Contents インド(第160・161号) |
インドの女性の
労働参加の状況
女性労働力の可能性
インドでは、労働力としての女性の存在と影響力が、従来の規範から逸脱して変革の時を迎えています。さまざまな専門分野に進出する女性が急増し、これまで男性が支配してきた分野の壁を崩しています。政府のイニシアチブ、教育上のエンパワーメント、社会的な考え方の変化がこの動きを後押しています。
女性労働力の可能性を最大限に活用することは、誰もが社会に参画する機会を持ち、排除されないというインクルージョンの問題であるだけではなく、経済成長を促し、真に平等な社会を育むための戦略的に必須となる事項です。
しかしながら、状況の進展にもかかわらず、男女間の賃金格差やリーダーシップを発揮するような代表者がいないといった課題は依然として残っています。
さて、インドでも正規労働者と非正規労働者間の賃金格差は、この国の労働市場に蔓延する格差を反映した複雑な問題です。さらにジェンダーの側面に目を向けると、この格差はより複雑です。1990年代にインドの産業化が進展しましたが、インドの労働市場における女性の役割が、これまで適切に考慮されてきたとは言い難いものがあります。インドの労働市場の力強さと同様に、女性の労働参加は社会的な要因としても重要な役割を果たしていますが、労働力としての女性の役割は、いまだに正しくカウントされているとは言えません。
インドの定期労働力調査(Periodic Labour Force Survey (PLFS) 2022-23)によると、女性の労働力参加率は、通常の労働状態、一般的な雇用の状態で、農村部と都市部を合わせて37%となっています。インド産業界は、女性の労働力参加率を50%にすることをビジョンとして掲げています。このビジョンは、ジェンダーの平等とインクルーシブな経済成長という、より広範な社会的目標と一致しています。
インドでは、女性の大多数が農業部門に従事しており、農村労働力のかなりの部分を構成しています。農業における女性の役割はインドの社会や経済の構造に深く根付いており、女性の貢献は農業活動のさまざまな側面に及んでいます。
このように農業に従事する女性は、重要な役割を果たしているにもかかわらず、多くの課題に直面しています。たとえば、女性たちが従事する仕事は非正規で、組織化されていないことが多く、正規雇用に与えられるような正当な評価や権利がありません。さらに、農村部に蔓延する伝統的な性差による役割分担が格差を拡大していて、女性の意思決定や教育、医療へのアクセスを制限しています。
しかし、農業における女性の重要な役割が認識されるにしたがって、ジェンダー・インクルーシブを目的とした政策、女性にフォーカスした取り組みがますます重視されるようになっています。多様性を受け入れる機会を促し、借り入れのしやすさや、能力開発への注力によって、正規と非正規労働者のギャップを埋める取り組みが行われています。農業における女性のエンパワーメントと正規雇用への移行が進めば、女性の社会経済的なステータスを高めるだけではなく、インドの産業をより広範に、より持続可能に、発展させることにつながります。
こうしたビジョンを実現するため、インド産業界は近年、積極的な措置を講じてきました。プロフェッショナルな女性を育成する環境づくりに重点を置いたイニシアチブもその一つです。既存の障壁を取り除き、より多くの女性が労働市場に参加し定着ことができるように、対象を絞った能力開発プログラムや、メンターシップ・イニシアチブ、フレキシブルな就労環境といったことまで、さまざまな戦略が実施されています。
さらに、企業は女性が仕事と個人的な責任とのバランスに際して直面するさまざまな課題への対処をサポートして、労働力として定着できるように、接続可能で発展的なエコシステムの構築にも取り組んでいます。
女性の労働参加率
インドの定期労働力調査(PLFS)が示すデータによれば、女性の労働参加率がまだまだ目標には開きがあることが示されています。一方で、最近発表された「India Skills Report 2023」によれば、雇用可能な女性の割合が、男性の47.2%に対し、52.8%に増加したことが明らかにされました。過去10年間、雇用可能な女性の割合が一貫して上昇していることは、発展途上にあるインドの労働市場が根本的に変化していることを示す明るい兆候といえそうです。
こうしたなか、昨年、インド使用者連盟(EFI)と、インド工業連盟(CII)が主催した全国会議では、特別セッションで「女性の職場復帰」が議論されました。このセッションには、化学、自動車、メディア、多国籍組織など、さまざまな産業分野の女性リーダーが参加し、議論を進めました。特に、経営に携わるようなより高い地位にある女性の役割がフォーカスされ、産休・育休後の職場復帰の促進、家族をケアした後の職場参加にもっと注力すべきとの主張がなされました。女性の雇用のハードルを下げ、伝統的な仕事上の役割の枠を超えてインクルーシブな文化を創造していくためには、労働組合や政府の支援が必要という意見が数多く聞かれています。多様性、公平性、包括性という基本的な価値観が強調される一方で、女性が家庭と仕事の両立を迫られていること、また、スキルのギャップや、自信をもって仕事に取り組めるようになること、自分に適した仕事へのアプローチ方法など、さまざまな課題に女性が直面していることも指摘されています。
産業界は多くの進歩的な取り組みを行っていますが、インドの経済が抱える伝統的な価値観のもとでは、インドの女性が潜在能力を完全に発揮できてはいません。インドの女性の多くは、育児、家族、高齢者の介護、家事などを担っていて、これらは無報酬であるため、経済の定義上はカウントされません。
とはいっても、単に女性の労働への参加を増やすことだけが目的ではなく、持続可能で、発展的なエコなシステムを確立することが重要です。女性を労働力として定着させるには、採用の取り組みだけではなく、インクルーシブな企業文化の創造が必要となります。具体的には、性差による偏見(ジェンダー・バイアス)などの問題への対処や、平等な昇進機会の確保、家庭に優しい取り組みの提供などです。
見方を変えると、女性の職場でのキャリアにおけるマインドセットの変化は、いくつかの研究で示されているように、職場での女性の積極的な参加が増えると、「責任ある職場」を実現する要因となり得ます。例えば、インドの自動車産業では、さまざまな役割や地位において、女性のもつ知識やイノベーション能力を発揮してもらえるように基準を定め、女性従業員にリーダーとしての地位と権限を積極的に与え、戦略的な意思決定につなげるような仕組みを始めています。
このようにインドの産業界は、女性のプロフェッショナルとしての成功のため、さまざまな取り組みを進めていますが、ハイブリッドな職場文化、柔軟性、ワーク・ライフ・バランス、託児所の設置など、女性の支持を得るための確かな取り組みが一層行われていく必要があります。課題は多くありますが、結果として女性の活躍が、あらゆる分野でインド経済の成長とダイナミズムに大きく貢献ことになります。
インド使用者連盟(EFI)と、インド工業連盟(CII)は、産業界をサポートして積極的な取り組みを行っています。