Contents インドネシア(第169・170・171号) インドネシアの労働事情について |
インドネシアの
労働事情について
インドネシアの雇用と労使関係、使用者組織の視点
要旨
ビジネス社会から見たインドネシアの労使関係の現状は、インドネシアを代表する使用者団体であるインドネシア使用者協会(The Indonesian Employers’ Association、以下APINDO)の視点により示すことができます。APINDOは労使関係や労働力の問題に関する最も代表的な組織として、インドネシアの社会的保護制度や労働者の能力開発を世界的な労働基準規範に整合させ、競争力のある国内経済を創造するために極めて重要な使命を持っています。
APINDOは企業経営陣、各業界団体のリーダー、オブザーバー、学識者などのさまざまなステークホルダーとの議論や協議を重ね、さらに独立調査機関が実施した約16,000社に及ぶ企業アンケート調査の結果から学び、労使関係や労働力に関するビジネスの視点を本レポートに示しました。
問題点を分析した結果、長期的な目標に向けてインドネシアの労使関係や労働力を改善するために、APINDOは経済界に以下に示す複数の提言を行いました。
1)労働政策の改革の一貫性及びその実施の強化
2)障害者や女性に配慮した包括的な雇用の創出
3)グリーン・ジョブを含む新しい業務形態に応えられる人材の開発
4)協力の精神に基づく労働者と企業の二者関係の構築
他方、経済界も以下の短期的な提言を行いました。
- 1) 公正な賃金・最低賃金・外部委託方針の策定
- 2) 雇用創出法に基づく中小企業賃金規範の実現
- 3) 雇用社会保障における老齢保障及び年金保障の強化による高齢化社会に向けた取り組み
- 4)医療保険制度における入院病室の等級廃止、標準クラス制度の導入支援
- 5)労働者の能力向上のための特別税額控除の有効性の見直し
背景
インドネシアの雇用動向は、労働市場の状況と表裏一体の関係にあります。統計によれば、インドネシアの2023年2月の失業率は5.45%であり、総失業者数は799万人に達しました。中央統計局の統計定義では失業者に分類されないものの、労働時間が非常に短い労働者を含めると失業率は更に増大すると考えられます。これはインドネシア経済の変化と本質的に関連しており、雇用吸収力が低下傾向にあることを示しています。雇用吸収力はまさに過去9年間において4分の1に縮小しており、2013年には1兆ルピアの投資につき4,594人の雇用が創出されましたが、2023年には1,285人しか雇用されない状況となっています(投資調整庁BKPM / 投資委員会BPS)。
このような状況は、少人数の労働者を雇用する資本集約型投資が増加し、労働集約型投資の割合が減少しつつあることを示しています。高い労働スキルが求められる資本集約的な投資が増加する中、インドネシアの労働市場は低スキルの労働者で占められており、このことは労働者の学歴が低いことからも証明できます。というのも、労働者のうち小学校卒業者は39.76%、中学校卒業者が18.24%、高等学校及び職業訓練校卒業者は28.49%で、ディプロマ・大学・大学院等の高等教育を受けた労働者は11.51%に過ぎません。
一方、購買力が低いために政府から補助金を受けている人数は依然として非常に多いのが現状です。政府は、社会健康保険管理機関(BPJS Kesehatan)の健康保険制度の拠出補助受給制度(PBI)において約9,675万人分の健康保険料を負担しており、地方自治体はそれぞれの地域住民に対する拠出金を約3792.2万人分負担しています。これは、有効な保険加入者総数2億1,350万人の約63%が、政府出資の医療サービスに依存していることになります。さらに、約1,000万世帯が条件付現金給付制度(PKH)、並びに賃金補助や電力補助など多くの制度から社会的支援を受けています。雇用創出が進み、国民が自活できるだけの購買力を持つようになれば、政府の各種社会扶助制度の受給者は間違いなく減少するでしょう。
