AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第151号~第153号

Contents

バングラデシ(第151号~153号)

バングラデシュの課題と取り組みについて
COVID-19の流行やロシア・ウクライナ戦争の影響
コロナ渦とロシア・ウクライナ戦争によって引き起こされた課題

バングラデシュの経済発展に向けての可能性と取り組みについて
雇用を増やす経済成長
バングラデシュの労働人口

バングラデシュの労働法について
労働規則のポイント
改正労働法の変更点

 

バングラデシュの課題と取り組みについて

COVID-19の流行やロシア・ウクライナ戦争の影響

COVID-19の流行やロシア・ウクライナ戦争の影響で、バングラデシュではここ数年、雇用創出が困難な状況になっています。職を失ったり、低賃金の仕事に就かざるを得ず、その結果、貧困や格差が拡大し、生活苦から都市部から農村部への逆移動が起こっています。しかし、農村部では農業関連以外の雇用の機会は限られています。抜本的な経済改革がなければ、農村部に住む多くの人々は生産活動に従事することができず、海外で働いている労働者の帰国が増えれば、状況はさらに悪化する可能性があります。

コロナ禍とロシア・ウクライナ戦争によって引き起こされた課題

コロナ禍とロシア・ウクライナ戦争により、輸出入を含む国内の主要な経済活動が大きな打撃を受けました。また、バングラデシュのGDP成長率は2019年度から2020年度にかけて3.45%に低下しました。この結果、貧困や雇用情勢が深刻化しています。バングラデシュの今後の発展に長期的な影響を与えることが懸念されています。

雇用の喪失について、国際労働機関(ILO)は、バングラデシュで2021年度に500万人の正規雇用が失われたと推定しました。バングラデシュ政策調査研究所(PRI)の調査では、雇用の喪失は1,000万~1,200万の世帯に打撃を与えた可能性があると報告しています。また、国際移住機関(IOM)によると、帰国した移民労働者の70%近くが失業しています。

 ILOによると、バングラデシュを含む低中所得国では、労働時間の損失率が最も高く、世界の推定値が10.5%であるのに対し、12.5%に達すると予想されています。

最近の調査によると、農村部の世帯の約62%が所得を失い、42%が雇用を損失したと報告しています。また、ロックダウンはほとんどの小企業を閉鎖に追い込み、再開しても3分の1の企業は限られた範囲で操業していることがわかりました。需要が減り、利益が減り、労働者は職を失い、女性の割合が多い、美容院や仕立屋などがより大きな影響を受けたため、男女間の経済格差が広がりました。

多くの人々が職を失い、都市に住むにはますますコストがかかるようになったため、農村部へ移動する人々が増えました。このような逆移動は、農村経済にとって大きなプレッシャーとなりました。農村部の雇用創出に向けた抜本的な改革がなければ、多くの人が失業します。

バングラデシュは2020年、408,408人の帰国者を受け入れなければならなかったため、海外労働者からの送金も減少しました。

2022年のILOの報告書によると、コロナ禍とロシア・ウクライナ戦争のために、若者の失業率は10.6%に増加しました。これは、国全体の失業率4.2%の2倍でした。

これまで、バングラデシュは粘り強い努力により、貧困率を2005年の40%から2016年には24.3%まで削減することができました。しかし、いくつかの研究機関の推計によると、コロナ禍とロシア・ウクライナ戦争から生じる新たな貧困は2410万~4170万人になると指摘しています。貧困ライン以下で生活する人口の割合は、危機前の推定値20.5%に対して34.1~44.0%と拡大すると推定されています。

 貧困と格差が再び表面化し、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を困難にしています。斬新なアプローチがいままさに求められています。

 

バングラデシュの経済発展に向けての可能性と取り組みについて

雇用を増やす経済成長

バングラデシュでは、労働力人口の増加が経済の雇用創出能力を上回っているため、雇用創出が依然として課題となっています。そのためには、雇用を増やす経済成長が必要で、より雇用に配慮した成長政策を優先し、マイクロクレジット等を活用した雇用創出プログラムに力を入れ、特に農村部での新規雇用創出や、グローバル市場で需要がある仕事に焦点を当てた海外雇用機会のための特別スキームにまず注力すべきです。
コロナ禍やロシア・ウクライナ戦争は経済成長に打撃を与えたものの、過去5年間は年平均6.6%の安定した成長を達成しています。2020-21年には6.94%、2021-22年度には7.25%の成長率と、回復は顕著です。

