AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第16号~第22号

Contents

   1. マレーシアの労働組合の状況
   2. マレーシアの労働組合のタイプ
   3. 労働組合の役割
   4. 団体交渉で何が議論されるか
   5. 労使紛争とその決着のプロセス
   6. 労働仲裁裁判所
   7. 労使紛争解決のための使用者団体の見解

1. マレーシアの労働組合の状況

人的資源省労働組合業務局のデータによれば、マレーシアには、2014年9月時点で727の労働組合があり、組合員は918,673名いる。 これはマレーシアの労働人口1,344万人の6.8%にあたる。組合組織率は低いが、組合員はすべての経済セクターにわたっている。

 

マレーシアの労働組合数と組合員数の推移(END 2014年9月)

組合数

会員数

組合数

会員数

組合数

会員数

2014.9

727

918,973

2009

630

806,860

2005

621

761,160

2013

706

914,677

2008

659

805,565

2004

611

783,108

2011

697

800,171

2007

642

803,212

2003

609

789,163

2010

690

803,289

2006

631

801,585

2002

581

807,260

 

セクター別の労働組合数と組合員数の推移(END 2014年9月)

セクター

組合数

会員数

政府部門

145

455,898

民間部門

478

381,509

特殊法人的外庁機関(Statutory Body)

104

81,266

合計

727

918,673

 

 労使関係法によれば、団体交渉は、労働組合が使用者側に承認された場合にのみ行うことができる。法によれば、機密性の高いカテゴリーや安全保障に関連するカテゴリーに分類されている労働者、また、管理職や役員は除外されるが、労働者は労働組合活動を行う権利がある。マレーシアで労働組合と組合活動を規定する現行法は、労働組合法1959(TUA)と労使関係法1967(IRA)である。
労働組合法1959は、組合の設立、組織、組合事務局の選挙、財政について述べている。
労働組合を設立する主たる条件は、労働組合法1条に、労働者が属する職業や産業別の組合でなければならないと規定している。また、組合は人的資源省労働組合業務局局長に登録申請する必要がある。労働組合業務局はこれを審査し、場合によっては登録を保留したり、却下したりすることがある。
労働組合法は、労働組合運動の説明責任を求め、労働組合業務局によってモニタリングされることを認めている。労働組合法には、「組合は、毎年、労働組合業務局長(Director General of Trade Unions: DGTU)に組合の財務歳入記録を提出する義務があり、提出することで労働組合の財政管理と説明責任を果たす」と記している条項がある。また、組合が法律を犯した場合は、労働組合幹部が起訴され、裁判所で罰金と禁固刑を科することもある。もっとも労働組合法23条は、第3者を通して行われた組合活動の不法行為に対し、組合とその幹部に市民免責を与えている。しかし、23条で保護されている組合に対し、労働組合やその幹部から苦痛を受けた会社や個人が裁判所で係争中である。

2. マレーシアの労働組合のタイプ

 マレーシアの労働組合は3つのカテゴリーに分けられる。

 

    a) 企業別労働組合(623)
    b) ナショナルセンター(全国中央組織104)
    c) 労働組合連合

 

企業別労働組合は、設立した組合員の利益にかなう組織である。労働組合業務局長(Director General of Trade Unions: DGTU)の承認により、子会社を含めた企業グループのすべての従業員を代表することが認められる。
ナショナルセンターは、産業別、職業別労働組合である。組合員は、企業や組織、地理的な制約がない。
労働組合連合は同じ産業や職業の労働組合の連合体である。マレーシア労働組合会議(MTUC)は労働組合連合で、団体法1955に基づいて登録されている。
政府職員は、同じ省部門の同じ職業の職員同士でのみ組合を結成できる(あるいは参加できる)。政府の労働組合連合は、官公労連会議(Congress of Unions of Employees in the Public and Civil Services: CUEPACS)と呼ばれている。地方の役所や法的機関の従業員は、同じ所属組織の労働組合のみ結成できる。警察や刑務所関係の職員、軍人は組合参加を許されていない。
使用者もまた、自らの組合を結成できる。使用者の権利を守り、他の使用者団体と連携・協力している、良く知られている組織として以下のものがある。

