Contents 新型コロナウィルスによる新しい働き方の模索について COVID-19に伴う新しい労働市場の課題 ポストコロナの新たな労働形態について |
新型コロナウィルスによる新しい働き方の模索について
2度にわたる厳しいCovid-19(新型コロナウイルス感染症)パンデミックの流行後、インドの経済は現在、回復の途上にあります。第一四半期における20%を超える実質成長率と、第二四半期における8.4%の成長の実現は、インド政府による国民へのワクチン接種の推進のおかげで、インドの経済はかなり回復してきています。
インド政府は、新型コロナウイルス感染症の経済への打撃を乗り切るために様々な改革を行っており、その事例と効果について紹介します。
大規模な経済構造改革
過去2、3年間、インド政府は大規模な構造改革を開始してきました。インドの改革のための政府のビジョンは、Gati Shakti 国家プランや Atmanirbhar Bharat mission(「自立したインド」ミッション)など、いくつかのイニシアティブとなっています。
インド政府はまた、インフラ開発を推進するために、国家インフラストラクチャー・パイプラインと、国家資産収益化計画を発表しました。広範囲にわたる開発アジェンダは、多くのセクターでのイニシアティブを支援するものですが、労働法の改正と統合、倒産法の起草、そして銀行改革も含まれています。これらのイニシアティブを通じ、経済の力強さや活力の向上、同時に公正で包括的な成長を目指しています。
こうした取り組みにもかかわらず、深刻化している課題に、不平等の拡大があります。パンデミックは主にインフォーマル・セクターの弱者に悪影響を及ぼし、既存の不平等をさらに悪化させました。インド政府は、農業者の収入支援、安全で安価な住居、安全な飲用水、電力の提供を含む包括的で公正な開発活動を通じて、すでにパンデミック以前から社会の不平等に対処していましたが、一層の取り組みが求められます。
さて、パンデミック以前から、デジタル時代は、技術、ビジネス、社会に前例のない変革をもたらしてきました。さまざまなビジネスが、今回のパンデミックによるグローバルな危機の影響を受けましたが、一方で、パンデミックがデジタル化を加速させ、今後数年のうちに経済活動が劇的に変化する徴候がいくつかの産業でみられています。
ヘルスケア・医薬品、BFSI(銀行、金融サービスおよび保険)、eコマースと小売、そして製造業は、もともと先端技術を早くから採用していましたが、企業は、パンデミック後の成長のためにニューノーマル(新しい状況)戦略にエネルギーを注いでいます。産業を相互に結び付けているのは、ニューエイジ・テクノロジーで、特に、クラウドは、4つの産業すべてが、インド経済を世界経済のゲームチェンジャーにするための大きな役割を果たしています。新時代の技術が、インドをクラウド・ソリューションのグローバル・ハブに変身させようとしています。
クラウド‐変革の根底にある基盤
革新的でデータ主動の技術の出現は、手作業時間を削減し、より高い付加価値を有する業務に専念することを可能にしてきました。
また、パンデミックは、ヘルスケア技術の採用を促進する触媒の役割を果たしました。例えば、高齢の慢性疾患の患者に迅速な遠隔医療を提供するために、ロボティクスや機械学習(ML)が、IoT/IoMT(医療のIoT)の活用が試行されています。今後は、人工知能(AI)が、診療医の負荷を低減させつつ、患者の負担の改善にも役立つようになるはずです。実際に、テレヘルスおよびリモートヘルスが、医療をインド各地に行き渡らせ、低価格化の助けとなってきています。
パンデミックはこのように、先端技術の一層の投資を促し、インド経済の主要産業である製造業の競争力を高め、高い生産性をもたらし、また高い顧客満足を可能とするきっかけともなっています。
インダストリー4.0には、さらなる競争力の改善に向けて、製造セクターをリードすることが期待されます。インダストリー4.0はすでに、製造業、サプライチェーン・マネジメント、建設業、輸送業などのセクターに影響を及ぼしており、近い将来、私たちの日々の活動のすべてに影響を及ぼすことになるはずです。インド政府は、長年にわたり、特にスマート・マニュファクチュアリングを目標として、「Atma Nirbhar Bharat(自立したインド)」、「Make in India」イニシアティブなどの政策的枠組みを実行してきました。これらのスキームは奇跡的な成果を収め、来るべき時代のインドの産業をさらにサポートしていくと期待されています。
先端技術に投資している企業こそが将来をリードしていくことは間違いありません。
インドの次の10年間における成長は、先端技術を積極的に取り入れようとするリーダー次第といえます。
COVID-19に伴う新しい労働市場の課題
失業
失業に関するCMIE(インド経済監視センター)のデータによれば、2021年5月の失業率は、2021年4月の8パーセントから11.9パーセントまで急上昇しました。この2か月間に、インドは、地域によって、さまざまな期間、さまざまなレベルのロックダウンに直面し、経済活動の崩壊を招きました。不動産業、建設業、中小製造業の打撃は大きく、卸売業や小売業等、いずれの業界においても、雇用者の多数を占める非正規労働者に甚大な影響が及びました。特に、日雇い労働者にとっては過酷であったことを示しています。
出稼ぎ労働者