このような労働市場の状況とインドネシアのマクロ経済力を考慮し、本レポートは、インドネシアの労働競争力を向上させるために労働基準規範、包括的雇用、社会保障、技能開発、二者間(労働者・使用者)及び三者間(労働者・使用者・政府)関係の構築などの労働構造改革に取り組むために、APINDOによって作成されたものです。
インドネシアの労働政策
1.労働基準規範
1)労働政策改革の一貫性
2020年「雇用創出法第11条:雇用クラスター」に反映されているように、インドネシア経済界は政府による労働市場硬直化への対策を歓迎しました。中小企業や労働集約型産業においては、旧法(労働法2003年13号、Law 13/2003 on Manpower)による解雇が多く最低賃金や退職金を支払う場面も限られていましたが、「雇用創出法」の規定により、現在では労働者の規範的権利を遵守する方向に進んでいます。また、他のビジネス分野や企業規模においても、「雇用創出法」による労働力以外の事業許認可・土地へのアクセス・税務等のビジネス環境整備を進めることで投資を誘致しており、その結果として雇用機会も増えています。求職者は企業のこうした変化の恩恵を受け、以前より早く職を得ることが可能になりました。
しかしながら、2021年11月25日に出された「憲法裁判所決定-第91号(No.91/PUU-XVIII/2020)」により、「雇用創出法」は条件付きで無効とされ、これらの動きは法的不確実性により断ち切られてしまいました。というのも、「雇用創出法」の起草過程において政府が技術的な見通しを欠いていたため、当該法律が「法規制の形成に関する法律2011年12号(Low12/2011)」で認められていないオムニバス法の原則を用いて作成されたからです。そのため、「雇用創出法」はまだ施行初期段階にあり、施行のための一連の政府規制やその他の規制を備えておらず、完全な施行が不可能となっています。
インドネシア政府は2022年12月に「雇用創出法」と内容をほぼ同じくする「雇用創出法に関する法律代行政令2022年第2号( Perppu2/2022)」を発行しましたが、それが後に「『雇用創出法に関する法律代行政令2022年第2号』の決定に関する法律2023年第6号(Low6/2023)」となり、ビジネスにおける混乱を引き起こしました。
最低賃金とアウトソーシングに関する2つの基本改革は「労働法2003年第13号(Low13/2003)」の原則に戻り、「雇用創出法」においては制限されていなかったアウトソーシングも再び制限されるようになりました。なお、2023 年の最低賃金決定に関する「労働大臣令 2022 年 18 号」は、その内容が「雇用創出法」と矛盾していたものの「政府規則2022 年第 2 号(Perppu2/2022)」において採用されました。
2) 労働政策の両義性においての戦略/予想
最低賃金の引き上げは多くの企業(32%)にとって負担であり、その多くは現行の規制による引き上げ以前の最低賃金も支払うことができていません。APINDOのロードマップ調査によると、大多数の企業(78.47%)が規制に従って最低賃金を支払っており、事業規模別にみると、大企業ほど最低賃金の規定を満たしている従業員の割合が多くなっています(大企業96.12%、中小企業91.23%、零細企業72.33%)。特に、製造業の85.09%は最低賃金要件を満たしており、これらの調査結果は最低賃金支払いの遵守が概ね満足のいくものであることを示しています。しかしながら、規定を満たしていない企業を見ると、その主な理由(50%)は、「労働大臣規制2022年第18号(MoM18/2022)」における最低賃金の規定額が、賃金に関する「政府規則2021年第36号(GR 36/2021)」の規定額より高いということにあります。もう一つの理由(32%)は、企業はすでに以前の規則における最低賃金すら支払うことができていないにも関わらず、さらに最低賃金が上昇したことです。
