AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第156号~第157号

Contents

イタリア(第156・157号)

イタリアの労働事情について
イタリアの経済と労働市場の動向
2023・2024年の予測
今後の課題

 

イタリアの労働事情
について

イタリアの経済と労働市場の最新動向

2020年に突然発生したパンデミック危機は、イタリアの経済に大きな悪影響を及ぼし、イタリア国家統計局(ISTAT)によると、2020年のGDPは9%も縮小しました。

しかし翌年以降、経済は力強い回復を見せ、2021年のGDP成長率は8.3%、2022年は3.7%に回復しました。

一方でパンデミック危機は、労働市場にも重大な影響を及ぼしました。2019年末時点の被雇用者数は2,300万人、雇用率は平均59%(男性68%、女性50.2%)でした。完全失業率は9.9%、若年失業率は29.2%でしたが、パンデミック危機によって、2020年上半期に被雇用者は100万人以上減少し2,200万人に、雇用率は56.5%に低下しました。被雇用者総数は、無期雇用従業員が1,480万人から1,450万人に30万人減少、自営業者は520万人から500万人に20万人減少しましたが、それ以上に有期雇用従業員への影響は大きく、300万人から250万人に50万人減も減少することとなりました。

このような困難な時期を経て2020年半ばに最低水準に達したイタリアの労働市場は2021年以降回復し、2023年初めには雇用総数がパンデミック前の水準(被雇用者数2,300万人)を上回りました。

回復期の当初は有期雇用が回復を牽引しました。実際に、有期雇用は、危機の間も回復の間も、他の雇用よりも景気循環に、より敏感に反応しました。さらに2022年には無期雇用も完全に回復し、それ以降雇用状況は好ましい傾向が続いています。

パンデミック危機後の数年間は雇用が順調で、失業率は2021年1月の10.1%(パンデミック危機時のピーク)から今年2023年7~8月の7.4%(2009年上半期以降の最低水準)まで低下しました。

経済活動が低下している期間にあってもイタリアの労働市場が順調であったのは、社会保険制度を財源とする短時間労働スキームの存在に支えられ、企業が労働力を保持していたからです。

エネルギー価格やその他の商品価格の高騰によって大打撃を受けた製造業でさえも、最近のエネルギー危機を乗り越えて、雇用はむしろ回復しています。このことは、仕事量とスキルのミスマッチという点で、労働力が不足する可能性を企業が懸念していることを反映していると言えそうです。

この点については、欧州委員会のデータによると、近年、生産を制限する要因として労働力不足を指摘するイタリアの製造業企業の割合が、2019年の2%に対して2023年7月は10%に増加していることも明らかです。

2023~2024年の予測

過去3年間のジェットコースターに乗ったような危うい時期の後、イタリアの経済成長率は再び、過去数十年間の特徴だった緩やかな低下傾向を示しており、欧州経済も同じような状況となっています。

この減速は、インフレ率の急上昇に対応して金利が上昇したことによるものです。イタリアでは、パンデミック後の景気回復の勢いが徐々に弱まっていることもその要因のひとつと言えます。

2023年第2四半期のイタリアのGDPは前四半期比0.4%減少しました。現在経済活動は、特に産業部門において停滞したまま年末を迎えようとしています。CSCのシナリオでは、イタリアのGDPは2023年にわずか0.7%の成長しか見込まれていません。2024年の平均成長率は0.5%とさらに低下する見込みです。

経済活動が減速するにもかかわらず、労働市場の状況は依然として良好です。入手可能な最新のデータによると、2023年第2四半期のイタリアの被雇用者数は2,360万人でした。イタリアの季節調整済み雇用率は61.6%(男性70.6%、女性52.6%)でした。

前号に引き続き、イタリア産業連盟経済研究センター(Centro Studi Confindustria – CSC)による2023~2024年の予測をご紹介します。

2年間の予測期間において、被雇用者数の観点から見たイタリアの雇用は、平均して両年ともGDPの成長率を上回る見込みです。(2023年は1.5%増、2024年は0.8%増)。2023年の拡大は、それ以前に記録されたGDP拡大のタイムラグが影響しています。このように、全体として、イタリアの労働市場が好調であることをデータが示しています。

部門別に見ると、経済活動レベルを反映して、労働投入量は部分的に不均質となっており、こうした傾向が続くものと予測されます。

  • 産業部門では、付加価値額が2022年第3四半期から2023年第2四半期まで4四半期連続で減少しました。これにもかかわらず、労働投入量は2023年初めまで拡大し続け、それによって生産性が縮小しました。第2四半期に始まった労働投入量の減少は、今後数カ月続く見込みです。
  • 建設部門では、2021年初めからの付加価値額の異常な拡大が、2022年半ば以降止まっています。それと同時に、労働投入量も停滞しています。
  • 民間サービス部門では、第1四半期は労働投入量が経済活動の活発化と共に拡大しましたが、さらに第2四半期も、付加価値額が縮小したにもかかわらず拡大しました。一方、下半期は、雇用の若干の減少が予想されます。

今後の課題

グリーンへの移行、デジタルへの移行という「ツイン・トランジション」が労働市場に及ぼす影響や、依然として20%を超える高い若年失業率、ユーロ圏平均を10ポイント下回る65%にとどまる低い労働参加率、さらにスキルのミスマッチなど、克服すべき課題は依然として残っています。イタリア産業連盟は、これらの問題への取り組みに最大の努力を払っています。

具体的には、これらの課題に対処する政策に関して、イタリア産業連盟は、「contratto di espansione(拡大契約)」と呼ばれるツールを強化し、より適切なものにするべきだと考えています。拡大契約は、労働省の支援を受けて雇用主と労働組合が共同で締結した協定で、企業の移行・再編プロセスの一環として、秩序ある方法で世代交代を促進するものです。事業移行プロセスの一環として、早期退職、新規採用、研修プログラムなどのツールを組み合わせることにより、世代交代を促すことができます。

まず、グリーンやデジタルへの移行のためのビジネスプロセスのマネジメントに関しては、拡大契約がツールとして、早期退職だけでなく次の就労への移行(つまり、労働者の配置転換)の促進を目的とした措置の基礎を構成する構造的なものとなるように、連盟として主張しています。

次に若年者に関しては、高等技術学校(「Istituti Tecnici Superiori」、ITS)を中心とした第3次職業教育訓練の発展に多くの努力と資源を投入してきました。地域企業との交流を活発化させた結果、スキルのミスマッチを抑制して高い就業率を実現しています。実に学生の80%が卒業後1年以内に就職し、90%以上が専攻分野の仕事に就いています。

また、低い労働参加率に関しては、労働市場への参加を増やし、低生産性部門から高生産性部門への労働者の配分を改善するために、より積極的な労働市場政策と、官民雇用サービスとの強力な連携、すなわち失業者に新たなスキルを習得させるため、官民のソーシャル・パートナーが共同で管理するいわゆる共同基金の役割を高めていくことを政府に提言しています。この基金は本来被雇用者向けの職業訓練のために生まれたものですが、最近では失業者向けの職業訓練に資金を提供するプロジェクトに活用され良好な成果を上げています。公的資源によって適切に支援された共同基金を通じた労働市場政策への積極的な関与は、その他の政策との相乗効果が期待できます。

多様化し、複雑化する状況にあって、イタリア産業連盟は、会員数15万社を超えるイタリア企業を代表し、その発展のため、さまざまな活動をおこなっています。