AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第169号

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インドネシア(第169号)

インドネシアの労働事情について
インドネシアの雇用と労使関係、使用者組織の視点

 

インドネシアの
労働事情について

インドネシアの雇用と労使関係、使用者組織の視点

要旨

ビジネス社会から見たインドネシアの労使関係の現状は、インドネシアを代表する使用者団体であるインドネシア使用者協会(The Indonesian Employers’ Association、以下APINDO)の視点により示すことができます。APINDOは労使関係や労働力の問題に関する最も代表的な組織として、インドネシアの社会的保護制度や労働者の能力開発を世界的な労働基準規範に整合させ、競争力のある国内経済を創造するために極めて重要な使命を持っています。

APINDOは企業経営陣、各業界団体のリーダー、オブザーバー、学識者などのさまざまなステークホルダーとの議論や協議を重ね、さらに独立調査機関が実施した約16,000社に及ぶ企業アンケート調査の結果から学び、労使関係や労働力に関するビジネスの視点を本レポートに示しました。

問題点を分析した結果、長期的な目標に向けてインドネシアの労使関係や労働力を改善するために、APINDOは経済界に以下に示す複数の提言を行いました。

 1)労働政策の改革の一貫性及びその実施の強化

 2)障害者や女性に配慮した包括的な雇用の創出

 3)グリーン・ジョブを含む新しい業務形態に応えられる人材の開発

 4)協力の精神に基づく労働者と企業の二者関係の構築

他方、経済界も以下の短期的な提言を行いました。

  •  1) 公正な賃金・最低賃金・外部委託方針の策定
  •  2) 雇用創出法に基づく中小企業賃金規範の実現
  •  3) 雇用社会保障における老齢保障及び年金保障の強化による高齢化社会に向けた取り組み
  •  4)医療保険制度における入院病室の等級廃止、標準クラス制度の導入支援
  •  5)労働者の能力向上のための特別税額控除の有効性の見直し

背景

インドネシアの雇用動向は、労働市場の状況と表裏一体の関係にあります。統計によれば、インドネシアの2023年2月の失業率は5.45%であり、総失業者数は799万人に達しました。中央統計局の統計定義では失業者に分類されないものの、労働時間が非常に短い労働者を含めると失業率は更に増大すると考えられます。これはインドネシア経済の変化と本質的に関連しており、雇用吸収力が低下傾向にあることを示しています。雇用吸収力はまさに過去9年間において4分の1に縮小しており、2013年には1兆ルピアの投資につき4,594人の雇用が創出されましたが、2023年には1,285人しか雇用されない状況となっています(投資調整庁BKPM / 投資委員会BPS)。

このような状況は、少人数の労働者を雇用する資本集約型投資が増加し、労働集約型投資の割合が減少しつつあることを示しています。高い労働スキルが求められる資本集約的な投資が増加する中、インドネシアの労働市場は低スキルの労働者で占められており、このことは労働者の学歴が低いことからも証明できます。というのも、労働者のうち小学校卒業者は39.76%、中学校卒業者が18.24%、高等学校及び職業訓練校卒業者は28.49%で、ディプロマ・大学・大学院等の高等教育を受けた労働者は11.51%に過ぎません。

一方、購買力が低いために政府から補助金を受けている人数は依然として非常に多いのが現状です。政府は、社会健康保険管理機関(BPJS Kesehatan)の健康保険制度の拠出補助受給制度(PBI)において約9,675万人分の健康保険料を負担しており、地方自治体はそれぞれの地域住民に対する拠出金を約3792.2万人分負担しています。これは、有効な保険加入者総数2億1,350万人の約63%が、政府出資の医療サービスに依存していることになります。さらに、約1,000万世帯が条件付現金給付制度(PKH)、並びに賃金補助や電力補助など多くの制度から社会的支援を受けています。雇用創出が進み、国民が自活できるだけの購買力を持つようになれば、政府の各種社会扶助制度の受給者は間違いなく減少するでしょう。

このような労働市場の状況とインドネシアのマクロ経済力を考慮し、本レポートは、インドネシアの労働競争力を向上させるために労働基準規範、包括的雇用、社会保障、技能開発、二者間(労働者・使用者)及び三者間(労働者・使用者・政府)関係の構築などの労働構造改革に取り組むために、APINDOによって作成されたものです。