一方、「労働大臣規制2022年第18号(MoM18/2022)」に基づく最低賃金の支払い能力がある企業(18%)においても、同規制は「政府規則2021年第36号(GR 36/2021)」に反していると考えています。最低賃金の状況は、賃金に関する「政府規則 2021年第36号」を改定した「政府規則 2023年第51号(GR 51/2023)」の発令以降悪化しており、これは雇用創出に関する「オムニバス法2020年第11号」の精神とは相容れない「政府規則2023年第6号(GR 6/2023)」を参照していることによって引き起こされています。
アウトソーシングに関しては「政府規則2021年第35号(GR 35/2021)」の改訂において、労働市場の柔軟性を損ねないよう比較的緩やかな選択肢が取り入れられています。APINDOの労働チームは、様々なセクターにおけるアウトソーシングの範囲と定義に関する提言を行い、柔軟性が保たれるよう努力しています。アウトソーシングの柔軟性は、賃金、労働時間、社会保障、その他の労働関連の規定を順守しながらも確保すべきだと我々は考えています。
また、経済界はアウトソーシングに関して、業務委託労働者の賃金を定める規範規定や労働に関するその他規定の履行を望んでいます。アウトソーシングは安価な労働力を提供するための慣行ではなく、企業の競争力を高めるための「専門性を分割する」のための仕組みであり、各企業の重点、競争力、事業規模と密接に結びついているものです。さらに、アウトソーシングは国際的な商習慣であり、グローバル経済の一員であるインドネシアにおいてもこれを採用することが強く求められています。
企業と労働者の公平性を確保する包括的な雇用政策、特に雇用の安定という観点から、インドネシア企業がグローバルなビジネス・アウトソーシングの慣行に追従しなければ、全体的な事業競争力が低下し、事業の継続性が危ぶまれ、結果として更なる雇用の不安定化が進むと考えています。
労働規範の導入において注意すべきもうひとつの問題は、労働時間の柔軟性です。政府と労働関係者には、グローバルな労働規範を遵守しつつ全ての関係者に最適な利益を提供するために、ビジネスの特性に基づいた柔軟なフレックスタイム制の導入や、新たな業務のためのスキルアップを支援することが期待されています。ロードマップ調査回答企業の大多数(56.55%)が月単位の労働時間を採用していますが、週単位(16.95%)、日単位(18.80%)、時間単位(7.72%)の労働時間を採用している企業も少なくありません。これは、雇用創出法に示された職場の柔軟性の実施と、新たな非標準的雇用形態への対応を見越したものです。
外国人労働者に関しては、ビジネスの潮流を先取りするために、現行のポジティブリスト方式からネガティブリスト方式に政策を変更しなければなりません。外国人労働者に求められる技術は多様かつ極めて急速に変化しており、産業ごとにニーズも異なるため各企業が事前に予測することは困難です。特別なスキルを持つ人材の配置が必要となった際、現地労働者では対応できない場合は外国人労働者が必要となります。このような場合、政策も変化に対応しなければなりません。外国人労働者については、現行のポジティブリスト方式ではこうした要件を満たすことができないため、ネガティブリスト方式に変更されるべきです。
3) 中小企業の賃金規定とその意味合い
インドネシア経済界は、中小企業の労働者がすべての雇用社会保障制度の対象となるよう、中小企業の最低賃金引き上げを政府の優先事項として実施することを支持しています。中小企業の多くは、州・県・市の最低賃金の支払いに関する規定を遵守していませんが、それはそうする意欲がないためではなく企業に支払い能力がないからです。このことは、すでに提示したロードマップ調査の結果からも明らかです。中小企業が正常に機能するためには、各企業の使用者と労働者の合意に基づき、中小企業に特化した最低賃金に関する雇用創出法を履行することが必須となります。
中小企業向けの特別な最低賃金の履行によって賃金規定が正しく運用されることで、中小企業の労働者は非正規労働者がすでに利用できる雇用社会保障プログラム(労働災害保障、死亡保障、老齢保障)だけではなく、すべての雇用社会保障プログラム(労働災害保障、死亡保障、老齢保障、年金保障、失業補償)に正式にアクセスできるようになります。中小企業が正しく事業を展開すれば、銀行からの資金調達がより容易になり、中小企業強化を目的とした政府のプログラムの恩恵を受ける機会も増えることになります。
