AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第166号~第168号

Contents

カンボジア(第166・167・168号)

カンボジアの労働事情について
カンボジアの現在の労働環境
カンボジアの労働法
熟練労働者の不足
カンボジアにおけるより良い労働条件の促進
労働条件改善への取り組み
2024 年のカンボジアの労使関係の見通し

 

カンボジアの労働事情について

カンボジアの現在の労働環境

カンボジア経営者・ビジネス協会連盟(CAMFEBA)が会員企業を対象に実施した「労使関係と人事管理(HRM)に関する聞き取り調査」によると、企業は「労働紛争」、「労働法の未整備」、「熟練労働力の不足」、「訓練・能力開発プログラムの不足」といった共通の課題を抱えていることが分かりました。これらの要因の1つが労働紛争であり、生産が阻害されネガティブな労働環境が生み出されています。その原因として、家族を養うことができないような低賃金、危険かつ劣悪で不健康な労働環境、雇用の保障が限定された業務、医療保険等を含む経済的なサポートの不足、キャリア支援やスキルアップ機会の欠如、女性・障害者・移民労働者・先住民などに対する差別や不平等といったさまざまな問題が挙げられます。

カンボジアの労働法

また、カンボジアの労働法の不備も大きな課題と言えます。1997年に公布された労働法では、例えば、劣悪な労働条件と低賃金により継続的に搾取され不適切な環境に置かれている非正規労働者はほぼ対象とされておらず、正規労働者ばかりにフォーカスされていることは大きな問題と言えます。さらに、法制度を遵守させるための執行のメカニズムが脆弱で、コンプライアンス違反が発生しやすく、違法を招いている雇用主の責任を追及することが難しいのが現状です。産休、セクシャルハラスメント、同一労働同一賃金など職場における男女平等の問題への対応も十分とは言えません。雇用主が従業員を不適切な環境で継続的に雇用していたとしても、従業員はその環境を甘んじて受け入れざるを得ないことも多く発生しています。加えて、移民労働者に対する保護も欠如しており、高額な募集手数料、劣悪な労働条件と福利厚生、司法へのアクセス等、搾取と虐待にさらされています。

熟練労働者の不足

カンボジアでは熟練した労働力が不足していることも、雇用主にとって大きな課題となっています。 主な要因として、貧困層の教育へのアクセスが限られていること、職業訓練プログラムの質が低く、企業の求めるスキルに十分対応できていないことが挙げられます。他方で、スキルや資格を持つ者はより良い労働機会を求めて海外へ流出し、カンボジアの熟練労働者不足が進む一因となっています。このような労働スキルに関する企業や社会的ニーズと現実とのギャップは、人的資本開発への投資の優先順位が低い結果とも言えます。しかしながら、そもそも能力開発プログラムが限られていることに加え、関係者の理解の欠如、トレーニング参加に対する文化的障壁、言語的な問題などの理由により、労働者が働きながらこれらのプログラムに参加することは難しいのが現状です。

カンボジアにおけるより良い労働条件の促進

さまざまな利害関係者が、より良い労働条件に向けた擁護、協力、関与、実施を通じて労使関係に共同で対処する必要があります。

-労働法と労働組合法の効率的な執行
労使関係を改善するには、紛争解決に関する労働者の権利を保護するために労働時間、公正な賃金、労働安全衛生基準、利害関係者の遵守を保証するための労働監督制度を定めた既存の労働法、労働組合法および関連規制が効果的に施行されなければなりません。

-賃金水準の引き上げ
カンボジア政府は毎年賃金水準を引き上げていますが、カンボジアは東南アジア地域内の他の国々と比較して相対的に遅れをとっています。 外国投資を呼び込んでいるものの、労働者の搾取に対する懸念も生じており、カンボジア全国最低賃金委員会は労使関係の改善に向けて労働者により大きな経済的保障を提供することを検討しなければなりません。

-労働力の整備
カンボジア政府は、経済成長の促進と労使関係の改善における技能開発の重要性を認識しています。 能力開発プログラムに投資し、労働者に昇進の機会を提供すれば、労働者のスキルと知識は間違いなく向上し、より労働条件のよい高賃金の仕事にアクセスする権限が与えられる可能性があります。