バングラデシュの労働力の中心は若い労働力(15~29歳)で、2002~03年の1900万人から2016~17年には2010万人に増加しました。

バングラデシュ統計局(BBS)の予想によると、バングラデシュの若者の数は2026年には5080万人になることが見込まれています。その後、若者の増加率は徐々に低下し、2061年には4020万人にまで減少することが推測されていますが、若者が、知識、スキルを備えて、活躍できる機会を与えられれば、バングラデシュは持続的に発展することが可能です。

バングラデシュの労働人口

国連開発計画(UNDP)の報告書によると、バングラデシュの労働人口は2030年までに総人口の70%(1億3000万人)を占めるようになると言われています。この膨大な労働人口をただしく活用することで、バングラデシュの成長を早めることができます。もちろん、バングラデシュは、中等・高等教育、失業率など、多くの課題を抱えていますが、25歳以下の若者の教育、健康、雇用の機会を強化し、意思決定における役割を与えることにもっと注力していかなければなりません。そのためには、投資が必要で、生産性が高く、より高い賃金の仕事を創出するとともに、時代の要請にあった高いスキルを身につけるための訓練への投資が、バングラデシュの進歩にとって重要な課題となっています。

政府は必要な人材育成のために、年齢層を対象としたさまざまな開発プログラムを実施しています。コロナ禍の長期的な影響や迫り来る第4次産業革命に対処し、バングラデシュの経済発展を確かなものにしていくため、熟練した労働者を如何に育成していくか、バングラデシュ使用者団体は、重要な役割を担っています。

 

バングラデシュの労働法について

労働規則のポイント

バングラデシュ政府は2006年にバングラデシュ労働法を成立させました。同法は、労働者の募集方法、労使関係、最低賃金、賃金支払い、労働災害、団体交渉、職場環境などの詳細を明らかにしています。

バングラデシュ政府は2015年9月15日に「バングラデシュ労働規則2015」を公示していますが、この規則は、適宜改正されています。この規則のポイントをいくつか紹介します。

  • 事業所が独自の雇用方針/サービス規則を設ける場合、工場・事業所検査局(DIFE).の検査官からの承認が必要。
  • Bangladesh Law Association (BLA)における人材派遣会社を登録するための手続きと書式の規定。
  • 事件の調査および処罰に関する詳細なプロセスの規定
  • 規則では、1年間継続して勤務する労働者には、毎年2回、祭礼(フェスティバル)ボーナスを付与することが義務づけられました。各フェスティバルボーナスは基本給を上回らないものとされています。
  • 規則では、健康と安全に関する詳細なガイドラインが示されました。
  • 規則では、賃金に関する詳細な規定が示され、賃金計算の仕組みや控除について明確化されています。

改正労働法の変更点

労働者により多くの便宜を提供すること、また労働組合結成のための敷居を従来の30%から20%に引き下げることを目的に2018年11月14日には国会で「(改正)労働法」が可決されました。同法は、国際労働機関(ILO)のいくつかの見解を受けて改正され、労働者に寄り添った法律となりました。

2018年バングラデシュ改正労働法の変更点は以下の通りです。

  • 工場での児童の就労は認められず、児童労働者を雇用した場合の罰金は5,000バングラデシュタカ(約7000円)。
  • 工場・事業所検査局の組織的な位置づけの格上げ
  • 女性労働者が関係当局に報告せずに出産した場合でも、当局に3日以内に報告すれば8週間の休暇が与えられる。
  • 労働者の祭礼中の労働に対しては、1日の休暇と祭礼後の2日間の基本賃金が与えられる。
  • 労働者と雇用者に対する刑罰の軽減
  • 労働者の家族への見舞金を2倍に増額(自然死の場合、10万タカから20万タカに。ケガの場合、12万5千タカから25万5千タカに増額。)

労働法、労働規則、バングラデシュ輸出加工区(EPZ)労働法等について、さらなる改正が検討されています。中でも注目すべきは、2025年までに児童労働をなくすための行動計画、労働者に対する暴力行為に対する取り組み、労働裁判所での未済事件滞留の解消、最低年齢と強制労働議定書に関するILO条約の批准などです。バングラデシュ政府は、労働雇用省(MoLE)が中心となって、産業界や労働団体の代表を委員として加えた13人の委員からなる三者委員会を設置し、取り組みをすすめています。