2.包括的雇用と社会保障
1)グローバル経済におけるインクルーシブ・ビジネス(包括的経営環境)の強化
大企業の経営者は、長期的な成長と持続可能性のための企業戦略の一環として、自社におけるインクルーシブ・ビジネスの実践(雇用を含む)を支援しています。インドネシア経済界は、ビジネスを進める上でのグローバルガイドラインの一つとして、人権および環境に関する国連の指針原則を履行することを支持しています。この土台があれば、経済界と政府はより意識を高め、さらに大きなビジネス環境においてビジネス慣行を改善することができます。インドネシア政府は、これらが実務に導入できるよう、全面的な予算支援を伴う政府プログラムとして実施しなければなりません。
2)ジェンダー平等に向けてのビジネス支援
雇用の平等性は極めて重要です。なぜなら、人権尊重を推進すると同時に生産性を高めることができるからです。一般的に、賃金、労働時間、社会保障などの労働者の規範的権利に差がない場合、政府の政策はジェンダー平等に対応していると見なされます。政府の政策は、生理休暇など女性の特別なニーズにも対応しています。ジェンダーによる固有のニーズを認識している大企業では、5歳未満の子どもを持つ女性従業員に託児保育サービスも提供しています。託児保育サービスの提供は、職場におけるジェンダー対応および託児施設の配備に関する「2015年女性エンパワーメント・児童保護省規制第5号」の政策表明であり、省庁、政府機関、地方自治体、事業組織に対して託児施設を含めた労働生産性の向上を支援する施設を配備することを要求しています。
しかしながら、企業がこれらの義務を果たすための指針となる派生的な規制、利用可能な選択肢に関する情報、最低基準や従業員のニーズを満たすために対処しなければならない問題点など、実施を促す技術的な支援は現在のところ提供されていません。さらに、託児保育サービスは企業のCSRプログラムの一環として認識されていないため、従業員にこれらのサービスを提供する企業に対して、財政的・非財務的なインセンティブも用意されていません。その結果、現在、託児保育サービスを提供している企業はごく一部にとどまっています。
経済界は、託児保育サービスにおけるベストプラクティスを奨励し、他企業が追随できるようにすべきと考えています。ところが、経済界は、女性従業員に対する出産休暇を6カ月まで延長するという政府の提案には反対しています。この政策が実施されれば、生産性が低下し、女性従業員のキャリアと雇用の安定が危うくなる可能性があります。ロードマップ作成に使用された調査や過去のAPINDO調査では、この政策計画への企業支持率は低く、また女性従業員にとっても潜在的損失となる可能性が明らかになりました。現在「2003年法律第13号」では、インドネシアの女性従業員には3カ月、すなわち約13週間の有給出産休暇の取得権が付与されており、この場合は企業が当該従業員の賃金を全額保証しています。
一方、母体保護に関する「ILO条約第83号(2000年)」は、女性に対して少なくとも14週間の有給出産休暇を義務づけており、この場合の賃金は、少なくとも従前の賃金3分の2に相当するものとしています。この条約は、有給出産休暇が女性従業員に与える潜在的な影響を認識した上で、社会保障や国家予算など、雇用者である企業負担以外の財源で休暇に係る経費を賄うことの重要性を強調しています。
女性のためのジェンダーに配慮した雇用慣行は生産性を向上させます。家族の介護がないときのパートタイム労働など、自身のニーズに応じた職場で働くことができる労働者や、規範的労働権によって保護されている在宅労働者は、女性の国家生産性への貢献を高めるために極めて重要です。
3)障害者支援おける政府と企業の責任
