AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第125号~第126号

Contents

   1.バングラデシュにおけるCOVID-19の雇用への影響と政府の取り組み
   2.マレーシアにおけるCOVID-19の経済への影響
   3.ミャンマーにおけるCOVID-19の労働への影響と労使関係

   5.スリランカにおけるCOVID-19の経済や雇用への影響と政府の取り組み

   6.トルコにおけるCOVID-19の影響 ~企業の人事労務管理の対策事例~

1. バングラデシュにおけるCOVID-19の雇用への影響と政府の取り組み

バングラデシュでは、長年、失業が大きな社会問題となっているが、新型コロナウイルスによってその状況が悪化している。2020年2月の時点で失業率は3.5%だったが、2020年10月には6.9%まで上がった。これに追い打ちをかけたのが海外出稼ぎ労働者である。多くの出稼ぎ労働者が出稼ぎ先で失業し、バングラデシュに帰国した。帰国した出稼ぎ労働者のうち70%が帰国後も失業したままであると報告されている。また、アパレル産業において、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ等の貿易相手国からの需要が減少していることも失業率が上がっている原因である。注文のキャンセルが相次ぎ、労働者の所得が下がって扶養家族にも大きな影響が出ている。都市封鎖、移動制限、職場や市場の閉鎖によっても失業者が増えている。国際通貨基金(IMF)よると、失業者の数は1,000万人から1,500万人に上る。ホテル、レストラン、リゾート等のサービス業では250万人の失業者が発生し、中小企業では450万人の失業者が発生していると言われている。都市で失業した労働者が地元に帰り、地元で農業に従事するという動きも見られ、これによって地方の人々の仕事にも影響が出ている。

 

他国と同様、バングラデシュも都市封鎖、移動制限、隔離を実施した。同時に、政府はアパレル産業に対して5億8,800万米ドル相当の景気刺激策を実施し、賃金支払いと解雇禁止を命じた。雇用の大半を占める零細中小企業に対しては23億6,000米万ドル相当の景気刺激策を発表した。中央銀行も支援策を打ち出し、罰金無しのローン支払い猶予を発表した。また、電力会社も4か月の罰金無しの支払い猶予を発表した。

2. マレーシアにおけるCOVID-19の経済への影響

2020年12月時点、マレーシアの新型コロナウイルスの状況は改善しておらず、1日の新規感染者数が1,500人を超えている。この影響によりマレーシア経済の先行きは不透明であり、大きな打撃を受けている。2020年第2四半期だけでGDPが17.1%落ち込み、2020年全体では5.5%縮小すると予測されている。しかし、マレーシア政府が賃金助成や職業訓練等の対策を打ち出しているため、今後、状況が改善されるだろう。

 

新型コロナウイルスの影響を受けているマレーシアの雇用問題には様々なものがあるが、最も大きな問題はスキルの低い外国人労働者の活用である。この外国人労働者の問題は、米国国務省の「人身取引報告書(TIPレポート)」とも関係してくる。2021年4月に発表される「人身取引報告書」において、マレーシアは「Tier2」から「Tier3」に格下げされる恐れがある。「Tier3」に格下げされると米国から制裁を科される可能性があるため、マレーシア政府はこの強制労働問題に対処しようと外国人労働者の新規受入れを停止し新しい規制を導入した。この措置によって、プランテーション開発や製造業は大きな影響を受けた。特に、多くの日本企業が参入している製造業では、外国人労働者をマレーシアに呼び込むことができず労働者を確保できなくなる。その結果、人件費が跳ね上がることになる。

3. ミャンマーにおけるCOVID-19の労働への影響と労使関係

新型コロナウイルスによってミャンマー経済は大きな打撃を受け、ミャンマーの経営者と労働者の双方に悪影響を及ぼしている。経営者は事業を継続させていくのに苦労しており、労働者は職場の閉鎖により安定した収入を得ることが難しくなっている。ミャンマー政府は経営者向けに既に2回、景気刺激策を打ち出しているが十分ではない。また、国民1人当たり15ドルから20ドルの給付金を出しているが、透明性を確保した形で分配されていないし、その額も十分ではない。

 

ミャンマーの労使関係について、ミャンマーには労働組合が存在しているが、まだ十分に普及しておらず力も弱い。以下、新型コロナウイルスの影響により労使間で生じた紛争について紹介したい。ドイツの投資によって作られたある琥珀工場は、事業継続が難しくなり労働者を解雇した。そこで働いていた労働者達は会社が解雇手当を支払わずに急に工場を閉鎖したと労働組合に訴えた。しかし、実際のところ、その会社は業績手当以外の給料や解雇手当等を全て支払っていた。労働組合はこの状況をよく把握しないまま労働者に追加手当を支払うよう会社側に要求していた。現在、この工場は閉鎖されており、投資家は既に帰国しているが、問題は解決に至っていない。

 

次に、SDIという会社の事例を紹介したい。SDIは「MANGO」というアパレルブランドに商品を供給しているサプライヤーである。労働組合の力が弱く知識不足であるために、SDIの労働者はどんな些細なことに対しても全て抗議しなければならないと思っている。その結果、コロナ禍で多くの企業が倒産している。現在までに29%の企業が完全閉鎖に追い込まれた。解雇された労働者については、その84%が肉体労働者である。

4. フィリピンにおけるCOVID-19の雇用への影響と企業の人事労務管理の対策事例

新型コロナウイルスの影響によりフィリピンは検疫を続けており、その影響により2020年7月の失業率は10.0%であった。失業率が一番高いのはマニラ首都圏であり、15.8%に上った。特に影響が大きかった業種は「芸術」や「娯楽」で、前年同期比72.9%の落ち込みであった。「宿泊」、「外食」も同様に失業率が大きくなった。就業率は、男性が75.3%である一方で、女性が48.5%と低くなった。

