AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第13号~第15号

Contents

   1. ベトナムの労働組合の状況
   2. 最近のベトナム労使紛争のデータ
   3. 労使紛争解決のための使用者団体の提言

1. ベトナムの労働組合の状況

 ベトナムの労働組合は1929年に設立された。 6回の名称の変更を経て、現在はベトナム労働総連合(Vietnam General Confederation of Labour, VGCL)と正式に呼ばれる。
VGCLは労働者の合法的代理人であり、労働者の権利と利益に関する国の政策やガイダンスを策定するのに貢献してきた。
ベトナムの労働組合制度には次の4つの階層レベルがある。
 
レベル1: ベトナム労働総連合(Vietnam General Confederation of Labour, VGCL)
レベル2: 地方の省・県や都市レベルの労働組合
レベル3: 地区や産業レベルの労働組合
レベル4: 草の根レベルの労働組合
 
労働組合法は、1990年に最初に発布され、2014年で24年目の施行となる。 現在の労働組合法は、労働組合の参加、結社、活動の権利、労働者の代表となる権利、労使紛争を監督し解決を諮る権利、民衆レベルの民主主義を遂行する権利等、多くの面で強化・改善されている。
にもかかわらず、いくつかの欠点がある。 労働組合法は十分に普及しておらず、労働者はこの法律にアクセスする機会がほとんどない。 また、多くの管理者や組合スタッフはこの法律に関し深い知識がない。 多くの企業や組織の労働組合は、労働者の権利や利益を自発的に代表する役割を担っていない。
その主な理由は、1990年の労働組合法が20年間の市場経済の急速な発展に則していないからである。 この法律は未だ古いスタイルの経済的な考え方を反映している。 特に労働組合における民主主義と参加する権利に関する分野や様々なビジネスの規制の分野で時代遅れの考え方を反映している。 また、ある法律条項の内容は1992年憲法(2001年修正)、労働法典、企業法(2005年)、投資法に一致していないところがある。
労働組合と労働法典の新しい法案の議論は、2012年から始まり、労使の相互理解を促進させる多くの進展があった。 進展は、労働及び労働組合法に関連する団体交渉政策の分野にも見られた。
また、多くの労働法の違反が完全に処理されていないことで、労働組合は、その役割を十分に果たしていないという欠点を露呈している。

2. 最近のベトナム労使紛争のデータ

 (1) 最近の労使紛争の特徴

労働者のストライキの権利に関する政府の法的承認の根拠となるベトナム労働法典が発布されて10年以上経つが、その間、何千もの労使紛争と1,500件余りのストライキが国内で起きている。 それらすべてが、労働法典に照らして合法的なものでなく、また、法に則して解決されたものではない。
労働傷病兵社会省(MOLISA)の統計によれば、2013年に国内で355件の労使紛争があった。

 

ベトナムにおける労使紛争数(ソース:VGCL) 

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
件数 60 59 59 62 67 71 89 100 139 125
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
件数 147 387 541 762 216 424 981 539 355


 2014年の最初の6か月に160件のストライキがあり、昨年の同期より15.8%減っている。
ストライキの70%はFDI(対ベトナム海外直接投資)企業で発生し、その内訳は韓国の50企業、台湾の17企業、日本の16企業、中国の9企業である。残りの30%はベトナムの現地私企業で起こっている。
多くのストライキは労働集約産業で発生している。 その内訳は、織物・繊維業68件、はき物及び皮革製品業18件、電子産業14件、土木工事13件、プラスチック業12件、木材加工業10件、南部地方省・県及び都市の工業団地107件(ホーチーミン市45件、ビンドゥオン県32件、ドンナイ省30件)である。
多くのストライキが、利益を巡っての紛争(63.12%)であり、権利を巡っての紛争は21.88%で、残りの15%は、利益と権利を巡っての紛争である。
ストライキは、平均445名の労働者によって行われ、2日間続く。 すべてのストライキは定められた法律に則して実施されたものではない。
ほとんどの山猫ストは財政的な合意が取れないことから起きている。 それらの多くは機械や職場を破壊したり、ストライキに参加していない経営者や労働者威嚇したりの兆候が見られる。
ホーチーミン市はベトナム経済の中心地であるが、2007年から2012年の間に、681件の労使紛争が見られた。 国の労使紛争の22%に相当する。 ホーチーミン市労働・傷病兵・社会局の統計によれば、2013年だけでも98件の団交による労使紛争があり、34,000人の労働者が参加している。 多くはFDI(対ベトナム海外直接投資)企業で発生している。 ベトナムで労使紛争の件数が高い主な理由は、会社間の収入と生活水準と比較することで判明する労働者間の不平等な給料・手当が原因となる。 他方、多くの企業は、残業労働、ボーナス、報酬、失業問題、生産プロセスの変更、食事の質、社会医療保険の滞納等の問題を労働者と話し合っていない。
さらに重要なことは、多くの企業は会社単位の組合があり、労使の有益な調停手段と見なされているが、実際、労使紛争が発生すると、スムーズに決着がつかないことが起こり得る。 すでに組合を有している企業は、組合があることで安心して、職場での労働者との対話の重要性を十分認識していない傾向があるからである。 ベトナムでは労働組合は、使用者から給料を得ている労働者と管理職とも組合員になれるが、使用者と対立することで職を失う恐れがあるために労働組合自体が労働者の法的権利と利益を守ることに消極的である。
今まで集団労働協約を締結した企業の数は若干増えているが、質と量が伴わない。 このことは、特にFDI企業と現地私企業に言えることで、そのためストライキの件数が高くなる。
例えば、2013年にホーチーミン人民委員会は、Young Woo Co, Ltd (韓国資本100%、10,000ドル以上)の労働者の強制社会失業保険の支払いの滞納と外国人労働者の不法登録に対し、行政的罰則を与えた。 