労働人口の大幅な拡大に伴い、政府による障害者労働者への注目は高まりつつあります。2021年の国家障害者委員会の設立は、障害者労働者への環境を改善するための政府の前向きな一歩です。2022年の時点で障害を持つ労働者の数は720,748人で、2021年の277,018人から160.18%増加しました。これは全労働者の0.53%であり、法律で定めた人数の半数に過ぎませんが、この増加は心強いものです。
インドネシア経済界は、障害者の職場への移動を容易にするため、政府が公共交通機関へのアクセスを改善することを期待しています。公共アクセスの改善は、政府が障害者労働者の支援に真剣に取り組んでいることをアピールすることになるでしょう。各企業には、それぞれの職場に施設やインフラを整備することで政府の動きをサポートすることが期待されます。
また、インセンティブ制度も障害者雇用について企業の関与を強める方法のひとつです。障害者雇用を1%に設定し、それを満たさなければ制裁を課すという方針は、企業にとって実施の動機付けに乏しいと考えられます。インセンティブは必ずしも金銭的なものだけではなく、企業イメージ向上に結び付く社会貢献に対する報酬であるため、インセンティブ・アプローチの方が効果的であると考えられます。
さらに、インフォーマル・セクターにおける障害者労働者も同様に、国家の保護を必要とします。正規従業員ではない障害者労働者、すなわち家族内やインフォーマル・セクターで働いている障害者は極めて多く(全国労働力調査によると約65%)、健康や雇用の社会保障の観点でも国による保護が必要です。さらに、インフラや政府の社会保障プログラムが容易に利用できるような支援も必要となります。
4) 企業の競争力創造と社会保障の整合性
インドネシア経済界は、拠出金の増加を伴わないという条件の下、医療保険制度(BPJS Kesehatan)の公正性と制度維持のため、入院病室の等級廃止を支持しています。等級を廃止した場合の入院病室は、統一の基準に従った標準クラス(Kelas Rawat Inap Standar:以下、KRIS)と呼ばれる病室になります。経済界がKRISの導入を支持してる理由として、国民は均一な医療サービスを享受すべきであるものの、医療保険制度の資金が限られており、標準的なサービス以上のものは提供できないことが挙げられます。他方で、KRISの導入により企業や従業員の加入者負担が増加しないことも望まれています。
KRISは今後、給付調整プログラム(Coordination of Benefit:以下、CoB)と統合される予定です。CoBは、これまで企業の福利厚生で民間保険に加入していた労働者にとっては給付水準が落ちてしまうケースがあるため、KRISとの差額を支払ってでも追加サービスを受けたいという要望に応じて運用が開始されたものです。民間の保険会社が提供するプランに加入することで、医療保険制度の加盟病院で治療を受ける際の[KRISとの差額ベッド代等]を民間保険で賄うことができます。ただし、複雑な照会プロセスを経る必要があります。CoBの運用には医療保険制度運用機関、病院、民間保険会社の協力が不可欠であり、サービスとコストの面での公平かつ効率的な実施を目指さなければなりません。国家社会保障協議会(DJSN)、医療保険運用機関、病院協会、民間保険会社協会、保健省の役割が求められています。
標準入院サービスには、当然ながら均一な医療水準が保証されなければなりません。保健省の標準保健要件(以下、KDK)は、すべてのKRIS加盟病院で一貫して適用されなければなりません。KDKは病室とその設備(部屋の面積、換気、空調、マットレス、浴室、医療設備等)の物理的要件を規定するもので、加盟病院で均等なサービスレベルを提供することが期待されています。改修が必要となる病院もあるため、KDKは段階的導入が可能となっています。
雇用の社会保障に関しては、経済界は労働者社会保障実施機関(BPJS Ketenagakerjaan)が、保護が必要なインフォーマル・セクターの加入者を増やすことを期待しています。これは、独立労働者(PBPU:非賃金受給労働者)と小規模なインフォーマル・セクター労働者(PPU-BU:事業体賃金受給労働者)に、少なくとも労働災害保障と死亡保障を提供することを目的としています。経済界は、失業保障プログラムにおいて労働市場の情報に関するアクセスが増大し、就職斡旋を確実にし、教育訓練給付の質を向上させると期待しています。そのために、政府はさらなる雇用を創出できなければなりません。
