Contents 新型コロナウィルスによる新しい労働環境への取り組み COVID-19時代の労働環境 COVID-19時代の新しい労働環境への取り組み |
新型コロナウィルスによる新しい労働環境への取り組み
2021年の1年間、労働省(MOM)は、SNEFなどの第三者パートナー団体・企業に対し、職場でのCOVID-19ワクチン接種に関する最新の勧告を提供するなど、COVID-19による職場の大きな変化について支援を行ってきました。 今回は、シンガポールが、過去約2年間において、COVID-19時代の労働環境にどのように取り組んできたかの事例を紹介します。
COVID-19時代の労働環境
シンガポールでは、営業が許可されたすべての企業は、職場でのCOVID-19感染のリスクを軽減し、従業員に安全な環境を提供するために、職場の安全管理措置(SMM)を実施することが義務付けられています。SMMは、国内状況に合わせて更新されています。
2021年12月時点のSMMでは、2022年1月1日までは在宅勤務が既定路線であり、在宅勤務が可能な従業員のうち最大50%が職場に復帰することが認められていました。雇用主は、在宅で職務を遂行できる従業員には、在宅勤務を義務付けることを徹底しなければなりませんでした。現場にいる必要のある従業員には、ART検査による週1回の自己検査が奨励されていました。2022年4月26日より全従業員が職場に復帰できるようになりましたが、引き続き柔軟な勤務体制の奨励、屋内ではマスク着用の義務など職場の環境に配慮することが求められています。
労働者のモチベーション
シンガポールの企業は、メンタルヘルスの十分なリソースを、それらを必要とする従業員に対しすぐに利用できるようにすることに加え、このような困難な時期に従業員を支援する取り組みを行っています。例えば、ある企業では、バディ制度を導入し、先輩社員と後輩社員を一組にして社員同士がお互いをサポートし合うようにしています。また、別の企業では、精神状態を良好に保つためのサポートを行い、在宅勤務に必要な機材の購入などに必要な費用を社員に支給しました。
テレワーク時のパフォーマンス管理
Tripartite Alliance for Fair & Progressive Employment Practices (TAFEP) によるテレワークガイドによると、雇用主と従業員双方にとって、高いパフォーマンスを可能にする持続可能なテレワークの仕組みには、明確な目標の設定、仕事をうまく遂行するために必要なツール、リソース、トレーニングの提供、貢献に対する認識と報酬などの原則が含まれます。
組織レベルでは、テレワーク従業員のパフォーマンスをサポートするためにマネージャーをトレーニング/コーチングすること、仕事の成果と結果に焦点を当てたパフォーマンス目標、パフォーマンス評価を調整すること、すべてのテレワーク従業員からフィードバックを収集して、テレワークでのパフォーマンスに影響を与えている可能性がある組織レベルの課題(例:テレワークでの面倒な作業や時代遅れの技術)を特定することなどについて方針と対策を採用することが奨励されます。
メンタル不調の未然防止
シンガポールでは、職場で多くのメンタルヘルスに関する取り組みがなされたり、強化されたりしています。従業員が信頼できる、自動応答等、オンラインで様々なメンタルのサポートが提供できるメンタルヘルスシステムの構築もその一つです。また、SNEFが職場の仲間同士の支え合いコミュニティを形成するために行っている、例えば、メンタル・ウェルビーイング(心の幸福感)の追求もその取り組みの一つです。また、従業員支援プログラム(EAP)のサポートを専門会社に求める企業も増えています。従業員支援プログラム(EAP)を通して、従業員の仕事ぶりや心の健康に悪影響を及ぼす可能性のある個人的または仕事上の問題に対して支援を提供することで、従業員に利益をもたらすことを目的としています。
COVID-19時代の新しい労働環境への取り組み
COVID-19時代に加速するICT/AIの活用
シンガポールではコロナ禍において中小~大企業のICT/AIの活用が加速しています。
例えば、チャットなどで自動応答を行うチャットボットが医療請求や年休に関する従業員の問い合わせに回答し、また、採用業務用のチャットボットは少なくとも採用プロセスの第一段階において、求人応募の仕分け、審査、ランク付けを行うことができます。これらのAIの技術と人事プロセスとの組み合わせにより、人事担当幹部は、さまざまな従業員のレベルに合ったトレーニングプログラムを実施できるようになります。また、産業界のデジタル変革に備え、人事担当者のスキルアップのためのトレーニングコースを開発している団体もあります。技術の進歩は、人事アナリストのような専門性の高い新しい人事の役割も生み出すことにつながるでしょう。
Alliances for Action (AfA) と呼ばれる官民パートナーシップのうち、サプライチェーンのデジタル化に関するAfAでは、「シンガポール貿易データエクスチェンジ」が創設されました。これは海運業界向けの新しいデジタルインフラで、シンガポールのサプライチェーンのエコシステムに毎年大きな価値を生み出す可能性があります。このデジタルインフラにより、企業は情報を交換し、荷役作業や運用の非効率性を緩和することができるため、物流企業や荷主の支援となります。
将来の労使関係の変化や紛争を防ぐための取り組み
シンガポールでは、所得格差の拡大という問題が依然として蔓延しています。低賃金労働者の賃金の引き上げは進んでいるものの、中間層労働者の賃金も2009年から2019年にかけて堅実に伸びており、低賃金労働者の賃金が中間層労働者の賃金に追いつくにはまだほど遠い状態です。
それゆえ、2014年から2019年にかけて清掃、警備等のいくつかの業種が低所得者の賃金を徐々に引き上げるための賃金改善モデルの対象となり、賃金が引き上げられました。しかし、適用された賃金改善モデルの業種は、フルタイム労働者の約10%に過ぎませんでした。そのため、2021年8月、政府は「低賃金労働者の賃金と福利を向上させるための三者共同ワークグループ」による18の勧告を受け入れました。その中には、2022年9月1日から小売、2023年3月1日から飲食サービス、2023年から廃棄物処理などの新しい業種への賃金改善モデルの拡大が含まれています。
更に、2023年3月には事務員と運転手に対する新しい賃金改善モデルが導入される予定です。これらの導入により、フルタイムの低賃金労働者の最大94%がカバーされることになるため、上記の政策は低賃金労働者の所得格差問題の緩和に極めて重要な役割を果たします。また、所得格差解消の目標達成が意識付けされることで、働きがいのある賃金が労働者に支払われ、雇用者により賃金の上昇を維持するための労働者のスキルアップと事業の変革が行われるため、シンガポールの労働市場に極めて大きな影響を与える可能性があります。
SNEFはまた、様々な部門別賃金改善モデルに関する現在進行中の三者協議にも関与しています。最近行われた小売業と飲食サービス業に関する議論では、各業界の賃金改善についての考えや、賃金改善を満たすために現在直面している課題について雇用主からフィードバックを得るとともに、働きがいのある、また低賃金労働者の賃金を向上させるという目標を満たすために、雇用主との協議が行われているところです。