AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第163号~第165号

Contents

中国(第163・164・165号)

中国の労働事情について
中国の労働事情に関する見通し
デジタル経済での柔軟な働き方の拡大
中国における雇用に関する取り組み
中国の中小企業における雇用に関する課題
フレキシブル・ワーカーの権利
人口の高齢化と農業労働者

 

中国の労働事情について

中国の労働事情に関する見通し

世界的に、持続可能な発展とデジタル時代への対応が求められるなかで、従前のようなビジネスのやり方では、企業が存続していくことは難しくなりつつあります。一方で、金融や通信といったサービス分野や、持続可能な環境への取り組みに対しては、膨大な投資がもたらされる可能性があります。しかし、このためには、中国がこうした分野をよりオープンにしていくという意識を、専門家や産業が強く持つ必要があります。

最近では、フランスの電気機器・産業機器メーカーであるシュナイダー・エレクトリック社や、フィンランドを拠点とし、船舶やエネルギービジネスを展開するバルチラ社、サウジアラビアのアジュラン&ブラザーズ・グループといったグローバル企業が、サービス貿易分野での投資を強化しています。これは、グローバル企業が、世界第2位の経済規模を誇る中国でのグローバル・サプライチェーンにおける役割を一層実現しようとしている具体例と言えます。「世界の工場」としての中国は、「グローバル・オフィス」として、変貌を遂げようとしています。

デジタル経済での柔軟な働き方の拡大

フレキシブルなデジタルベースの雇用は近年、中国の雇用市場でますます重要になってきています。中国最大のオンライン求人情報サイトであるZhaopin(智联招聘)と、広東省の済南大学経済社会研究所が発表したレポートによると、過去5年間のデータから分析した結果、運輸、ロジスティクス、メディア、エンターテインメントなど、デジタル経済と密接に関連する業界では、求職者に対してよりフレキシブルな雇用機会が提供されるようになってきています。特に、電子商取引、宅配サービス、ライブストリーミングなど8分野では、フレキシブル・ワークをデジタル経済における「新しいタイプのフレキシブル雇用」と定義し、従来のパートタイム雇用と区別しています。

さて、デジタル経済への依存度が高い産業で「新しいタイプのフレキシブル・ワーク」の求人が増えた一方で、労働者への福利厚生や社会保険はあまり提供されてはいません。運輸・ロジスティクス業界では、フレキシブル・ワークが求人の約44%を占め、そのほとんどが配送ドライバーや宅配便業務となっています。しかし、より伝統的な業界である不動産やエネルギー業界では、フレキシブル・ワークの求人はそれぞれ2.1%と2.8%にとどまっています。さらにレポートでは、フレキシブルなデジタルベースの仕事は女性に好まれており、約54%の女性求職者がeコマース・オペレーターやライブストリーミング業務などの求人に応募していると報告しています。

中国における雇用に関する取り組み

中国政府は雇用に関するさまざまな取り組みを行っています。例えば、高度な技術を有し、斬新でユニークな製品を生産する企業や、多くの雇用を生み出す企業に対し、雇用サービス専門家が求人情報の収集や雇用指導などのサービスを提供しています。

また、中小企業や零細企業への融資のための資金供給を増やし、雇用規模を着実に拡大できるような施策も進められています。

さらに中国政府は、スタートアップ企業向けの保証制度を強化し、新しい技術やアイデアで事業を行う企業の雇用も支援しています。一時的な困難に直面した融資先企業が返済を延期できるようにする措置がその一例です。

また、学生向けの取り組みも行われており、例えば、湖南省では女子大生を対象とした求人・求職イベントが開催され、159社から5,000人以上の求人があり、5つの大学から2,000人近くの女子学生が参加し、600人近くが就職先を見つけています。

さて、中国の労働市場に関して、最近の調査データによると労働参加率が増加しています。また、製造業への投資、消費財や小売総売上高、都市部の失業率など、雇用に関するパフォーマンスは予想を上回っています。反面、地方の中規模都市では、労働時間の延長や失業率の深刻化が、課題となっています。

