AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第139号~第140号

Contents:

1. 新型コロナウイルス下におけるベトナムの社会情勢
2. 新型コロナウイルスがベトナムの労働市場に与えた影響
3. 解決策の提案

ウィズコロナ時代におけるベトナムのハイブリッドな働き方戦略
従来の働き方モデルは変化している
仕事場の再定義
パンデミックは今後も起きる可能性
柔軟な賃貸契約
メンタルの健康は重要
従来の考え方や行動は時代遅れになりつつある
機会
課題

1. 新型コロナウイルス下におけるベトナムの社会情勢

ベトナムでは4回の感染拡大があり、2021年4月下旬以降新型コロナウイルスのパンデミック第4波にみまわれています。
このパンデミックに対処するために、政府も経営者も国民も、さまざまな策を講じてきました。これまで、政府の施策として、さまざまなインセンティブを含む支援策を実施してきましたが、直近では、2022年の1年間、付加価値税を10%から8%に引き下げることを決定しました。

ベトナムの経済状況についてですが、パンデミック下でも、GDP成長率の観点から見た場合は悪くない状況にあると言えます。2021年のGDP成長率は2.58%で、2020年の2.91%と比べると若干低くなっていますが、このGDP成長率でも非常にポジティブに捉えています。

一方で、新型コロナウイルスパンデミック第4波は、2021年第3四半期にベトナムの労働市場に大きな影響を及ぼしました。南東部は最も深刻な影響を受けています。2021年第3四半期だけでも、15歳以上の2,820万人余りが、失業、一時帰休、代替の勤務シフト、労働時間の短縮、収入減など、さまざまな形で新型コロナのパンデミックの悪影響を受けました。第3四半期にパンデミックによる悪影響を受けた労働者数は、前四半期と比べて1,540万人増加しました。影響を受けた人の多くは、25~54歳の労働年齢人口で、影響を受けた労働者全体の73.3%を占めています。

2. 新型コロナウイルスがベトナムの労働市場に与えた影響

新型コロナウイルスのパンデミック第4波の複雑な展開が、労働力人口の深刻な減少を招いています。労働参加率は過去10年で最低の水準となりました。これは、メコンデルタ地域にある省の生産工場や企業がすべて生産を停止せざるを得なかったからです。

新型コロナウイルスの第4波は厄介で、2021年の第3四半期に3カ月間に亘って続き、数百万人が職を失い、非農林水産部門の労働者は引き続き深刻な影響を受けました。2021年第3四半期には、特にホーチミン市で失業率の割合が異常に高くなりました。労働者の平均月収は520万ドンと、前期や前年同期と比較して深刻な減少となりました。ベトナムの全国平均賃金は月660万ドンですが、南部の省の月収は520万ドンに過ぎず、全国平均と比べて2割低い水準でした。

ベトナムでは毎年、13万社以上の企業が新たに設立されています。しかし、新型コロナウイルスの影響で閉鎖、停止、生産中止に追い込まれた企業の数もほぼ同数となったことで、就職の機会が失われました。地域によっては、生産を続けているところもありますが、就職できるほど採用率は高くありません。
新型コロナウイルスの大流行という異例の事態のため失業率も急上昇し、通常の2%台の失業率をはるかに上回りました。 現在ベトナムの失業率は、数年前の2%未満には程遠く、失業率は高止まりしています。

全国規模では、2021年第3四半期の法定労働年齢失業者数が170万人超となり、前期比53万2200人増、前年同期比44万9600人増となりました。特に、若年層(15~24歳)の失業率は高止まりしています。就学・就労をせず職業訓練も受けていない若者(NEET)(15~24歳)の割合は上昇が続きました。2021年第3四半期の若年層(15~24歳)の失業率は8.89%と、前年同期から0.75%ポイント上昇し、法定労働年齢の失業率の2.2倍に達しました。

3. 解決策の提案

新型コロナウイルスの第4波は、ベトナム経済全般のあらゆる面、とりわけ労働市場に大きな影響を及ぼしています。そのため、政府にとっては2021年の成長目標を達成することが大きな課題となりました。このような状況を踏まえ、統計総局ではいくつかの解決策を提案しております。その一部の提案をご紹介します。

  • 特に工業団地の多い大都市や省では、新型コロナウイルスを抑制するために適切な措置を厳格に実施する。できる限り早期の集団免疫獲得に向け、十分なコロナワクチンを確保するためにあらゆるリソースを活用することで、ワクチン戦略を強化する。
  • 企業や労働者がパンデミックから回復するための救済支援策を効果的に実施する。労働者、特に若者が積極的かつ迅速に学習し、各自の資質を高め、高まるビジネスニーズや経済の生産回復に対応する上で必要なスキルを習得するようプログラムや政策を開発・実施する。
  • 政府は、企業や労働者が主体的に生産回復や発展に向けた計画を立てられるよう、各省に対して、公式かつ専門的な情報ルートを設置し、経済発展に向けた戦略、労働者の支援・誘致策、地域の検査や感染抑制計画に関する最新情報を提供するよう政策を策定すべきである。

