AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第121号~第124号

Contents

   1.中国におけるインダストリー4.0
   2.中国において技術の進歩が持続可能な開発に与えている影響
   3.中国における持続可能な開発目標(SDGs)の取り組み

1. 中国におけるインダストリー4.0

(1) インダストリー4.0とは

第一次産業革命では水力や蒸気力によって機械化が行われ、第二次産業革命では電力や組立ラインによって大量生産が可能になった。第三次産業革命ではコンピュータが導入され自動化が進み、第四次産業革命(インダストリー4.0)ではデータや機械学習を動力とする自律的システムによってコンピュータや自動化を強化していっている。簡単にいえば、インダストリー4.0とは「インターネット+製造」を意味する。インダストリー4.0が進むにつれ、コンピュータは相互に接続・通信し、最終的には人間の介入なしに意思決定を行う。「サイバーフィジカルシステム」、「モノのインターネット(IoT)」、「システムのインターネット(Internet of Systems)」が組み合わさることによって、インダストリー4.0が可能になり、スマートファクトリーが現実のものとなる。インダストリー4.0によって、製造業者は何に注意すべきか気づくことができるようになり、業務を迅速かつ効率的に最適化することができる。サプライチェーンを繋ぐことによって、サプライチェーンに新しい情報が加えられた時に、自動で調整することも可能になる。インダストリー4.0で鍵となるのは、機器同士を接続することを特徴とするIoTである。これは自社内の業務だけに役立つわけではない。データが保存されているクラウド環境を利用することによって、同じ機器を使っている他のユーザーの見識を得ることができるようになったり、小規模企業が自社だけではアクセスできないようなテクノロジーを使用できるようになったり、機器や業務の最適化が可能になる。

(2) 中国におけるインダストリー4.0とは

まったく同じではないにせよ、「中国製造2025(Made in China 2025)」は、広い意味で中国におけるインダストリー4.0である。「中国製造2025」は2015年5月から導入された政策で、イノベーションの促進、中国ブランドの育成、サービス指向型製造の強化等をハイテク製造のためのタスクとして挙げている。これは中国を製造大国から製造強国へと転換することを目的としている。この政策で推進されている10分野は、情報技術、数値制御システム、航空宇宙機器、海洋工学機器およびハイテク船舶、鉄道機器、省エネおよび新エネ車、電力機器、新素材、バイオ医薬品および医療機器、農業機械である。マッキンゼーの調査によれば、中国はドイツやアメリカほどインダストリー4.0の準備ができていないが、中国にある製造業の多くが未だにインダストリー2.0の段階にあるためインダストリー4.0への期待はかなり大きいとのことである。デジタル化とインテリジェントな製造(Intelligent Manyuafcturing)を実現するためには多くの改善が必要である。

(3) 中国におけるインダストリー4.0の発展

現在、中国ではインテリジェントな製造が勢いを増している。第一に、人件費が大幅に増加し、生産ライン自動化のコストが下がったことにより、企業は生産拡大の際により高度な自動化を選択するようになってきている。「可能であればどんな時でも人の代わりにロボットを使う」ということが、特に長江デルタ地域と珠江デルタ地域の製造業者の間ではコンセンサスとなっている。第二に、自動化や情報化の向上が、政府から補助金が出される等、強力に支援されている。そのため、多くの工業団地でロボット工学等のプロジェクトが非常に盛んである。第三に、国内外の競争が激化しているため、主要メーカーが品質向上、生産効率向上、生産工程のインテリジェント化を最優先事項としている。第四に、中国政府がインテリジェント化に関して企業への支援を強化している。高等教育を受けた労働者が増え労働力の質が高まり、インテリジェントな製造の基盤が築かれている。

2. 中国において技術の進歩が持続可能な開発に与えている影響

(1) インダストリー4.0に潜むリスク

ビジネス界では、持続可能な開発を成し遂げるために、デジタル技術へ莫大な投資が行われてきた。しかし、技術革新へ大きな期待が寄せられる一方で、予期せぬ影響を不安視する声も上がっており、新しい技術を慎重に管理しなければ開発目標を揺るがす恐れもある。アクセンチュアの2018年レポート「仕事の未来:行動への呼びかけ(Inclusive Future of Work: A Call to Action)」では、労働者の業務の57%が自動化の影響を受けやすく、雇用保障が脅かされ、職業訓練の機会が不平等で、需要の高い技能の習熟度が低いと推定されている。このようなダウンサイドリスクがあるため、より生涯学習を重要視しなければならなくなってきている。生涯学習と技術の進歩に適応できる技能を人々に提供することが当然のこととならなければならない。「技術革新はまたとないチャンスだが、アクセシビリティの問題を無視することはできない。技能を持った人と技能を持たない人のギャップによって、前例のない危機が引き起こされる可能性があるからだ。このような格差を縮小し、誰もが新しい技術を利用できるようにすることが、官民共通の目標でなければならない。」