 

    ・マレーシア農業生産者協会(MAPA)
    ・マレーシア鉱業経営者協会(MMEA)
    ・マレー半島商業経営者協会(CEAPM)
    ・マレーシア商業銀行協会(MCBA)
    ・保険経営者協会(AIE)
    ・マレー半島ホテル経営者協会(AHEPM)
    ・ペナン・ウェルズリー州港湾労働経営者協会
    ・サバ森林業経営者協会
    ・サバ商業銀行協会
    ・サラワク商業銀行協会

3. 労働組合の役割

 労働組合及び経営者組合は、労働組合法に「同じ組織、職業、産業に属する労働者ないしは経営者の組織ないしは連合組織で、以下の目的を持つ」と両者とも規定されている。

 

    a. 協調的労使関係を促進し、労働者の労働条件を改善し、経済的社会的地位を高め、また生産性を高める目的で労使関係を調整する。
    b. 労働者間、使用者間の関係を調整する。
    c. 労使紛争における労使どちらかを代表する。
    d. 労使紛争やその関連事項を取り扱い、処理する。

    e.  ストライキやロックアウトを組織し、その間の組合員の賃金・手当を財政的に請け負う。

 

労働組合員の権利保護
組合を結成あるいは組合に参加するマレーシアの労働組合員の権利は、労使関係法5条で保護されている。法は以下のように述べている。

 

    a. 使用者は、組合に参加あるいは組合から脱退しようとする組合員を制約するような雇用契約条件を課してはならない。
    b. 使用者は、労働者が組合員である理由によって雇用を拒否してはならない。
    c. 使用者は、雇用、昇進、労働条件に関し、組合員である理由によって従業員を差別してはならない。
    d. 使用者は、労働組合に参加しようとする従業員を止めるために解雇や解職をしたり、解雇・解職すると脅したり、してはならない。
    e. 使用者は、有利な条件を提示して労働組合員になることを止めたり、やめさせたりしてはならない。

4. 団体交渉で何が議論されるか

 マレーシアの労使関係で想定している団体交渉の内容は、大きく次のように分けられる。

 

    ・雇用条件を相互に定める。
    ・不満を解決する手続きを検討する。
    ・争議行為を解決する手続きを検討する。
    ・相互利益関係を構築するための公開討論会を行う。
    ・相互理解を促進する公開討論会を行う。

 

使用者と労働組合による団体協約は、支払われる賃金率や雇用条件を決定する。団体協約は個々の労働者契約に優先するものである。労使関係法1967の17条によれば、従業員が労働組合員でなくても、結ばれた団体協約は労使双方に拘束力がある。
労働組合法は、団体交渉と団体協約の当事者を、組合を代表するすべての従業員としている。ただし、組合員は、組合執行部に協約を結ぶ権限を与えることができると、法は述べている。一旦、調印され、労働仲裁裁判所に認知されると、団体協約はすべての労働者に適用される。団体協約は、新しい協約にとって代わるまで、あるいは不満がある場合は労働仲裁裁判所の裁定で却下されるまで効力を持つ。

 

団体協約は以下の事柄をカバーする。

 

    ・給料・賃金等・手当等
    給料/年額増加/ボーナス/生活費/特別扶助料/残業手当・時間割増金/休日出勤手当/食事手当/分割シフト勤務手当/出張所勤務手当/退職金/解雇手当/クリーニング手当
   

 ・労働時間と休暇等
    労働時間/病気休暇/年休/入院休暇/休憩・昼食時間/組合活動休暇/勉強休暇/出産休暇/父親産休休暇/無休休暇/長期病気休暇/労働組合セミナー参加休暇

 