インドにおいて、出稼ぎ労働者が出身州を離れる主な動機は失業です。出稼ぎ労働者は移住先の労働力の不足を補填しますが、ほとんどの場合、技能レベルの低い労働集約的セクターに、未組織労働者として雇用され、インフォーマル経済の主要な部分を構成します。パンデミックはインドを荒廃させ、強制ロックダウンは経済活動における甚大なスローダウンへとつながりました。工場、施設および職場は閉鎖され、数百万人の出稼ぎ労働者は、収入の喪失、食料不足、健康上の危機、そして将来の不安定さに対処しなければなりませんでした。結果的に、出稼ぎ労働者の出身州への大量帰郷につながりました。経済活動が徐々に復活している現在、出稼ぎ労働者の大量帰郷は深刻な労働不足を引き起こし、多くの雇用主は、労働者の復職の必要性を感じています。さらに常習的欠勤も極めて多くなっており、各業界にわたって労働者が不足しています。
さらに、産業界の代表者やその他の利害関係者は、労働者の技能再教育の必要性を痛感しています。
産業界は出稼ぎ労働者の移住サイクルを経験しましたが、労働者が戻り始めても、同一の勤務地や産業セクターに雇用されるとは限らず、請負業者なしの技能労働者は特にその傾向が見られました。賃金の上昇がみられた時期もありましたが、ひとたびロックダウンが解除されると、賃金はそれまでのレベルに戻りました。
さて、インド政府は2021年8月e-Shramポータルを開設し、労働者に対してe-Shramカードを提供しました。登録後、未組織労働者はPMSBY(生命保険制度)の下で、Rs 2 lakhs(20万ルピー)の事故時保障を得ることができます。将来は、未組織労働者のすべての社会保障は、ポータルを通じて提供されることになり、緊急事態や国家的パンデミックのような状況では、有資格の未組織労働者に必要な支援を提供することができます。現在1億2千万人を超える未組織セクターの労働者がe-Shramポータルに登録しています。
ポストコロナの新たな労働形態について
労働およびオートメーション
コロナ渦における希望の兆しの一つは、このグローバルな危機が企業をかつてなかったような改革に駆り立てたことです。ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)、人工知能(AI)、機械学習(ML)などのオートメーション技術の採用に遅れを取っている企業リーダーたちも改革に取り組み始めました。インド企業は運営コストを低減させ、ビジネスの持続性を維持するためにオートメーションに大きな関心を持っています。
新しい技術は私たちを豊かにし、労働を良い方向に変革させるポテンシャルを持っています。しかし一方で、新技術の恩恵は事業主に限られ、労働の現場には何も恩恵がないという悲観論な見方もあります。オートメーションやAIは、労働に携わる人々の権利および基本的な尊厳に脅威を与えると同時に、労働市場における予期し難い、そして広範囲にわたる崩壊を引き起こして、結果として失業の急増を引き起こすかもしれません。
組合が、雇用主が職場に新たな技術を導入するにあたって交渉できればよいのですが、協議を求めることに法的な権利がない場合が多く、伝統的な団体交渉に大きく依存しています。交渉において最も一般的な要求は、技術の導入による新規の業務に対して、組合員の再教育に関するものです。
ギグ・エコノミー
インドにおけるギグ・エコノミーの成長の潜在的可能性は絶大です。世界的な経営コンサルタント会社のボストン・コンサルティング・グループ(BCG)と非営利組織であるマイケル&スーザン・デル財団が最近共同で公表した報告書はその傾向を強調しています。
報告書によれば、インドのギグ・エコノミーは、非農業セクターにおいて今後3~4年間に3倍、すなわち現在の8百万人から2千4百万人になりうる、8~10年間には9千万人まで増大し、取引額は2,500億ドルを超える可能性があると報告書は述べています。長期的にはギグ・エコノミーは、インドの国内総生産(GDP)の1.25%に寄与すると予想しています。
パンデミックは一方ではサービスや製造セクターの両方にわたって、大規模な伝統的業務の喪失につながりましたが、その一方で、ギグ・エコノミーの発展を促進することになりました。
巨大な潜在的可能性にもかかわらず、インドのギグ・エコノミーはなおもその初期の段階にあり、多くの課題に直面しています。
ギグ労働者についての主な問題は社会保障の恩恵が欠落していること、医療費の負担、生計の維持についてです。最低賃金の保証はなく、また労働者には団体交渉を行う権利はほとんどありません。
結論
パンデミックの間、ほとんどすべての企業が Covid-19 の状況を注視し、安全性や工場の操業、必需品の供給など意思決定を行う委員会、あるいは Covid-19 対策チーム(CRT)、緊急事態対応チーム(ERT)などと名付けられたグループを設置しました。
労働組合を有するすべての企業は、委員会は経営側と組合側の両代表者により構成され、労働組合を有さない企業の場合には、委員会は各レベルを代表する経営側または経営側と労働者側の代表者により構成されます。
これらの委員会はパンデミック時には頻繁に開催されました(週に数回)が、状況が改善されるにつれて頻度は減りました。委員会は Covid 指針およびSOP(標準作業手順書)を作成し、定期的に再検討されました。指針には、隔離、ソーシャルディスタンスと衛生基準、必需品の供給に関する指示、および訪問者や旅行者に関する実施要領が含められました。
Covid-19 は終わっていません。私たちは Covid-19 とともに生きて行かなければなりません。前に進むための道は、組織内でさらに多くの議論を重ね、包括的で持続可能な復興のために人間主体のアプローチを追求することです。パンデミックが私たちに教えた新しいキャッチフレーズは弾力性と敏しょう性です。生き残りのため、すべての関係者は手を携えて前進しなければなりません。