(2) インダストリー4.0と気候変動

デジタル革命によって、温室効果ガスの排出量を大幅に削減することができる。例えば、電化は気候中立(Climate Neutral)のための解決策や非常に良いビジネスチャンスになりうる。5Gの発展とともに電化の傾向が強まることによって、低炭素の交通システムが出現し、交通分野による影響を劇的に低減することができる。

(3) インダストリー4.0と貧困削減

中国政府は、インテリジェントな製造(Intelligent Manufacturing)や起業家等の支援に加え、「ピンポイント貧困扶助(Targeted Poverty Alleviation)」政策を実施してきた。ここ数十年、中国は、科学技術、特にインダストリー4.0の新しい技術の力によって貧困扶助で目覚ましい成果をあげてきた。例えば、世界銀行とアリババグループが共同発行した報告書「Eコマースの発展:中国の経験(E-Commerce Development: Experience from China)」(2019年)によれば、中国の多くの人々がEコマースに参入することで貧困から解放されてきた。また、Eコマースを行っている農村地域の家族は、Eコマースを行っていない農村地域の家族よりも、80%多く収入を得ていることが明らかにされている。

(4) インダストリー4.0と雇用創出

インダストリー4.0、特にデジタルエコノミーは、中国の経済と社会の発展の重要な柱である。中国社会科学院の人口と労働に関するグリーンブックによれば、中国のデジタルエコノミーの規模は、2008年には4.8兆人民元だったが、2017年には27.2兆人民元まで増加し、GDPに占める割合も2008年の15.2%から2017年の32.9%まで増加した。また、2017年の中国のデジタルエコノミーの雇用は1億7,100万人に達し、雇用全体の18.7%を占めている。ボストン・コンサルティング・グループは、2035年には中国のデジタルエコノミーの雇用が4億1,500万人になると予測している。中国では、シェアリングエコノミーにより新たな雇用機会が生まれている。Uberのような配車サービスを提供するアプリを運営するDIDIを例に挙げると、同社のプラットフォームにより2016年には1,750万人の雇用が生み出された。インターネット上のプラットフォームによる雇用は労働時間や場所の面で柔軟で、労働者は通勤時間を大幅に省きより良いワークライフバランスを実現することができる。

(5) インダストリー4.0とジェンダー平等

ビジネスにおいてダイバーシティに価値があるということは一般的に認識されており、女性がビジネスに参画しリーダーシップを発揮することは業績を伸ばすために極めて重要だ。しかし、その重要性にも関わらず、ジェンダー平等は期待されるよりもはるかに進んでいない。世界経済フォーラムは、現在の傾向を踏まえ、ジェンダーギャップを埋めるには2世紀以上かかると予測している。様々な調査によれば、技術の進歩によって教育や職業等のジェンダーギャップを埋めることができる。インターネットは、労働者の平等な労働市場参入を大いに促進させる。デジタルエコノミーは、特に発展が遅れている地域において、女性に雇用と起業の機会を平等に提供する。例えば、アリババグループは従業員のほぼ半数が女性であり、同社のプラットフォームは数十万人の女性にキャリア開発の機会を提供している。

3. 中国における持続可能な開発目標(SDGs)の取り組み

2015年9月、習近平国家主席が「国連持続可能な開発サミット」に出席し、他国の代表達とともに「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(Transforming Our World: the 2030 Agenda for Sustainable Development)」を採択した。中国は、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の実行を重視しており、中長期の国家開発戦略にもアジェンダの内容を取り込んでいる。17の持続可能な開発目標の中でもSDGs目標 1、目標5、目標8は、中国企業連合(CEC)のような使用者団体の任務に密接に関わっている。

(1) SDGs目標 1「あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ」

中国政府は貧困削減を重視しており、貧困を解消して人々の生活を改善し共同繁栄を達成するという重要な使命を担っている。2015年のデータと比較すると、2018年末までに中国農村部の貧困層は5,575万人から1,660万人に減少し、貧困率は5.7%から1.7%に減少している。それと同時に、基礎的な養老保険の適用範囲は9億4200万人に拡大し、基礎的な医療保険の適用範囲は13億4,000万人に拡大した。女性達は貧困から女性を救うための運動に動員され、女性の貧困扶助のための活動拠点が政府により13,800箇所作られ、貧困女性に経済的支援や雇用支援が提供された。2018年末までには3,838億人民元の保証付融資が交付され、657万人の女性がその支援を受けて事業を開始した。これにより、女性の社会保障が向上してきている。

 