    ・勤務・就業規律に関する問題
    苦情処理手続き/懲罰手続き/安全衛生と生産性改善の協力/効率と戦略
   

 ・福利と職場環境についての問題
    食堂の食事/スタッフの購買/スポーツとリクレーション/安全衛生/職場内の医療施設/医療手当/歯科治療手当

 

労働関係法1967の13(3)条によれば、次の事柄に関しては、団体交渉で提案できない。

 

    a. 労働者の昇進
    b. 雇用年数に照らして損失を伴わない組織内の配置転換
    c. 使用者による従業員の空席ポストへの配置移動
    d. 人員余剰、あるいは、職務・業務再編による労働者の雇用終了
    e. 使用者による解雇及び復職
    f.  従業員の勤務年数に見合った業務、特別業務任命

 

団体交渉のプロセスは、労働組合が使用者に対し団体協約に関する提案書を提出し、使用者が労働組合を団体交渉に招くことで開始される。使用者は労働組合に返事をするのに14日間の猶予を持つ。返事をしてから30日以内に団体交渉が開始されなければならない。使用者が団体交渉を拒否したり、回答しなかったりした場合、両者間に労使紛争があると見なされる。労働組合は労使関係局長官(Director General of Industrial Relations)に通告し、労使関係局長官は斡旋に動くことになる。交渉が暗礁に乗り上げた場合、どちらの側も労使関係局長官に斡旋を依頼することができる。もし、両者が依然として条件に同意できない場合、人的資源省は労働仲裁裁判所に仲裁を委ねる。
団体協約は、調印後1か月以内に労使によって労使関係局長官に届けられ、労働仲裁裁判所に承認されなければならない。労使関係法14条によれば、団体協約は、変更と終了の手続き、協約の解釈と履行の際に生じる紛争の解決手続きを含む。
団体協約は、マレーシアの法を犯す条件を含んではならない。また、労使関係法13条に述べられているように、昇進、配置転換、任命、余剰解雇、解雇、業務の任命などの使用者の専権事項を含んではならない。ただし、労働者の昇進手続きに関する一般的な質問は議論されてもよい。一旦、労働仲裁裁判所に承認されれば、団体協約は労使に拘束力を持つ。すべての従業員は、組合員であるかなしかに関わらず、その条件で働くことになる。

5. 労使紛争とその決着のプロセス

使用者と従業員、あるいは使用者と労働組合が、お互いの主張の相違を解決できない場合、労使紛争が発生していると言える。労使関係法1967の2条は「労使紛争」を次のように定めている。

 

-- 労働条件で雇用・被雇用の関係となる使用者と労働者間の紛争

 

企業レベルでの労使紛争解決の戦略

職場に組合がある、なしに関わらず、すべての関係者は、労使紛争を避けるか、初期状態で迅速に労使紛争を解決したいと考えている。使用者は、協調的な労使関係を促進・維持する事前対策を取ることが必要となる。他企業と比較しても遜色のない賃金、優れた福利サービス、従業員の勤労意欲を高めるインセンティブだけではなく、従業員や労働組合が意思決定プロセスに関与できること、透明性が高い経営の実施、コミュニケーション障害の撤廃、より良い労使関係の促進などの事前対策である。さらに、使用者は組織内に信頼と忠誠の風土を育てなければならない。優れた人材管理戦略を策定することで、紛争を予防し、たとえ、紛争が起こっても、団体交渉や第3者を関与させない直接の交渉を通して解決することができる。

 

工場レベルでの労使協力の実績のあるモデルに、以下のようなものがある。

 

    ・労使協議委員会
    ・問題を解決するための議論と決定を行う従業員/労働組合の代表と経営側のミーティング
    ・QCサークル運動
    ・協調性とチームワークを利用して、それぞれの職場領域で存在している問題を分析し改善案を提案する活動
    ・経営参加プログラム
    ・ビジネス目的に沿った戦略計画策定のための部門長による定期会議

