AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第132号~第133号

Contents

COVID-19に対する政府の対応

 1.農業従事者への支援
 2.雇用の維持や創出、失業者のフォローアップ
 3.労働者側の準備
 4.債務負担の軽減支援から収入の回復・増加支援への転換

タイ企業・政府のニューノーマルの受入とポストコロナへの一手

 Microsoft-Thailand
 タイユニオングループ
 タイの製造現場のニューノーマルへの移行
 保健省医療サービス局
 

COVID-19が労働に与えた影響は大きく、840万人が仕事を失う危機にあると報告されている。特に影響を大きく受けるのは、以下の3つの産業に従事する労働者である。

(1)観光業約250万人(小売・卸売業部門を除く)
(2)製造産業部門約150万人(食品・飲料・必需品・電子製品等一部の生産拡大中の一部の産業は除く)
(3)観光業以外のサービス業440万人(学校、生鮮市場、スポーツスタジアム、モール等人が大勢集まる場所が閉鎖されることで影響を受ける業種)

政府はCOVID-19によって影響を受けた人々のサポートのため、様々な対策を講じている。以下は、タイ経営者連盟(ECOT)が特に重点的にフォローすべきと考える課題である。

 

COVID-19に対する
政府の対応

1. 農業従事者への支援

現在政府は、COVID-19による影響を受けた労働者および干ばつによる影響を受けた農業従事者3,700万人に対する救済措置を講じている。3,700万人の内訳は、1,000万人の農業従事者、1,100万人の被保険者、1,600万人の自営業者である。COVID-19の被害を受けたにもかかわらず、救済措置の対象範囲から漏れている農業従事者がいないか、確実に支援が行き届いているかを慎重に検証する必要がある。

2. 雇用の維持や創出、失業者のフォローアップ

コロナ関連の規制措置が緩和されてきたものの、観光部門や自動車等の輸出産業の労働者等、外需の減少により、以前の仕事に戻ることができない労働者も多い。また、観光業は、外国政府の対策にも影響を受ける。雇用が維持できなければ失業者が増える。5月~7月の期間に、約52万人の新卒者が雇用市場に参入すると見積もられているが、就職先がない可能性もある。就職できない可能性がある者を支援し、十分な雇用を創出するための対策が必要である。

3. 労働者側の準備

COVID-19の流行期間中に、企業は働き方を改革し、業務にICTを積極的に導入・活用するようになった。業種によっては、勤務地に制限がないケースも出てきた。労働者は、事業ニーズに対応するために各々のスキルを合わせていく必要がある。さらに、キャリアチェンジや新たな働き方に対応するために、労働者自身が新たなスキルを身に着ける必要がある。

4. 債務負担の軽減支援から収入の回復・増加支援への転換

昨今、タイの経済は、輸出、観光および農業部門において継続的に打撃を受けている。政府は、人々を支援するために多様な対策を講じてきた。現金収入のない者に対するソフトローンや雇用促進のための融資、緊急融資の提供等、生活していくために必要な資金の一時的な提供である。さらに、債務の未払状態が90日を超えていない将来的に返済できる可能性が高い少額債務者、および中小企業を支援する対策も講じられている。しかし、多くの対策が短期的であり、負担の軽減のみに焦点を当てている。政府は世帯収入を回復・増加させるための支援に向けた対策を早急に構築しなければならない。

 

タイ企業・政府の
ニューノーマル受入と
ポストコロナへの一手

 

タイの企業やタイ政府は、COVID-19の流行に対応していくために、「ニューノーマル」を受け入れ、COVID-19終息後にもつながる次の一手を打とうしている。その一部を紹介する。

Microsoft-Thailand

  • 「テックトレンド」に乗る。勤務地にこだわらないハイブリッドワークプレイスの概念が広く受け入れられつつある。テクノロジーを利用することにより生産性が向上するため、ポストコロナもこの傾向は続くだろう。また、在宅で勤務することにより、貯蓄の増加にもつながる可能性がある。
  • ビッグデータは、先行テクノロジーを活用した事業改革に必要である。
  • COVID-19流行期間中の調査によると、1/3の新卒者が失業すると予測されている。特に、インフォーマル・セクターに従事する労働者が最も影響を受ける。技術的な技能を有する者は就職できる可能性が高い。
  • タイ人にとってテクノロジーを活用しながら業務を遂行し、同時に自身のスキルを向上・再構築する絶好の機会である。誰もが多様な分野でテクノロジーを学び利用する能力を有している。経営幹部たちは従業員の成長型マインドセットを信じなければならない。
  • タイ政府は民間部門および公共部門両方における労働者の技術力を向上させ、将来のタイ経済全体を一気に進展させるための技術戦略を策定するため、COVID-19の流行という危機を利用すべきである。
     