中国の中小企業における雇用に関する課題

中国の中小企業の経営状況を総合的に評価するために、中国中小企業協会が、中小企業3000社の業績と今後の見通しをもとに「中小企業発展指数」を毎月発表しています。2023年8月の指数は、0.1ポイント上昇して89.4となり、3か月連続で増加し、これは民間経済と投資に対する公的支援の強化を通じて、中小企業の経営状況の回復が継続していることを示していると考えられます。

広東省で電子機器用のType-Cケーブルを製造する東莞易宏精密科技有限公司のマネージャーによると、同社製品の売上は2023年6月から8月にかけて増加し、8月には2022年の最高売り上げを上回ったとのことです。従業員50人足らずのこの小さな会社は、1日に30万個のType-Cケーブルを生産し、日本の大手ゲーム機器メーカー(任天堂)や中国のスマートフォンメーカー(Xiaomi)に供給しています。

中国では、国の税収のほぼ半分、GDPの60%を中小企業が担っています。また、国の技術革新の70%、都市部の雇用の80%は中小企業によるものです。しかし外部経済の不確実性や企業コストの高騰など、中国の中小企業は多くの課題に直面しており、有効需要のさらなる拡大とビジネス環境の改善が求められています。

フレキシブル・ワーカーの権利

報告書によると、2023年第3四半期までは、プラットフォーム上で利用可能な従来型求人の約65%が社会保障保険を提供していましたが、その後、その割合は約55%に低下しています。

一方、フレキシブル・ワークの求人に関しては、2021年第2四半期には約35%だったものが、それ以降下がり続け、2023年第1四半期にはわずか19%にとどまっています。

フレキシブル・ワーカーの権利を一層保護していくためには、フレキシブル・ワーカーという名称や定義付けに関係なく、国の社会保障制度に組み込まれることとが重要です。フレキシブル・ワーカーのなかには従来型の仕事と内容的にさほど違いのないものもあります。たとえば、オンライン配車のドライバーとして働くことは、タクシーの運転手として働くことと大きな違いはありませんが、保障の点では大きな違いがあります。安定的に収入を得ているフレキシブル・ワーカーに対しては従来型の仕事と同じように社会保障が受けられるよう、国として取り組むべきです。このようにフレキシブルな雇用は、雇用機会の点ではプラスの効果がありますが、労働関係、労働者専門性やその証明、社会保険などの点では、まだまだ課題が多く、体系的で長期的な観点からルール作りが必要と言えます。

人口の高齢化と農業労働者

中国でも高齢化は大きな問題で、急速に高齢者人口が増加しています。国家統計局によると、65歳以上の高齢者人口は2022年末には国内総人口の14.9%を占め、2050年には30%を超えると予想されています。潜在的に非常に大きな問題で、将来的に顕在化する可能性が非常に高く、多くの人が問題を認識しているにもかかわらず、対策が先延ばしにされている、人口の高齢化問題は、経済やマーケットの世界で言いうところの「灰色のサイ」です。

また、中国の農業労働者についても、大きな課題があります。中国の農業従事者の割合は依然として高く、かつ労働生産性も世界の農業大国に比べてはるかに低い状態です。2022年時点での中国の農業労働者の数は1億7,000万人で、労働者全体の23%を占め、農業の付加価値は労働者1人当たり5万元(7,248ドル)にとどまります。国際比較の観点から見ると、中国の労働者1人当たりの農業付加価値は2021年に5,609ドル(2015年米ドル換算)で、これは米国の5.6%、カナダの5%、欧州連合の22%にすぎません。
中国は巨大な人口規模だけでなく、豊富な人材を有しています。人口の高齢化は、大きな非常に大きな問題ですが、一方で、人的資本の強化、平均寿命の延長が大きなチャンスを生みだす可能性を秘めているとも言えます。

中国企業連合会は、中国企業経営者の団体として研修やコンサルティングなどを通じて中国国内の企業をサポートし、新時代の持続可能な発展のため貢献していきます。