苦情処理

初期的な紛争の芽を解決する際には、効果的な苦情処理プロセスに沿って苦情を処理することが必要である。苦情は、徹底的に客観的に検討されるべきである。苦情の社会的、文化的側面や誰が苦情を述べているかを十分に考慮する必要がある。苦情処理は労使公平に扱わなければならない。苦情の解決は、現在の苦情の解決ばかりでなく、将来、同じような苦情が起こることを防ぐのに効果的である。

労働関係法1967

労働関係法は、使用者と労働者、労働組合の関係を規定し、労使紛争等を防止することや、労使紛争の解決をはかるために用いられる。「労使関係」は、労働者と使用者(と労使の組織団体)及び両者の組織団体と国家機関の関係を指している。労使関係における3つの立場とは、労働者、使用者、政府のことである。 労使関係に影響を与えるものに、慣習法、法、労働仲裁裁判所の裁定、高等裁判所、上告裁判所、連邦裁判所の裁定がある。

 

労使関係法1967によれば、労使紛争解決のプロセスは以下のようになる。

 

    ・ステップ1:使用者と従業員の直接交渉
    ・ステップ2:労使関係局による調停
    ・ステップ3:労働仲裁裁判所による採決

 

労働組合法には、労働組合によってストライキを行う際に、順守しなければならない多くの条項がある。不法ストライキは、自動的に組合員資格を失うために労働組合員にとって致命的となる。この条項があるため、マレーシアでは他国でしばしば起こる山猫ストのリスクが減少している。
ストライキは合法的であるが、行使する権利には制約がある。労使関係法は、労働組合と経営側に、まず、人的資源省に労使紛争が存在することを届け出ることを求めている。この省の労働関係局は、そのレポートに基づくか、自発的に動いて、調停を試みる。もし、調停の決着に失敗した場合、人的資源省は労使紛争を労働仲裁裁判所に付託する。ストライキは、労働仲裁裁判所に付託されている間、禁止される。また、ストライキは組合員の2/3以上の賛成投票がなければならず、国際基準の50%よりも厳しく設定されている。なお、労働組合は、組合の認知か却下かの問題についてストライキできない。
日常的に不可欠な業種のストライキとロックアウト
労働関係法は、日常的に不可欠な業務に従事している労働者のストライキとロックアウトについて一定の制限をしている。また、ストライキの通告の報告をうけた使用者は、労使関係局長官に特別に報告する義務がある。

日常に不可欠な業務とは、労使関係法の中で、以下のものを指している。

 

    ・銀行業務
    ・電気供給業務
    ・消防業務
    ・積載、輸送、操縦、保管、出荷等の港湾・空港業務
    ・郵便業務
    ・刑務所管理業務
    ・燃料と潤滑油の精製、保管、供給業務
    ・公共衛生業務
    ・テレビ・ラジオ等の公共放送業務
    ・電報・電話業務
    ・水供給業務
    ・水陸空の交通業務
    ・次の政府部門によって提供される業務
    ・化学関係、民間航空、関税間接税、入国管理、海上関係、気象、印刷
    ・軍事・警察関連業務
    ・マレーシアの防衛・安全に関連した業務
    ・従業員の安全に関連した業務
    ・マレーシア経済に重要な産業と官報で告げた産業の業務

 

ストライキ件数
 

以下の表は2008年から2012年までのストライキ件数を示している。

  2008年 2009年 2010年 2011年 2012年
ストライキ件数 2 4 2 0 0
参加労働者数 170 393 71 0 0
ストライキ日数 273 1,139 181 0 0

(出典: 人的資源省)

 

6. 労働仲裁裁判所

 労使関係法の条項に基づいて設立した労働仲裁裁判所は、労使紛争やそれに関する解雇案件をヒアリングし、判決を下す。労使関係法30条の5によれば、労働仲裁裁判所は、労使紛争の裁定にあたっては、技術的な側面や法的形式に拘らずに、公正と良心と実質的な恩恵を考慮して判断すると述べられている。労働仲裁裁判所は、また、公共の利益、財政的側面、マレーシア経済や産業に与える影響を考慮する。

