。 そのため、多くの大学新卒者が失業して、彼らの大半は、 結局、自分の資格に見合った就職をあきらめなければならなくなっています。

来年度、当社は工場を拡張する予定で、人事部は1,000人以上の新入社員を募集し、 職務に関する新入社員の知識とスキルを高めなければならないという大きな課題があります。

新入社員を募集する際、私たちは、彼らが新しい技術を理解して仕事に当たれるように、 しっかりした人材開発システムを備えなければなりません。 そのために私が担当する課題は次のことだと考えています。
  ①研修と能力開発が組織のビジョンと戦略に合致していることを確認する。
  ②新入社員のスキルを高めるために、能力開発ツールと方法を提供する。
  ③従業員(特に新入社員)の能力を高めるために、研修システムを整備する。
  ④人材開発システムによって従業員を維持する。

当情報の取得年月日:2011年10月