3. 労使紛争解決のための使用者団体の提言

  使用者団体VCCI(ベトナム商工会議所)は、労使紛争を減らすためには、労働組合は与党と労働者の懸け橋になるだけでなく、労働者の真の代表にならなければならないと考えている。 また、経営者、行政当局と労働者からなる3者協議メカニズムが必要である。 中央レベルでは、政府が労使委員会を作り、使用者側としてVCCI、国家機関を代表してMOLISA(ベトナム労働・傷病兵・社会省)、労働者を代表してVGCL(ベトナム労働総連合)が参加している。 しかし、地方の州・県・都市では、地方の経営者を代表する事務局も組織もない状態である。
ベトナムで協調的労使関係を築く環境を整備するために、使用者、経営者団体を代表するNGO機関として、VCCIは以下のことを提案する。

 

  •     ・労働法制度をより完璧に構築する努力を継続し、経営者、労働者が労働法に対する関心を高めるようにする。
  •     ・集団的労使紛争を解決し、協調的労使関係をサポートする責任機関の能力を高める。
  •     ・使用者団体と労働組合は一層、組織強化し、発展させる。
  •     ・使用者と労働者にとって十分に有益になる労使協定や労使関係関連の労働情報を提供する。
  •     ・労使交渉の透明性を高め、合意を明示するコミュニケーション活動を積極的にサポートし、労使の誤解を避けるための有効な活動を行う。
  •  

VCCIは、産業界で協調的で安定的で、すぐれた労使関係を築くために、以下の活動を継続するつもりである。

 

    ・都市や地方に経営者団体を設立し、組織力を高める。また、パイロット的に工業団地に経営者団体を設立することを計画する。
    ・労働法制度をより完璧に構築するための経営者、行政当局と労働者からなる3者協議メカニズムに参加する。 地方の行政当局や労働組合との定期的対話の機会を増やす。 地方レベルの使用者団体の設立や集団的労働協約の締結を優先的に支援する。
    ・優れた協調的労使関係を築いている組織・企業を表彰するなどして継続的に支援し、使用者団体の社会的責任を果たす。
    ・労働法典を研究し、労使関係の有効な情報を党や政府に提言・助言する。
    ・国際協力を強め、ベトナムの使用者の声を国際分野に反映させる。また、協調的労使関係を構築するに際し、海外の事例を活用する。

 

使用者団体と従業員は、ビジネスを推進する両輪であるという見解の下で、VCCIは、協調的労使関係を構築するためにVGCLや他の社会パートナーとの協力をこれからも強める意向である。
VCCIは、2015年から2017年において労使関係サポート連携プログラムを導入するために、最近、VGCLとノルウェー労働総同盟(LO)、ノルウェービジネス・産業連盟(NHO)と協力関係を築いた。 このプログラムは、ハノイ市、バクニン省、フンイエン省の約25から30企業をカバーし、集団交渉を締結させるのに必要な対話スキル、交渉スキルをサポートし、優れた労使関係を構築した企業の事例を提供する。
今年、VCCIは、労使関係ですぐれた実践を行った85企業を選ぶ審査会に加わった。また、VCCIは、政府から国際労働協約の交渉・締結を行った企業から意見を聴収するように政府から委託されている。