労働仲裁裁判所の所長は、高等裁判所で裁判長を務めた判事の中から人的資源省の推薦によってマレーシア国王に任命される。所長と裁判長は、職務を少なくとも7年間務めなければならない。労働側と使用者団体側の陪審員は、人的資源省から任命され、裁判を補助する。解雇のケースは所長や裁判長だけが座り、ヒアリングをする。陪審員が必要なケースは、労働者を代表する1名と使用者を代表する1名が裁判長と一緒に出席すると決まった場合である。

労働仲裁裁判所の登録申込は、スムーズに効率的に運営するために、人的資源省の事務局長と労働仲裁裁判所所長が責任を負っている。
労働仲裁裁判所は、クアラルンプール、プラウピナン、コタ・キナバル、ジョホール・バル、イポ、コチンはもちろん、それ以外の州都でもヒアリングを行う。地方でも社会的正義が行われているのである。

 

労働仲裁裁判所の機能は以下のものである。

 

    労使紛争や紛争に関連した解雇に対し、仲裁・判決を下す。
    労使によって託された団体協約を承認する。
    団体協約や裁定に関する解釈、違反に関する事項を判断する。
    裁定を通して雇用や労使関係の社会正義に関して、原則やガイドラインを引く。

 

労働仲裁裁判所で扱うケースの種類は、次のようなものがある。

 

    人的資源省から労働仲裁裁判所に付託された、労使関係法1967の20条に関する労働者の解雇
    人的資源省から労働仲裁裁判所に付託された、使用者と労働組合間の労使紛争
    裁定や団体協約に関するどちらかの当事者の解釈訴え申請
    高等裁判所の裁定に関わったどちらかの当事者の法に関する質問訴え申請
    裁定や団体協約における不履行の苦情
    労働組合活動に対する迫害のケース

 

労働仲裁裁判所に持ち込まれた案件 2005年~2012年

課題

2005年

2006年

2007年

2008年

2009年

2010年

2011年

2012年

繰越件数

4,143

3,723

4,566

4,612

3,342

2,627

2,552

2,251

付託件数

1,859

2,990

2,346

665

647

1,437

1,346

1,918

裁定件数

2,403

2,332

2,599

2,170

1,485

1,640

1,838

1,764

保留件数

3,723

4,566

4,612

3,342

2,627

2,552

2,251

2,559

決着件数

2,209

2,233

2,367

1,980

1,390

1,528

1,670

1,615

 労働仲裁裁判所の裁定・判断あるいは命令は、最終的な結論であり、控訴、訴え、レビュー、破棄、質問はできない。労働仲裁裁判所の裁定・判断あるいは命令は、最終的なものであるが、法の瑕疵や権限を越えた行動があったという理由による移送命令書が出た場合、高等裁判所に異議を申し立てることができる。

 

公共セクターの労働組合
公共セクターの労働者や労働組合は、私的セクターの労働者や労働組合が団体協約を締結したり、苦情を処理したりするのと同じ手続きを行わないケースがある。たとえば、雇用の賃金・期間・条件は、特別給与委員会で決定される。
しかし、官公労連会議(Congress of Unions of Employees in the Public and Civil Services: CUEPACS)と公共サービス部門は、給与と労働条件の改定に関する問題を議論している。全国合同協議会(National Joint Council)は、労働組合と職員組合に雇用条件を議論するフォーラムを提供している。フォーラムでの決定が、公共セクターの労働者に影響を及ぼす場合、政府はその議論の見解を考慮するまでになっている。現在、3つの全国合同協議会がある。

 

労働審判所(Labour Court)
労働審判所は雇用法に基づいた準司法機関である。雇用法69条下で、人的資源省労使関係局長官が、下記のような件に対し賃金や現金での支払いに関する労働者と使用者間の紛争を調査し結論を出す。