以下、中国のEコマース大手のアリババグループがデジタル・プラットフォームによって貧困扶助を実施してきた事例を紹介する。アリババは、インターネット機能の包括的な開発に取り組んでおり、TaobaoやAlipay等のプラットフォームで「インターネット+貧困扶助」モデルを模索してきた。

 

・Eコマース

アリババは、貧困地域における産業の育成・開発を支援しており、Eコマースのプラットフォームを提供し、各県1つの特産品を売り出し、ライブス トリーミング・マーケティングを促進している。2018年、100を超える貧困県がアリババのプラットフォームで1億人民元以上の売上を達成した。

 

・エコロジー

アリババは、アント森林(Ant Forest)のプラットフォームによって貧困地域の生態系保護に取り組んでいる。環境にやさしい地域農業や産業を行うことによって雇用を創出してブランド開発を行い、生態系保護と経済成長の好循環を生み出している。2018年末までに、アント森林は18万以上のグリーンジョブを創出し、その労働者は2,700万人民元以上の収入を得た。

 

・健康

2017年、アリババと中国扶貧基金会(China Foundation for Poverty Alleviation)は、病気によって引き起こされる貧困を無くすために、一家の稼ぎ手が保険に入れるよう支援するプロジェクトを開始した。プラットフォームを使用して市民から基金を募り、登録されている18~60歳の貧困者に最大10万人民元を補償する慈善保険を提供している。

 

・教育
アリババは、農村教育プログラムによって、財政的インセンティブを提供し、能力開発を支援することで、農村や貧困地域の発展を促進している。このプログラム開始以来、623もの貧しい県がプロジェクトへの申込書を提出しており、2,000以上の学校、8万人以上の教師、100万人以上の生徒がこのプログラムの恩恵を受けてきた。

(2) SDGs目標 5「ジェンダー平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」

中国は男女平等の発展を可能にする環境を作り、男女平等を評価する法的仕組みを導入してきた。女性の正当な権利と利益を守るために、ジェンダー分析を行いジェンダーの視点から政策決定を行っている。女性の政治的権利も保護しており、女性による政策決定や政策マネジメントへの参加機会は増加し続けている。女性向けリーダーシップ研修も提供されており、女性の政治参画が尊重されている。第13回全国人民代表大会の議員の24.9%、および中国人民政治協商会議の国家委員会メンバーの20.4%を女性が占めており、前回よりそれぞれ1.5ポイント、2.6ポイント高くなっている。

 

また、女性の経済的権利も保護しており、女性の雇用と起業を促進している。2019年2月に出された「採用のさらなる標準化および女性雇用の促進に関する通知(The Notice on Further Standardizing Recruitment Behavior and Promoting Women's Employment)」には、採用選考中のジェンダー差別を禁止する条項や法律に従って女性の雇用を守ることを求める条項が入れられている。女性の雇用を守るためのキャンペーンも実施されており、オンラインストアを開設し運営できる能力を身につけて収入を増やすことができるように女性向け研修を企業が提供するよう奨励されている。2018年末までには3,838億人民元の保証付融資が女性の起業支援のために交付され、657万人の女性がその支援を受けて事業を開始した。830万人の貧困女性やリーダーになれる可能性を秘めた女性が研修を受け、415万人を超える貧困女性が収入を増やすことに成功した。

(3) SDGs目標 8「全ての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する」

中国は雇用政策を重要視しており、着実に労働者の雇用を促進している。労働者自身が職業選択の権利を持ち、雇用が市場によってコントロールされ、政府が雇用を促進するというガイドラインを掲げ、雇用の安定に力を注いできた。その結果、2018年の労働市場への新規参入者で雇用された者は1361万人に達した。都市部登録失業率は3.8%で、近年で最も低かった。また、専門学校の卒業者の雇用促進のためにも様々な方策をとっており、2018年の中等専門学校の卒業生の全国平均雇用率は96.9%で、卒業後6か月以内の高等専門学校の卒業生の雇用率は90%以上であった。加えて、中国は、障がい者の雇用保障、支援、研修も強化している。2015年から2018年で130万人の障がい者が新たに雇用され、都市部および農村部で212万人の障がい者が研修を受けた。移民労働者に対する教育も技能・能力向上のために強化している。また、労働者の技能向上のために職業能力開発センターも建設している。さらには、受刑者向けの技能開発研修や就労復帰指導も強化しており、非行少年に対しても技能開発研修や技能を必要とする労働の機会を与え正しい道に戻るチャンスを与えている。

 

中国は、労働者の正当な権利と利益を守るために、政策の実施と法の執行を強化している。例えば、労働協約制度を推進するために様々な措置を講じており、2018年末までに中華人民共和国人力資源社会保障部が1億5,500万人の労働者に関係する175万件の労働協約の内容を確認し有効なものと判断している。また、労働者も経済発展の恩恵を受けられるように、最低賃金制度を試験的に実施している。