-社会的保護制度の活性化
労働者とその家族にセーフティネットを提供するために、社会保障、年金、医療、保険制度などの現在の社会的保護制度を拡大していく必要があります。

-責任ある企業倫理の奨励
カンボジアで事業を展開する企業の社会的責任を促進し、公正な労働環境、労働安全衛生、労働法の遵守を優先するよう奨励されなければなりません。

カンボジア経営者・ビジネス協会連盟(CAMFEBA)の労働条件改善への取り組み

CAMFEBAは雇用主と従業員の両方の権利と利益を保護する労働法の規定を強化するために、カンボジア政府および議会と協力しています。 同連盟はまた、労働者の権利問題への意識を高め改革への支持を構築するために、NGOや市民社会団体と協力し包括的な労働法の支持者として活動しています。

-公正な賃金水準に向けた支援
CAMFEBA は雇用主を代表する官民ワーキンググループのメンバーとして、近隣の輸出依存国(ミャンマー、ラオス、ベトナム)との激しい競争を背景に、カンボジア全国最低賃金委員会に対して国内の公正な賃金水準の決定を勧告しました。カンボジア政府は2024 年に、アパレル・繊維・履物労働者の月額最低賃金を 204 米ドルとすることを承認しました。

-人材育成の促進
カンボジアの労働・職業訓練省は、2018 年 7 月に労働者の技能評価認定する産業分野別技能委員会(セクター・スキルズ・カウンシル)を設立しました。これは政府によって正式に認められた常設委員会で、人材能力開発を強化するための参加型プラットフォームとして機能しています。具体的には、カンボジアの各産業分野でどのようなスキルが要求されているかを判断し、それぞれのニーズに効果的に対処するための政策とプログラムを開発しています。CAMFEBAは教育機関や政府機関と協力し、労働者のスキルと能力を強化するトレーニングプログラムを展開しています。

-社会的保護の強化
CAMFEBAは国家社会保障基金 (NSSF) 理事会のメンバーとしても活動しています。この基金は2022年7月に制定された労働法上の労働者を対象とした年金制度です。年金制度の給付には老齢年金、障害年金、葬儀給付および遺族年金が含まれており、カンボジアにおける社会的保障制度の効果的・効率的・持続的な実施をサポートする推進力となることが期待されています。

-ビジネス倫理の構築
CAMFEBA はカンボジアにおける労働問題の解決と調和のとれた生産的な労使関係環境の促進を目的として、さまざまな活動に積極的に取り組んでいます。 カンボジアの雇用主と労働者の双方に、公正な慣行と適切な労働条件を確保するための多面的なアプローチをとることで両者の架け橋として機能しています。ワークライフ バランス、健康と安全、生産性を促進し、最終的には双方に利益をもたらすような労働環境を構築できるよう全力を尽くしています。

2024 年のカンボジアの労使関係の見通し

カンボジアの労使関係は年々改善しており、政府は労働法を強化し労働者の権利を保護するための改革を実施しています。 新型コロナウイルス感染症のパンデミック後も引き続きカンボジア経済に大きく貢献している縫製・繊維産業は、労働条件や賃金の改善に取り組んでいる最中です。
また、ハイテク産業の成長を妨げる熟練労働者の不足などに対しても、スキルギャップに対処するための職業訓練プログラムに政府が投資を行っています。

他方で、産業の自動化とテクノロジーの発展が雇用に与える影響は、一部の仕事が不要になるという新たな脅威をもたらしており、カンボジアにおいても例外ではありません。これにより生産性と効率性は向上しますが、低スキルの仕事にはリスクももたらします。 カンボジア政府は労働者が仕事の性質の変化に対応し、新しい役割に移行するための訓練や支援を受けられるよう環境を整えていく必要があります。

これらの課題に効果的に対処できれば、カンボジアの労使関係は2024年以降も改善を続ける可能性が高く、東南アジアにおける戦略的な位置、人件費の低さ、インフラ整備と海外投資誘致への取り組みにより、カンボジアが今後数年間でより多様でダイナミックな経済発展を遂げる可能性を秘めています。