 

    労使間の業務契約期間
    雇用法やその補足的法律の条項に関すること
    賃金評議会法(Wages Council Act 1947)やそれに基づく命令事項に関すること
    決定の遂行においては、思わぬ高金額の支払いを使用者に命ずる文書が出ることもある。

 

賃金評議会法 細則(1)によれば、労働審判所所長の権限とは、定められた手続きによって、次の苦情を、ヒアリングし裁定することである。

 

    賃金評議会法33条に基づく、人物に対する労働者の苦情
    請負業者や下請け業者と契約した労働に対する苦情
    賃金評議会法13条(1)に基づく、損害賠償に関すての労働者に対する使用者の苦情

 

7. 労使紛争解決のための使用者団体の見解

政労使による三者協議

三者協議は、以下の事を政府が行うプロセスである。

 

    ・政府が、国あるいは産業レベルでの社会経済政策を策定する際に、使用者と労働者の代表と協議したり、会議を開いたりすること。
    ・政府が、三者協議で議論された見解と関心を、労働政策や労働法に反映させるように努めること。
    ・政府が、三者協議の参加者に、社会経済的発展と労使関係の促進に貢献できる機会を準備すること。

 

マレーシアで三者協議が機能するためには、次のことが優先される必要がある。

 

    ・労働政策は、できるだけ多くの関係者の利益バランスを取るよう十分に開示される必要がある。効果的な方法を確実に築かねばならない。もし、三者協議が表面的なものに終始したなら、時間とリソースの無駄となる。
    ・三者協議が効果的に機能するかどうかは、政府の態度が重要になる。政策が形成される際に、使用者と労働組合の見解が考慮されねばならない。お互いの信頼と尊敬がある場合にのみ、三者協議は有効である。
    ・三者協議委員会は、雇用問題、労使問題に取り組んでいる、政府、使用者、労働組合の三者の代表からのみ構成されなければならない。

 

マレーシア経営者連盟(MEF)の見解では、残念ながら、現在の三者協議は、三者間の信頼形成に資するものではないと考える。協議は定期的に実施されているが、新たに作られる労働関係の政策や法は、国会やメディア報道でのみ発表され、使用者側の見解は、実際、最終段階の政策や法に反映されていないことがしばしばある。三者協議で事前に原則合意された案件や解決された問題が、最終段階の政策や法に反映されていないからである。使用者側は、メディアの前で失望を語るしかない。

三者協議は、相手に対し責任をもって公明正大に対さなければならない。また、長期的な視野を持って、問題解決に実際的なアプローチを取らねばならない。協調的な三者協議なら、何よりも意味があり、協調的な労使関係の環境を作ることに貢献するだろう。
MEFは、もし、政府が政府内部の要望調整にいつも失敗しているのなら、三者協議は不可能だと考えている。真の三者協議は、3者とも等しい立場で、労働政策や法を形成する当事者とならなければならない。
マレーシアの三者協議は、Win-Win関係で、具体的な結果が達成できる健全で堅固な関係を発展させることが、緊急な課題となっている。MEFは、三者協議をより効果的に行うためにも、三者協議で達したコンセンサスが、労働政策や法に反映するようになることを提案する。

経営のフレキジビリティ

新しいビジネスは、ヴァーチャル・オフィス、テレ・ワーキング等の就労形態を通じて柔軟な働き方になってきている。雇用の形態は変化しており、有期労働者やパート・タイム労働者が増えている。柔軟な就労形態の増大は、伝統的な使用者・労働者関係を変えるだろう。現存の法の範囲に入りきれない労働者が増えるからだ。雇用、給料、人材配置を、より柔軟に実施・サポートする労働法の見直しが緊急の課題となっている。
労働法は、企業がより生産性と効率的な運営が可能な就労形態を導入できるように、経営の柔軟性を促進しなければならない。MEFは、新しい雇用関係に対応できる法律の全体的な見直しをすることが重要だと考えている。