ウィズコロナ時代におけるベトナムのハイブリッドな働き方戦略

ベトナムでは規制やロックダウンを何度も行い、様々なモデルや政策を適用しましたが、それでもパンデミックをコントロールはできませんでした。しかし現在、ベトナムのワクチン接種率は80%近くに達しています。新型コロナウイルスの感染者数は日に日に増えていますが、ワクチン接種でニューノーマルを確保することができると考えます。ベトナムでは、すぐにでもニューノーマルに戻れるように準備を進めており、ハイブリッドな働き方戦略をご紹介します。

従来の働き方モデルは変化している

従来の働き方モデルは一変しました。2020年以降、ベトナムの企業はCovid-19の感染拡大を防ぐため、従業員の在宅勤務を認めざるを得なくなりました。ハイブリッドモデルは出社勤務と在宅勤務の理想的な組み合わせであり、特に従業員に歓迎されています。マンパワーグループの調査によると、ベトナムの従業員の42%は週に3~4日の在宅勤務を希望しています。一方、ベトナムの企業経営者 は従業員の出社が望ましいと考えていますが、41%はハイブリッドな働き方を認めると回答しています。

仕事場の再定義

仕切りで区切られた従来の仕事場は、場合によっては時代遅れかもしれません。企業はビジネスニーズだけでなく、従業員の要望も理解しなければなりません。これは必ずしもオフィスの再設計を意味するわけではありませんが、再設計する場合はアイデア、会議、チームの協調を促すことに配慮する必要があります。そうすれば、企業は様々な戦略を試行錯誤するなかで継続的に進化することができます。

パンデミックは今後も起きる可能性

 今後さらに致命的なパンデミックが起きる可能性があります。企業は急な事態でも事業運営を継続できるよう、万全な事業継続計画(BCP)を確保する必要があります。これには対人距離の確保や消毒、非接触技術、換気設備などが含まれます。企業は今、将来の混乱に備えられるよう、恒久的な解決策を独自に導入することができます。

柔軟な賃貸契約

企業は柔軟な賃貸契約を結ぶことで、市場環境の変化や制約が生じた際の迅速な意思決定が可能になります。企業経営者 はこのニューノーマルに対応するため、貸主との柔軟な契約交渉に務める必要があります。パンデミックに伴い、複数の企業が賃料を支払うことができずに物件を失ったり、長期の裁判に巻き込まれたりしています。貸主と良好な関係を築くことは大切ですが、再交渉することで、企業は万が一の場合でも賃料の支払いに対応できるようになります。これは企業が需要に応じて様々な市場のニーズに対応できるという点でも役立ちます。

 

メンタルの健康は重要

ハイブリッドな働き方は前向きに受け止められることが多いですが、課題もあります。従業員からは、会議が増え、仕事と家庭の境界線が曖昧になり、仕事量が増えているとの不満が聞かれます。また、ストレス以外にも、孤立感やメンタルヘルスの問題を訴える従業員もいます。マンパワーグループの調査では、ベトナムの従業員の約78%が、職場における最も重要な要素 としてメンタルの健康を挙げています。

従来の考え方や行動は時代遅れになりつつある 

企業経営者は、従業員の感情に関するニーズを重視する必要があります。ハイブリッドな働き方モデルには、リーダーシップのあり方の転換が切実に求められています。労働者がより多くの時間と柔軟性を求めているため、従来の方法は時代遅れになっています。ベトナムでは、従業員の74%が、特に通勤に関して柔軟な労働条件を求めています。

機会

ハイブリッドな働き方モデルは企業にとってもひとつの機会となります。柔軟性のある企業経営者は、このモデルを人材の引き留めと誘致のツールとして活用できます。ベトナムの経済再開に伴い、優れた人材や高い技術を持った労働者の需要が高まっています。国境がまだ閉鎖され、外国人従業員を雇用するコストが上がっているため、企業は欠員を埋めるにあたって現地スタッフに目を向け始めています。適切なスキルのある人は、柔軟な勤務体系を提供できる企業を選ぶ傾向があります。

課題

  • ハイブリッドな働き方モデルを導入する場合、企業による技術インフラへの多額の投資が必要になる場合もあります。多額の投資は資金面において短期的には痛手になりますが、長期的には非常に役立つ可能性があります。すでに複数の企業が技術インフラに投資していますが、未だ不十分です。また、投資していない企業は、長期を見据えて投資する必要があります。
  • もう1つの大きな課題は、ハイブリッドなモデルに適応し、関連する方針を打ち出すことです。ほとんどの従業員は、同僚や上司との交流が制限されるため、完全な在宅勤務は望んでいません。大企業も中小企業もこの点に留意しなければならず、従業員の期待値を見定めながら最大限の力を引き出せるよう、方策を練っていかなければなりません。
  • さらに、交代制で働く工場労働者や飲食店の従業員、又は企業の経理や法務といった重要部署などの一部の職種にはハイブリッドな働き方モデルは適しません。