AOTS海外労働関係情報メールマガジン 第174号

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フィリピン(第174号)

フィリピンにおける労働・人事状況
フィリピンにおける労働・人事状況 成長トレンドの分析

 

フィリピンにおける
労働・人事状況

フィリピンにおける労働・人事状況 成長トレンドの分析

フィリピンの多様な経済状況は、伝統的な労働環境と現代的なものが混在しています。都市中心部の活気ある多国籍企業から農村地域の地元企業まで、労働環境は文化遺産、経済力学、社会的優先事項、政治的発展などが互いに絡み合って成立しています。この複雑な要因の相互作用は、全国の労働慣行や人事戦略に大きな影響を与えています。

職場を取り巻く環境が変化する中、労働・人事部門もまた大きな変革期を迎えており、グローバル化の圧力、急速な技術革新、公平性と持続可能性に対する社会的要求の高まりに対応しています。こうした中、フィリピンの労働現場は従業員の福利厚生、多様性と包括性、環境への責任、デジタルトランスフォーメーションなど、人材育成の重要な側面を優先する傾向が強まっています。このような変化は世界情勢を反映しているだけでなく、柔軟で未来に対応するワーク・エコシステムを構築するというフィリピン政府の方針とも一致しています。

職場でのメンタルヘルスへの取り組み

特に、労働現場におけるメンタルヘルスに対する意識は近年大きく前進しています。これは、「フィリピン精神衛生法(Philippine Mental Health Act)」としても知られる「共和国法第11036号(Republic Act No. 11036)」の制定が大きな後押しとなっています。企業にメンタルヘルス・プログラムを義務付けるもので、従業員にとって安全で協力的な職場環境を提供することの重要性を強調しています(*1)。また、労働雇用省(Department of Labor and Employment; DOLE)は、ストレス管理への取り組みやカウンセリング・サービスへのアクセス、さらにメンタルヘルスの課題に対する偏見をなくす啓発活動を重視するガイドラインを発行しています。

しかしながら、こうした前進が見られるにも関わらず、メンタルヘルスに関するオープンな議論を阻む要因は依然として存在しています。シンガポールの消費者調査会社とメンタルヘルスケア企業による「職場におけるメンタルヘルス調査(The 2023 Mental Health at the Workplace Survey)」 では、フィリピンの従業員の多くが、労働現場で心理的な不安を感じていることが浮き彫りになりました。上司や管理職、同僚にメンタルヘルスの問題を相談するのをためらう主な理由として、フィリピン人回答者の38%が「差別への恐れ、他人に負担をかけたくないという気持ち、誤解されることへの懸念」を挙げています。さらに、同回答者は「メンタルヘルスに対する方針が職場で十分に実施されていない」または「労働環境がオープンでない」と指摘しており、労働現場におけるメンタルヘルスへの取り組みに対して高い評価を与えたのはわずか16%でした(*2)。

労働現場に利用しやすいメンタルヘルス・リソースがあることは、従業員の業務上の責務と個人の満足感のバランスを取る上で極めて重要です。心理的安全は、従業員のエンゲージメント・生産性・定着率を高めることが示されており、従業員の満足感とビジネスの成功に共生関係があることがよく分かります。

フィリピン企業はメンタルヘルス・リソースの導入を進めており、メンタルヘルス・デイの設定、従業員のレジリエンスを高めるワークショップやマインドフルネス・セッションの実施、24時間相談ホットラインの設置、ストレスの多い職務に合わせたウェルネス休暇を設けている企業もあります。

テクノロジーもまた、労働現場のメンタルヘルスに変革をもたらす役割を果たしています。例えば、遠隔医療プラットフォームやモバイルアプリなどは、アクセスしやすく手頃な価格でメンタルヘルスの相談をすることができます。しかし、偏見への対処や資格を持った専門家の不足など取り組むべき課題は多く、今後も持続的な努力が必要です。

 

(*1) Republic of the Philippines. (n.d.). REPUBLIC ACT No. 11036. Republic act no. 11036.
https://lawphil.net/statutes/repacts/ra2018/ra_11036_2018.htmll

(*2) Milieu. (2023). Employees in Southeast Asia don’t feel psychologically safe at work. Milieu Insights.
https://www.mili.eu/insights/employees-in-southeast-asia-dont-feel-psychologically-safe-at-work