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1. カンボジア経済の概要
カンボジアはこの20年で大きな変革を遂げ、2015年には低・中所得国になった。2030年までには高・中所得国になることを目指している。衣類の輸出と観光業に牽引され、カンボジア経済は1998年から2018年にかけて平均8%の経済成長率を維持しており、世界で最も急速に成長している経済の1つと言える。成長率が若干緩やかになってきてはいるものの堅調な伸びを維持しており、2018年の成長率は予想を上回る7.5%に到達し、2019年は7%に達すると予測されている。輸出の急速な拡大や堅調な内部需要、海外直接投資の急増により、経済は予想以上に好調であった。しかし、貿易の不確実性が上昇し、リスクが増大してきている。経済を多様化するためには、起業家精神を育成し、テクノロジーの活用を拡大させ、労働市場のニーズに合う新しい技能を持った人材を育成する必要がある。カンボジアが2030年までに中所得国になるという大きな目標を達成するためには、人的資本の質が最も重要になるだろう。
2. カンボジアの国際競争力
(1) 最低賃金の比較
国が発展し国際競争が激しくなっていく中で、各国が自国の市場での競争力を分析している。カンボジアの衣類・履物産業の最低賃金は、衣類輸出の競合国であるスリランカ、バングラデシュ、ミャンマー、パキスタン、インド、ラオスと比較して著しく高い。2020年の最低賃金に関しては、カンボジア政府・労働者・使用者の三者でしっかり議論を重ね、繊維・衣類・履物産業の2020年の最低賃金を月190ドルとすることで最終的に合意した。これは2020年のベトナムの最も高い地域別最低賃金に等しい。2018年に最低賃金の上昇が7.0%だったのに対し2020年が4.4%であることは、政労使の三者が善意を持って協調すれば良好な労使関係を築くことができるということを示している。また、2020年の最低賃金の上昇が4.4%であることは、カンボジアの製造業の競争力にとっての脅威を最小限に抑えることができたことを示しており、この上昇率により良好な労使関係を維持することが可能になる。
(2) 使用者の社会保障に関する義務
労働事情や特徴が似ている他国と比較して、使用者が負担しなければならない社会保障の割合はカンボジアが最も低い。カンボジアにおける使用者の社会保障の負担割合は、2019年が3.4%で、2020年が約5.4%となるだろう。(参考2019年:ベトナム21.5%、スリランカ15.0%、インド12.5%、インドネシア10.2%、フィリピン7.4%、ラオス6%)
(3) 輸出状況
カンボジアの繊維・衣類の輸出は、2018年の上半期と2019年の上半期だけを比較すれば僅かに減少しているが、全体的にみれば増加し続けている。EUの輸出優遇措置(EBA)停止という不確実な問題があるにも関わらず、繊維・衣類・履物産業の潜在的な投資先としてカンボジアが有力であることをこのことは明確に示している。カンボジアの輸出市場は、この10年で大きく変化してきた。アメリカはカンボジアの最大の輸出先だが、輸出割合はこの10年で半分までに落ち込んだ。一方、EUへの輸出は僅かに増加し、ここ3、4年でイギリスにも輸出するようになった。日本への輸出はゆっくりと増加してきている。
3. カンボジアの労働法の変更点
(1) 社会保障法
社会保障法は2019年11月2日に公布された。社会連帯の原則に基づいて社会保障制度を確立し、市民の福祉や生活環境を向上させることがこの法律の目的である。
・航空・海上輸送の従事者、家事労働者、自営業者、公共部門の従事者にこの法律が適用される。ただし、カンボジア王国軍の兵士にはこの法律が適用されず、別の法律によって規定される。
・この法律は、業務災害、健康保険、年金、失業を含む社会保障制度の一般原則、諸手続き、運営体制、管理体制を定めている。
・この法律は、定年退職の年齢を60歳とし、基準を満たす者に年金を支給することを定めている。この制度は、強制加入の年金制度と任意加入の年金制度の2つに分けられる。
・公共部門の従事者や年金・健康保険・失業保険の強制加入被保険者が強制的に負担させられる納付額の割合は、全体の50%を超えないものとする。
(2) 最低賃金
最低賃金は毎年上昇しており、2017年は9~10%、2018年は11%、2019年は7%上がった。最近(2019年)、労働職業訓練省は、繊維・衣類・履物産業の労働者の最低賃金決定に関する省令を発行した。以下の情報はこの省令に基づいている。
・繊維・衣類・履物産業の労働者の2020年の最低賃金は月190ドルと正式に決定された。
・試用期間中の労働者の最低賃金は月185ドルとする。試用期間終了後、正規労働者は最低賃金として月190ドルを受け取る。
・生産した製品の量に基づいて賃金を得る(出来高払いの)労働者は、その労働の結果に基づいて賃金を受け取る。出来高が第2条第1項に記載された最低賃金を超える場合、労働者は超過した分の賃金も受け取る。出来高が第2条第1項に記載された最低賃金より低い場合、試用期間中の労働者には月185ドル、正規労働者には月190ドルまで使用者が加算する。
(3) 年功補償金
労働職業訓練省は年功補償金に関する省令を発行している。労働法の対象者が年功補償金の対象となっている。年功補償金は労働法第89条に規定されており、契約期間が決められていない労働者のみに適用される。有期契約の労働者に関しては、契約した賃金と期間に見合った退職金を使用者が支払う。退職金の金額は労働協約によって規定される。労働協約が結ばれていない場合、契約期間中に労働者へ支払われる賃金の少なくとも5%を退職金として支払う。
年2回の年功補償金の支給は、以下の手続きに従って2019年から実施される。
・使用者は労働者へ1年につき15日分の賃金・手当に相当する額を年功補償金として支払う。15日のうち7.5日分を6月に、残りの7.5日分を12月に支給する。
・雇用1年目で1ヵ月から6ヵ月まで継続勤務した労働者に関しては、7.5日分の年功補償金を使用者が支払う。
2019年より前から企業に勤務している労働者に関しては、以下の手続きに従って遡及で年功補償金を支払う。
・繊維・衣類・履物産業の企業に関しては、使用者が1年ごとに30日分の年功補償金を遡及で支払う。30日のうち15日分を6月に、残りの15日分を12月に支給する。
・他業種の企業に関しては、使用者が1年ごとに15日分の年功補償金を遡及で支払う。15日のうち7.5日分を6月に、残りの7.5日分を12月に支給する。