タイユニオングループ

  • 新たな技術の台頭は既存の様々な環境を加速度的に破壊していく。企業や労働者はニューノーマルおよび新たな規制に対応するための技術機器を導入、学んでいく必要がある。
  • COVID-19の流行を受けて企業はダイナミックな戦略を展開することが求められる。透明性の高い持続可能なサプライチェーンは企業の戦略転換を容易にする。
  • 英語やデジタルメディア等に関する研修やスキルアップは必須である。変化できない者はニューノーマルに対応できないだろう。
  • COVID-19の流行を受けて、人々は革新的なアイデアや新製品よりも基本商品を求める傾向が強くなった。企業は消費者の動向を認識し、適切な主力製品を展開する必要がある。
  • 政府はCOVID流行中の倒産を防ぐために、資金提供や緊急融資等中小企業への対策により注力すべきである。

タイの製造現場のニューノーマルへの移行

  • COVID-19の流行は生産工程に関する課題を浮き彫りにした。サプライチェーンの中で一つの生産拠点に依存することは、調達におけるリスクを生む。製造業者はより柔軟に生産拠点を分散させる必要が出てくる。
  • ソーシャルディスタンスは産業プラントにおいても必要なものとなっている。ソーシャルディスタンス実現のためにも、産業プラントにおいて特にブロックチェーンやIoT、アディティブ・マニュファクチャリング(金属3Dプリントや金属積層造形)、人工知能など、産業プラントにおけるロボットやオートメーションの使用が増加することが予測される。
  • 新たな状況に適応していくためには、混乱からの回復に向けて機敏に対応していくことが求められる。製造業者は目まぐるしく変わる状況に適応できるように従業員を訓練すること、柔軟で効率的な作業プロセスを作り上げること、適応性のある組織構造にすること、テクノロジーを最大限に活用することが求められている。
  • 供給の混乱の影響を受けて、業界の垣根を越えたアライアンスが増加している。これらの新たな産業間の協力がサプライチェーンを支えている。パートナーシップを強化することによって、不確実性リスクを軽減することができる。

保健省医療サービス局

タイ政府はWHOおよび日本政府の支援を受け、医療施設および医療従事者によるCOVID-19への対応力の強化を支援し、医療制度を改良し、COVID-19流行の収束後に「より良く復興」するための包括的プロジェクトを立ち上げた。「ニューノーマル」な医療サービスモデル「パッターニーモデル」は、COVID-19の発生をきっかけに発展した改革である。

本モデルの一環として、様々な疾患の患者らは直接の医療処置の必要性およびCOVID-19の感染リスクに基づき青、赤、黄色の3つの「信号」グループに分類される。医療施設に出向く必要のない患者はリモート診察(遠隔医療)により対応し薬を受け取る。薬は地域のボランティアにより届けられることが多い。医療施設に出向く必要のある患者に対する準備は、患者の経路や物理的距離を考慮する。より集中的な治療が必要な場合は、施設内の換気システムを改善する等、患者および医療従事者の双方にとってより安全な方法により医療サービスが提供される。

「パッターニーモデルはタイ政府がCOVID-19への対応にあたり、どのように適合し改革しているかを示している。効率的なガバナンスおよび医療サービスにおける構造・工程の改善は、より安全でより効率的な医療サービスを意味する。こうした改善は患者および医療従事者双方にとって利益となる」とタイのWHO代表Daniel Kertesz博士は述べている。

数カ月前、タイでCOVID-19の流行がピークに達したとき、いくつかの病院では感染発生の管理および医療従事者の保護が困難だった。必須の医療サービスが一時的に中断された病院もある。同じことが起きないようにするために「ニューノーマル」な医療サービスモデルは、リスクに対する理解と認識を高めシステムの準備態勢をより整えるために、医療施設のリスク管理能力を強化することを目標としている。ニューノーマルな医療サービスの改革は、新たに発生する感染症に対して、リスク情報に基づいた事業継続計画による対応ができるようになり、COVID-19の流行という難局後に起こりうる新たな感染症に対しても対応することができるようになるだろう。