 

フィリピン政府は様々な新型コロナウイルス対策を打ち出している。経済を再開させるために全面的なリスク回避からリスク管理に政策を転換し、新型コロナウイルスの影響を受けた労働者へ補助金を支給している。また、職場における感染対策のガイドラインも出している。

 

以下、フィリピン企業TeaM Energy Corporationが新型コロナウイルスによって発生した人事労務管理上の問題にどのように対処したか事例を紹介する。

  • 従業員が新型コロナウイルスに感染してしまった場合の事業への影響を最小限にするため、部署ごとに事業継続計画を策定した。また、パンデミック時のガイドラインを実行し、従業員へ継続的な情報発信や啓蒙活動を行っている。
  • 従業員のメンタルヘルスに関する方針を発表した。会社の健康保険でメンタルヘルスもカバーできるようにし、オンライン診断もできるようにした。このオンライン診断は、心身の健康に不安のある従業員がオンラインで医療相談することができるサービスで、従業員だけではなく従業員の家族もそのサービスを受けることができる。
  • テレワーク時にどうやって生産性を上げたらよいか仕事の進め方についてガイドラインを発表した。

5. スリランカにおけるCOVID-19の経済や雇用への影響と政府の取り組み

スリランカに新型コロナウイルスの第一波が訪れた時、政府は完全なロックダウンを実施し、外出禁止令を出した。その結果、経済活動が停止してしまった。しかし、第二波が訪れた時は政府の政策が経済活動を継続させるという方向に転じ、第二波の真っただ中にある2020年12月は徹底的な感染対策を行いつつ経済活動を進めている。

 

スリランカで最も深刻な打撃を受けているのは観光業とアパレル産業である。2020年12月時点において空港が閉鎖されたままであるため、観光業の回復は新型コロナウイルスの感染状況に依存している。アパレル産業については、製品の原料を入手することができなくなったこと、他国からの注文が無くなったこと、この2点が打撃の原因である。逆に、このコロナ禍でも非常に好調なのが農業である。政府は農産物の輸入を禁止した代わりに、国内農業の振興施策を展開し、より多くの農産物を生産するよう農業従事者に奨励している。

 

また、雇用に関して、企業経営者はコストカットのために従業員の解雇を検討せざるをえない状況である。調査によれば全国の失業率は7%~9%になる見込みだ。このような状況の中、セイロン経営者連盟(EFC)は、政府のロックダウンによって事務所に出勤できず自宅待機せざるを得ない従業員の賃金は通常の50%支払えば良いという合意を全国三者協定で得ることができた。

6. トルコにおけるCOVID-19の影響 ~企業の人事労務管理の対策事例~

トルコ金属製品製造業者協会(MESS)は、1959年10月14日に設立されたトルコ初の使用者団体であり、金属部門における唯一の使用者団体である。以下、MESSが新型コロナウイルスによって発生した人事労務管理上の問題にどのように対処したか事例を紹介する。

 

トルコで最初の感染者が確認された2020年3月17日以降、MESSはテレワークを開始した。このテレワークの期間、次のことを実施した。

  • スタッフの電話料金を補助した。
  • マスク、消毒液、手袋をスタッフの自宅に郵送した。
  • インターネット接続の問題が起きないように携帯用Wi-Fiルーターをスタッフに提供した。
  • 以前から契約している民間の健康保険で新型コロナウイルスの治療もカバーできるようにした。
  • オンラインでテレワークに関する調査を実施した。
  • 以前は対面で実施していた研修をオンラインプラットフォームで実施できるようにした。
  • スタッフの家計を助けるために特別割引価格でオンラインショッピングができるようにした。
  • MESSの事務局長と頻繁に会議を行い、緊密に連絡を取るようにした。

 

2020年3月17日からの徹底したテレワーク実施後、2020年6月1日からは人数を制限しての事務所出勤を再開した。これ以来、次のことを実施している。

  • 事務所再開に関するガイドラインをスタッフに送付し、体調が悪い場合の対処法について情報提供を行い、研修を実施した。
  • 事務所の入り口に検温用カメラと消毒液を設置した。
  • 共有エリアでのマスク着用を推奨した。
  • 事務所のカフェスペースで集まることを禁止した。
  • やかんの代わりにコーヒーマシンを導入した。
  • 事務所でスタッフがよく触れる場所を中心に掃除の回数を増やした。
  • スタッフのデスクに消毒剤、マスク、手袋、ティッシュ、使い捨て紙コップ、保温ポット等を設置した。
  • 公共交通機関での出勤を禁止し、スタッフ用シャトルバスの利用を義務付けた。
  • 事務所外で昼食をとる必要がないよう弁当を支給した。
  • コロナ禍ではスタッフの健康管理が重要であるため「Fit-Broccoli」というコーチングアプリを導入した。
  • 病院から医療従事者を事務所に派遣してもらい、PCR検査や抗体検査を実施した。
  • スタッフ同士のソーシャルディスタンスを保つための「MESS Safe」というウェアラブル端末を開発した。これは個人の位置を特定するデバイスではなく、スタッフ間の距離を測定するものである。スタッフの距離が2メートル以下になった場合、デバイスが音と光と振動で警告を発する。加えて、スタッフ同士が近距離にいた場合は、人事課と安全衛生管理課からそのスタッフに連絡が行くようになっている。