さらに、失業保障プログラムの受給者が次の職を得るために必要なトレーニングを受けられるよう、政府が提供できる就業機会とスキルの正確なマッピングが必要となります。質の高い訓練機関を確保すると同時に、手頃な費用でトレーニングの質を向上させることが求められています。さらに政府は、失業保障プログラムの受給者の能力に基づき、彼らに助言をする就職コンサルタント/アドバイザーを提供しなければなりません。
3.能力開発、グリーン・ジョブズ、生産性
1)能力向上のための政策と制度
労働に求められる能力の高度化は、スキル開発を行う関係者に十分に認識されているとはいえません。APINDOなどの経済団体は、今後拡大されるべきロールモデルとして、大学と会員企業の連携を促進する「Merdeka Belajar Kampus Merdek(MBKM)-独立したキャンパス、学びの自由」政策を支援しています。これは、学生が自分の専門分野だけでなく、幅広い分野での知見を広げられるようにインターンシップ等の校外プログラムへの参加を推奨するものです。学生は国内外の企業で1学期のインターンシップをすることで約20単位を取得でき、各大学は国内外の企業や職業斡旋業者と提携をしています。実際の経済界のニーズとのマッチング強化が進むように、職業教育を改善する必要があります。そのためには、カリキュラムの提供、研修制度へのアクセスの促進、職業訓練施設やインフラの活用など、経済界の支援が必要となります。
また、国家職業訓練システム(sislatkernas)の協調体系には、関係者間の連携が不可欠です。インドネシア国家職業技能適性標準(SKKNI)の強化、民間または政府の職業訓練機関(LPK、BLK)や職業訓練機関が認定した機関(LA LPK)の質の改善、国家職業資格認証機構(BNSP)により認定された専門機関等および専門職業資格検定機関(LSP)の役割は、相互に支援し合う統合されたシステムでなければなりません。
他方、能力開発のための特別税額控除制度は、活用する企業にはメリットが認識されているにも関わらず、ほとんどの企業関係者に知られていません。調査によると、本政策を知っている企業は24.94%のみで、この政策の施行後すでに5年以上が経過していることを考えると憂慮すべきことです。この政策を知っている企業のうち17.28%が導入し、その恩恵を受けています。労働者の能力向上を支援する特別税額控除制度は、極めて将来性があるものです。なぜなら、調査結果によれば、制度を利用している企業(71.77%)は取得がとても容易であると述べており、19.82%は取得が困難、また0.88%は取得が極度に困難と感じているという事実はあるものの、7.93%は非常に容易であると述べているからです。恩恵という観点からは、74.89%の企業が十分な税額控除を受けていると報告しています。
2)労働者の能力開発における企業の準備体制
中小企業は、生産性を向上させるために労働者の能力向上のための政府の支援を必要としています。APINDOのロードマップ調査によると、大企業は研修プログラム、認定トレーナー、研修施設やその他インフラを通じて従業員の能力を向上させる体制が整っています。しかしながら中堅中小企業の回答は様々で、これは2019年度のAPINDO調査と同じ結果となりました。中小企業に対する労働者の技能習得、再教育、スキルアップには政府の支援が必要不可欠です。
その一方で、企業は環境に配慮した経営に対する意識の高まりに対応するために、具体的なスキル、特にグリーン・ジョブ・スキルを身につける必要があります。このことは、自社製品や自社経営が環境の持続可能性を推進するならば、ビジネスも持続可能となり得ることを経済界が認識しているということであり、グリーン・ビジネスおよび投資の成長と一致します。二酸化炭素排出量削減に向けた世界的な取り組みはすでにインドネシアの労働市場に影響を及ぼしており、今後数年でさらに拡大すると予想されています。